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密談 その6

家人が持ってきたメモをアクロムに手渡そうとした。

アクロ「もう内密にせずとも良い。メモ読み上げて客人にも聞かせてやれ。それに、もう剣で脅す必要もない。というより、この男にこの手の脅嚇は通用しないのが分かった」

バラカーンの喉元に突き付けられていた剣が下ろされた。


家人「馭者から合図が発せられました。プランAは失敗。プランBを発動」

アクロ「という事で、バラカーン卿。お待ちかね、いよいよ本命の出番となった。ヒントを出し過ぎたし、君には既に分かっているだろう?物は爆弾だよ。元々は、古い建物に用いてピンポイントで威力を集中させて、一瞬で解体してしまうものだ。このトンダバの技術とキシュワの天才が組み合わせて、なんと破壊力の範囲を200メートル四方まで増大させるとともに遠方からでも操作可能にしたのだ」


バラカ「時限式ではなく、遠隔操作という事はご自身で操作されるおつもりですか?」

   (200メートル四方……。予想していたより範囲が拡いな)

アクロ「そうだ、それがプランBだ。俺が手元にあるスイッチを押せば、直ぐに御料車に設置してある鳳凰の彫刻が爆発する。距離が在り過ぎて残念ながら、ここからの目視はかなわない。音と振動は伝わってくるだろうがね」


バラカ「200メートル四方という事はパレードに参加している宮廷関係者のみならず、相当数の観客も巻き込む……殺傷する事になります。それを承知でスイッチを押しますか?貴方は本当に押せるのですか?」

バラカーンが何かを見定(みさだ)めるように、アクロムの顔を(にら)みながら言った。


アクロ「バラカーン卿の言いたい事は分かる。巻き込まれる人々は気の毒だと思うし、俺も心が痛む。だが、躊躇(ちゅうちょ)はしない。国が大きく変わるのに犠牲は避けられない。人身御供となって貰う」

今の言葉に一切の偽りがない事を証明するかのように、アクロムは顔色1つ変えずに言い放った。

(その心の痛みはどれほどなのか。僅少(きんしょう)で直ぐに忘れられる程度ですか?) バラカーンは問い掛けの言葉を飲み込んだ。


バラカ「プランAが成功。つまり貴方が送り込んだ馭者が事を成していた場合、スイッチが押される事は無かったのですか?」

アクロ「ああ、……多分な。タラレバの話はどこまで言っても仮定でしかない。リモコンが俺の手元にある限り、いつでも押せるし、押さずにもいれる。それだけが事実で重要な事だよ」


バラカ「全てがアクロム卿次第という事ですか。……では最後です。そのスイッチをこちらへ渡してください。これは職務上の立場からの忠告が半分、残りの半分は……友人としての願いです」

アクロ「計画の時間まで残り1分だ。友ならば、俺の答えは分かっているだろう?」

バラカ「それでも願わずにはいられません」


たかだか10数秒程度、しかし2人には途方もなく長く感じられる沈黙の時間が流れる。

バラカ「どうか、聡明なるご決断を!!」

自然とバラカーンの声が大きくなる。

アクロ(この男の性格からすると負ける賭けは、まずやらないと考えていい。それに先刻から違和感が感じられて止まらん)

頭をフル回転してアクロムは考えをを巡らせる。経過したのは数秒程度だが、アクロムにはその何十倍もの時間に感じられた。そして結論を出した。

 

アクロ「……いいだろう。君に(ゆだ)ねる」

そう言ってアクロムはバラカーンにゆっくりとトランプサイズのリモコンを手渡した。


バラカ「意外です。9:1で拒否されると思ってました」

アクロ「では君は劣勢の賭けに勝ったのかな?」

アクロムが不敵に笑う。

バラカーンは受け取ったリモコンの形状やスイッチ配置などを入念に確認している。


アクロ「そのスイッチを押すだけで、トンダバとキシュワの技術の融合が真価を発揮する。残り時間は(わず)か。ギルバード君たちが御料車に追いつく時間にもかなり近い。さあどうする?」

アクロムのいう計画の時間が近付く。バラカーンがカウントダウンを始める。

「5…、4…、3…、2…、1……」 0と重なるタイミングで、「こうします」と言ってバラカーンが、静かにスイッチを押す。

「そうするだろう」と予測していたのか、アクロムに全く驚く気配がない。


ド、ド、ドォーーーーン、ズズズォーーーンと地鳴りのような音と振動が響き渡る。

アクロ(音が近すぎる)

家人が慌てた様子で騒がしく動き回っている。明らかにトラブルが発生しているのだが、屋敷の主人であるアクロムへの報告は未だ行われていない。

迅速さは重要だが、トラブル対応と情報の整理を同時進行で進めている現場に余計なプレッシャーを与えても良い結果には繋がらない。それが分かっているからアクロムもバラカーンも静かに待ち続ける。


やがて家人が報告の為にアクロムの元へ近付き、耳元で囁こうとした。

アクロ「気にするな。仮に不都合な情報が含まれていても構わん。全てバラカーンにも聞こえるように報告しろ」

家人「承知しました。では報告致します。本屋敷の別館にて大規模な爆発が発生しました。この結果、別館で待機していた傭兵団は壊滅。先程の音と振動は、この爆発に依るものと推定されます。なお、影響はこの本館にも及んでいますが、大きな損壊は今のところ確認されていません」


アクロ「分かった。2次被害に配慮しながら、負傷者がいればそちらの対応を最優先。そのうえで引き続き適時、報告を上げるように」

家人「外敵からの攻撃の可能性も考えられますが、そちらの対応はいかがなさいますか」

そう問われたアクロムはバラカーンの方に顔を向け、表情を(うかが)う。その後「それは考えなくて良い」と答えた。

 

アクロ「御料車での爆発にしては音が近すぎるし、振動との時間差も殆ど感じられなかった。君は全て調べ上げていて、予め爆弾を御料車から別館に設置し直した。そして傭兵団の一掃に利用したのだな?」

バラカ「その別館に待機させていた兵士ですが、通常の傭兵ではなく実態はキシュワの侯爵の私兵から構成されているのはご存知でしたか?」

アクロ「なにぃ!!」

ずっと平然を保っていたアクロムがこれまでに見せた事のない驚愕の(きょうがく)表情をみせた。


バラカ「おそらくアクロム卿は、他国に上手く取り入って技術や資金を都合良く利用して政変を起こし、自らの思うがままにオーライン皇国の舵取りを(おこな)うつもりだったのでしょう。ですが、キシュワ側の思惑は違います。貴方の思惑を見抜いたうえで、内乱を幸いにして乗っ取りを(くわだ)てた。策を弄する程に視野が狭くなり、策に溺れてしまう。 第3者には視えても当事者だと分からなかったりするものですね」

アクロ「………」

アクロムはショックで、しばらく言葉が出ない。


家人「恐れ入りますが、お聞きしてもよろしいでしょうか」

バラカ「なんですか?」

家人「結局リモコンのスイッチを押されるのでしたら、リモコンをバラカーン様に渡さなくても同じだったのでは?と考えますが、いかがでしょうか」

バラカ「全然違うな」

家人の問いにバラカーンは即答で返した。


バラカ「あの状況でアクロム卿がスイッチを押したなら、それは一般人を巻き込む大虐殺を目論む行為と見做す。対して私が(おこな)ったのは敵兵の排除となる。勿論、卿の別館が爆発するという結果は同じだが、以後の卿への対応はより厳しいものとならざるを得ない。故にリモコンを渡して頂けた事に私は、心底ほっとしている」

家人「……ご教授ありがとうございます。理解出来ました」


バラカ「そうそう、ところで広すぎる屋敷は手入れが大変なだけで、これまで羨ましいとも何とも思わなかったのですが、今回初めて良さが分かりました。別館で200メートル四方の大規模爆発が起こっても本館は殆ど影響を受けていない。素晴らしい」

アクロ「………」

アクロムはバラカーンの言葉が本気か冗談か判断出来ずに、しばらく言葉が出ない。


アクロ「俺も1つ聞いて良いか?」

バラカ「なんでしょうか」

アクロ「もし俺がリモコンを渡さずに武力行使に出ていたら、どうなっていた?別館の傭兵部隊は爆弾で一掃出来でも、それだけでは俺を止められなかったのではないか?」


バラカ「ああ、その事ですか」

言い終えると、アクロムがやった時と同じ様にバラカーンもゆっくりと左手を上げた。

それを合図にアクロムの兵を上回る数の兵士が周りを取り囲んだ。

バラカ「準備はしていました。アクロム卿と合図が同じだったのは偶然です。と言ったら信じます?」

アクロ「信じる訳ないだろう。君が働き者なのは知っていたが、案外嫌味な奴でもあったんだな」

バラカ「諜報部に入った時点で、好感度には期待してません」


アクロ「参ったよ、完敗を認める。今後の事だが、俺自身は自業自得なのでどうでもいいが、配下の処遇に配慮してくれると有難い。自賛に聞こえるかもしれんが、優秀な奴を集めた自負がある。上が道さえ違えなければ、必ず役に立つはずだ」

表情には決して出さないが、傍にいた家人は内心とても驚いていた。配下に対する気遣いにではない。

「上が道さえ違えなければ」という言葉、これは自分は道を間違えてしまったと告白しているようなもので、これまでの尊大が服を着ているアクロムの性格からは想像できない態度だった。


バラカ「私はここで明言出来る立場にはありません。ですが、新しい皇国王を支え守り立てて行くには1にも2にも人材が必要なのは、ハイウエ卿も父バラキューダスも当然理解しています。優秀な才能を無駄に消費している余裕は、この国には有りませんから大丈夫ですよ」


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