鳳凰の彫刻
パレードに想定以上の数の観客が溢れて御料車が前に進めない状況が続いていた。
進行ルートの確保が任務である護衛騎士たちも役目を果たすべく努めてはいるが、成果は上がっていない。
近接班の司令塔に指名されたチェロックは、解決の糸口さえ見えない現状に苦悩を続ける。
そんな中、別の新しいトラブルが発覚する。
カークとカレンの活躍の前に敗れて臥せっていた馭者2人が立ち上がってきた。
カーク「まだやるつもりか。いいかげん懲りないな」
馭者A「いや、俺らはもう戦えねぇよ。そのつもりもねぇ」
馭者B「だが、負けを帳消しにして無理やり引き分けに持って行く方法はあるんだぜ」
カレン「なによ、何か出来るもんならやって御覧なさいよ」
馭者たちの思わせぶりな言い回しにカレンが少し不機嫌になる。
馭者B「いや、既に仲間に合図は送った。俺たちはもう何もしない。出来る事もない。ほんの少し待つだけだ」
カーク「待ったらどうなるって言うのよ?」
馭者A「……お前らは俺たちに勝ったんだし教えてやる。冥途の土産ってやつだ」
馭者B「おい、いいのかよ」
馭者A「いいじゃねーか。どう転んでも逃げられないんだ」
馭者B「そうか、それもそうだな」
カレン「歯痒いわね。はやく言いなさいよ!」
焦れたカレンが馭者Bに軽く蹴りを入れた。
馭者B「いてっ!」
馭者A「乱暴な奴だな。お前本当に皇女か?」
カレン「アンタも蹴って欲しいの?」
馭者A「分かった分かった。時間に限りがあるんで手短に話すぞ。御料車の鳳凰の彫刻があるだろ?」
馭者Aが彫刻を指差す。
バラキ「ハイウエ卿の御子息が馬と一緒に献上したという異国の品の事か」
ハイウ「鳳凰の彫刻がどうかしたのか?」
馭者A「あれは単なる置物じゃねぇ。建築立国トンダバの解体技術が詰まった箱だ」
馭者B「古い建物を一気に吹き飛ばして消し去る。簡単に言えば爆弾だな。それをキシュワの技術者が改造して威力はコンパクトなサイズにもかかわらず数倍。おまけに遠隔操作が可能になってるらしい」
チェロック「なんだと!!!」
その場にいた全員が似たような反応を示したが、1番声が大きかったのはチェロックだった。
馭者A「あの男は、俺たちが皇女と皇子の暗殺に成功したら爆発させずにそのまま。失敗した時の保険だと言ってたな」
馭者B「だが、あの男にしてみれば爆弾が本命で、俺たちは前座に過ぎなかったんだろうな」
ハイウ「あの男というのは、アクロムの事か!?」
馭者A「流石に察しがいいな。あの男とはアクロム・グラディエル卿。あんたの息子だよ」
ハイウ「あのバカ息子めが……。だが、そんな威力の爆弾が爆発すればお前たちも道連れではないか?」
馭者B「爺さん、利口そうに見えてバカなんだな。俺たちは皇子と皇女の暗殺に失敗したんだぜ。どのみち死刑が待っている。同じ事だ」
ハイウ「バカ息子にバカな父親……。その通りじゃな」
その場でハイウエが脱力して項垂れてしまった。
チェロ「いつだ、いつ爆発するんだ?爆発の範囲は?」
チェロックが激昂して馭者に迫った。
馭者A「あと約2分、最後は遠隔でアクロム卿がスイッチを押す。最後は自分で押さないと気が済まないらしい。どうせここからは見えない安全なところにいるくせによー」
馭者B「範囲は200メートル四方とか言ってたな。それと破壊したり固定されているのを無理やり動かそうとしたらその場でドカンだから無茶はすんなよ」
馭者A「走って逃げれば、なんとか間に合うかもな。尤も大勢の観客に囲まれてスムーズに移動するのは難しいと思うぜ(笑)」
チェロ「プレセアとソアラ。魔法で何とか出来ないか!?シールドの維持よりこっちが最優先だ。皇子と皇女、お前らだけでも直ぐにここから逃げろ」
チェロックの座右の銘は「無茶でも何でも出来る事を全部やってから、諦める事を検討する」。今回も愚直にそれを遂行している。
プレセ「……魔法ならともかく、異国の技術となると難しいかもしれませんが、とにかくやってみます」
ソアラ「私も力を尽くします」
馭者A「無駄だよ。宮廷序列1位の魔導士が近くにいる事も想定内で対策済みだと言っていた。そういう事には気が廻るんだよ、アクロムって男は」
アコー「申し訳ないが、私は在り得ない」
ラミオ「在り得ない?」
アコー「これだけの人混みの中をすんなり移動出来ると思えない。だが、それ以上に皆を置いて私だけ逃げるという選択肢は在り得ない。ここまで尽してくれている仲間、そして数多くの観客、いや国民を見捨てろと言うのか。そんな事までして皇国王になったとして誰が付いてくるというのだ!?」
カレン「………」
バラキ「人の上に立つ者は感傷的になってはなりません。非常な決断を求められるのも日常茶飯事です。カレン様からもアコーダ様に考え直すように説得してください」
バラキューダスがカレンに嘆願した。
カレン「ごめん、無理。私も逃げろって言われてるけど、アコーダと同じ気持ちだもん」
バラキ「………」
馭者A「どーでもいいけど、どんどん時間が無くなっていくぞ」
項垂れていたはずのハイウエが立ち上がり、鳳凰の彫刻のすぐ近くまで寄って座った。
馭者B「おい、爺さん。さっきも言った通り、刺激を与えると爆発するから下手に触らない方がいいぞ」
ハイウ「何もせんわい。バカ息子の仕出かした事は第1にバカな親父が受け止めねば、と思っただけだわい。出来れば爆風を少しでも弱められればとも思うが、ぬしらの話ではそれも焼け石に水、無理っぽいな」
ハイウエの奇行とも言える行動は、バカな息子が犯した大罪の贖罪と重臣としての責任感から生まれたものだ。
馭者B「爺さん、変わってるな、いや歪んだ親バカと言った方がいいかもな。だが面白い。よし俺も付き合ってやる。俺はバカ息子の指示を受けた実行犯だしな」
馭者A「おいおい本気かよ。……仕方ねえな。分厚い胸板の分だけ爺より爆風を防げるかもしれん(笑)」
そう言って馭者2人がハイウエの隣に座った。
馭者の2人にもそれぞれ子供はいる。ハイウエに共感するものがあったのかもしれない。
かくして御料車に飾られた鳳凰の彫刻に老人1人と体躯の良い男2人が寄り添う。
更にその傍らで女性の魔導士が魔法の施術を試みるという奇妙な構図が出来上がる。
それで事態が好転する訳でもなく、残り時間だけが消費されていく。
結局、アコーダとカレンが避難する事はなかった。
<待ち人>
実をいえば爆弾の事を知らされるまで、チェロックは2人の仲間を待っていた。
1人はアスカ。盾役を伴った射手を処理する為、他の近接班3人を引き連れて一時的に御料車から離れている。
もう1人はギルバード。クレストルの付き添いで遅れており、後から合流する予定となっている。
2人が来たからと言って、有望な腹案がある訳ではない。それでも当時は手詰まり感のあった状況を変えてくれるのではないか。漠然としながらも大きな期待を抱いていた。
しかし、状況は大きく変わってしまった。
手詰まりなのは変わりない。否、むしろ悪化している。
チェロックは諦めの悪い男だが、それ以上に仲間を大事する事で知られている。
だからこそグリフォンのリーダーを長年務めているし、今回の近接班でも司令塔を任されている。
(今から来ても犠牲者が増えるだけだ。来ない方がいい)
良くない予想は得てして当たる。
屋根を滑走する2つの乗り物の影には見覚えがある。距離は遠いがチェロックには、はっきり分かった。
(最悪のタイミングだ!ギルバード)
雑音に紛れているが、やがて音も近付いてくる。
「来るな!近付くな!」
「離れろー、爆弾があるんだー」
チェロックは大声で叫んだが、向こうには聞こえてないらしい。




