密談 その5
<アクロム・グラディエルの屋敷>
バラカーンの喉元には、アクロムの命令で剣先が向けられたままだ。
アクロ「俺が仕込んでおいた馭者の背信行為にも、たった1人の負傷者を出しただけで乗り切ったそうだぞ。弓矢で狙ったのも失敗したし、ガキ2人と爺2人の護衛たちは中々の腕利きの集まりのようだ」
バラカ「失敗したと言う割に余裕がありますね。それどころか楽しんでおられるようにも見えます」
アクロ「余裕ぶっている訳ではないのだが、何故か高揚している自分がいるのは確かだな」
バラカ「そろそろ目を覚まされたらどうですか。賢明なアクロム卿ならもう理解されているでしょう?私がここに来ている時点で計画はもはや潰えているんです」
アクロ「忠言畏れ入るが、それは難しい。動き出した時点でもう俺だけの計画ではない。何より、まだ本命が残っている。これまでは序章に過ぎない」
お茶がカラになっている事に気付いたアクロムが、使用人に命じてお茶のおかわりを持って来させた。
アクロ「俺が先に飲むから安心するがいい。だいいち今更、毒で君をどうこうしようとは考えんよ。それとも酒にするか?以前の祝杯が先延ばしになっていただろう」
バラカ「お茶で結構です。いただきます」
アクロ「俺に余裕があると言ったが、君も大概だな。剣先が向いているというのに余裕がみえる」
バラカ「とりあえず大人しくしていれば、害される心配はなさそうですから」
また、家人がメモを持ってきてアクロムに手渡した。
現地に派遣されている物見も重要局面であると認識しているのだろう。高い頻度で最新情報に更新されていく。
アクロ「なんとなんと、出遅れていた悲劇の英雄ギルバード君まで合流するために御料車目指して動き出したそうだ。という事は、クライマックスに相応しい役者が勢揃いするぞ。直接観覧出来ないのは残念だが致し方ない」
バラカ「クライマックスとは、さっき仰っていた本命という事になりますか……」
アクロ「焦るな、焦るなバラカーン卿。滅多にある機会じゃないんだ。このヤマ場を一緒にゆっくり味わおうじゃないか」
アクロムが話題を変える。
アクロ「最近新しく交流を始めたキシュワとトンダバという国があるんだが、君は知っているかな?」
バラカ「キシュワは名前だけ。トンダバは建築技術が優れており、かの国にはそれによって建てられた有名な建物も多いと聞いた事があります」
アクロ「さすが博識だな。トンダバの建築技術は我が国と比べて10年は先に進んでいる。落ち着いたら観光に出掛ける事を薦めるよ」
バラカ「なぜ唐突にトンダバの話なんでしょう?」
アクロ「建築技術が発展しているトンダバは、同様に解体技術も進んでいる。そして解体するのは建物だけとは限らん」
バラカ「………」
アクロ「キシュワに関しては、詳しくなくても無理はない。小さい国だし、名前を知っているだけでも大したもんだ。ギルバード君の仲間にクラフトマスターと呼ばれる天才がいるらしいが、キシュワにも道具を作る天才がいる。俺はこの2つの国の優れた技術を組み合わせる事を思いついた」
バラカ「……今の話が本命に関する示唆なのですね」
アクロ「どうだろうな。ひとまず想像に任せるよ(笑)」
バラカーンにはアクロムがこの状況を楽しんでいるように見えた。




