目覚め
<回想:パレード開始の直前の出来事>
「チェロック、アスカ、それから皆。相談があるんだが……」
さあもうすぐパレードが始まる、そんなタイミングでギルバードが話を切り出した。
ギル「クレストルの事なんだが……」
アスカ「良いわよ。貴方も同じ答えでしょ、チェロック?」
チェロ「ああ、そうだな」
ギル「まだ中身を言ってないんだがな」
アスカ「あら、クレストルに付いていたい。で、パレードを欠席するんでしょ。違った(笑)?」
ギル「その通りなんだが、よく分かったな」
チェロ「俺だって分かったぞ。付き合いも長いし。あと、お前は結構分かり易い時が多い(笑)
ギル「すまないな。今日目覚めるはずなんだ。そしたら遅れて合流するつもりだ」
アン「なんで目覚めるって分かるんサー」
ギル「なんでって、お告げみたいなもんがあったというか……」
ドラゴニックの事を説明する訳にはいかず、口籠ってしまう。
アスカ「理由はおいといて、ギルバードが言うならそうなんでしょう」
ギル「カレンもアコーダもそれでいいか?」
アコー「己の立場では嫌とは言えない。それに元はと言えば、クレストル殿の怪我も己が原因だ。ギルバード殿の判断に委ねたいと思う」
カレン「大人になったんだねぇ、アコーダ。ギルバードに任せておけば大丈夫、大船に乗った気でいなさい」
アコー「ああ、うむ」
(そのギルバード殿がパレードに出ないって話なんだけど……、まあ良しとするか)
<回想:クレストルの覚醒>
クレストが眠るベッドのサイドテーブルの花瓶には大きな花が飾られている。
「いい匂いがする。病人には香りが強すぎるかもしれんが、お前は悪いところが1つもないらしいから問題ないよな」
ギルバードがクレストルに話しかけた。返事は期待していない。独り言みたいなものだ。
ドーン、ドドドドドという音を伴って花火が打ち上げられ、パレードが始まる。
「音と振動が凄いな。部屋の中にいても響いてくる。パレードが終わったら即位戴冠式、その後は晩餐会。長い一日になるぞ」
ギルバードが窓を全開にする。
「良い天気だなぁー。天色の空がとても気持ちいい。絶好のパレード日和だ」
御料車が少しずつ遠ざかっていくのが見える。想像していたより護衛騎士の数は多かったが、観客はそれを遥かに上回っている。
「焦る感情が全く湧いてこない。へぇー、今日必ずお前が目を覚ますと確信してるんだな俺。自分でも気付いてなかったが、結構ドラゴニックの事を信頼してるみたいだな」
「いつまで寝てるんだ、クライド!ぐずぐずしている時間はないんだぞー。……なんてな」
今度は大きめ声でクレストルに話しかけてみたが、やはり返事は返ってこない。
窓から入って来る心地良いそよ風に身を委ねて、目をつむる。
「これが終わったら次はどうするかな。アイシスやサンドラあたりを訪ねてみようか」
そしてこの先の事を考えてみる。
突如そよ風が気まぐれを起こし、強風が舞い込んでくる。
煽られてベッドのサイドテーブルに飾ってあった花瓶が倒れ落ちて割れる。
ガシャン!と大きな音がした。
「華が大き過ぎてバランスが悪かったんだな」
ギルバードが落ちた花を拾う。
「ギル兄、なんか割れた音がしたけど、どうかしたのか?」
ギルバードが誰かに話しかけられた。
ギル「花瓶が割れてしまって……おい、お前……」
ギルバードは驚いた表情を見せながらもとりあえず床にこぼれた水を拭いている。
クレス「なんだか体がバキバキなんだけど、寝違えたかな」
ギル「寝違えは首だろう。体がバキバキなのは1週間丸々眠っていたんだから、まああ当然だろう。それより、今お前ギル兄って……記憶が戻ったのか……」
クレス「記憶?ああ、なんか妙な感覚があるな」
後の確認作業で明確になるのだが、どうやらクライド・ラインベッカとクレストル・マークチェイス両方の記憶が残っていて、一部が混じり合っているような感覚らしい。
ギル「それにしても目覚めるって、そういう意味かよ。ドラゴニックのやつめ」
悪態を付きながらも嬉しさを隠せていない。
クレス「細かい話は後にして、ギル兄、今の状況を教えてくれないか」
ギルバードはアコーダ救出作戦の結果からパレード&即位戴冠式までの流れを掻い摘んで説明した。
クレス「そうか。俺の道具が役に立ったんだな。良かった」
ギル「役に立ったなんてレベルじゃない。功労者だよ、クレストルは」
クレス「でもまだ終わってないよな?」
ギル「その通りだ」
クレス「じゃあMVPを取りに行かなきゃな」
ベッドから出て、クレストルが体操をして体をほぐす。
ギル「でもお前、体がまだ……。ずっと寝たきりだったんだ、無茶するな」
クレス「俺は基本無茶が嫌いだ。道具が壊れるからな。それでも今は無茶のしどころだと思う。迷惑かけた分を取り戻したい!」
15年振りの再会?にもかかわらず、クレストル(クライド)の態度は至って普通。
あまりに呆気なさ過ぎてギルバードにしてみれば、もう少し感慨に耽っていたいところだが、クレストルはお構いなし。
「腹減った」といって、着替えるのと並行してパンとスープを駆け足で平らげた後は、クラフトマスターの面目躍如。
あっという間に魔力バイク2台の整備を済ませてしまう。
クレス「魔力バッテリーに魔力を貯めといてくれたんだな」
ギル「カークとカレンがな。お前が眠っている間に遊びで乗り回して結構上達したみたいだぞ」
クレス「へぇー、そいつは是非とも感想を聞いて今後の改良の参考にしたいもんだ。さて」
最終チェックを済ませたクレストルがグッドサインをしながら「いつでも行けるぜ!」と力強く言った。
「よし、パレードの御料車に追いつくぞ」
ギルバードとクレストルが魔力バイクに跨り、勢いよく走り出した。




