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アンチマジック

<背信者>


カロ「さっきからずっと止まったままじゃのうー」

カーク「そうだね」

カレン「カーク、あんたどうにかしなさいよ」

カーク「そんな事言われても……」

カレンが苛立ちをカークに八つ当たりをしてぶつけた。

アコー(姉様は相変わらずだな)

アコーダは自分への飛び火を避けるため黙っていた。


カロ「馭者よ、少しづつでも馬を前に進められんのか?」

馭者A「それがあまりに観客が多過ぎて馬が怯えて動いてくれんのです」

馭者B「デカい図体はしていても馬はとても繊細で臆病な生き物なんです」

カロ「それを手懐けて馬と折り合いをつけるのが馭者の役目じゃろうが。実はのう、ワシは馬の扱いは得意なんじゃ。どれ、手綱を貸してみぃ」


手綱を握ろうとして馭者に近付いた瞬間、カローランがその場で倒れ込んだ。

「……?」

カローランは自分に何が起こったのか、理解出来ていない。しかし近くにいたカークは、はっきり認識出来ていた。馭者に背後から斬りつけられたのだ。

(したた)り落ちた血が御料車の床を紅く染める。


「下がるんだっ(みんな)!」

カークがアコーダたちを下がらせて馭者から距離を確保した。

本当なら親友であるカローランの身を案じて駆け寄りたいところだが、護衛としての責任感がカークを自制させた。


カーク「誰の指示なんだ?」

馭者A「さてはお前、馬鹿だろ。言う訳無いだろ」

馭者B「そんな事はどうだっていいだろー。勇者候補なんだろ、相手をしてくれや」

つい先程までの礼儀正しい馭者の姿はどこにもなく、ガラの悪いゴロツキへと豹変していた。その手にはどこに隠していたのか、マチェットと金砕棒がそれぞれ握られている。

 ※ マチェット:鉈に似た大型の刃物。山刀。

 ※ 金砕棒:金棒の上端部分に無数の(とげ)を付けて殺傷能力を高めた武器


対するカークはアコーダ、カレン、バラキューダス、ハイウエに近付けさせまいと十分過ぎるほど奮闘していた。しかし2対1、おまけに体躯(たいく)が違い過ぎる。

勇者候補といってもカークはまだ14歳、まさに大人と子供。パワーで圧倒され、敵の攻撃を受け止めきれない。

普段ならアグレッシブなカレンが直ぐに参戦するところだが、パレードのお披露目で武器は携帯しておらず、身に纏っているのは動きづらい儀典用の衣装。バク宙は出来ても、命のやり取りは出来ない。


ハイウ「私も戦います。老骨でも盾くらいにはなろう」

バラキ「ワタクシも」

ハイウエとバラキューダスもアコーダとカレンを守るために前に出ようとしたが、カークとカレンに止められる。

カーク「来るな。爺さんたちは下がってろ。足手纏(あしでまと)いだ」

カレン「カークの言う通りよ。2人は下がってなさい。でもありがと、気持ちだけ貰っとくわ」


カレンはともかく、カークまで言葉遣いが荒くなる。それだけ余裕がない証拠だった。

グリフォンとアルジョンのメンバーに助けを求めたいところだが、アスカたちはまだ戻ってきていない。

チェロックたちも観客と騎士が入り混じった状況の対応に忙殺されており、カークのフォローにまで、手が廻る状況ではなかった。


カークは何度でも立ち上がって向かっていく。そして、その度に吹っ飛ばされる。

闇雲(やみくも)に繰り返しているだけに思えたカークの攻撃だったが、無目的ではなかった。

馭者2人を倒れているカローランから引き離した。

カレン「プレセアはこのままシールドを継続しなさい。ソアラは私に付いて来て」


カローランの元へカレンとソアラが走る。

ソアラがカローランに回復魔法を掛ける。しばらくすると出血が止まった。

ソアラ「出血量は多いですが、ギリギリ間に合ったと思います」

ソアラの回復魔法は、宮廷序列1位の姉シャロンにも引けを取らない。

 

「精魂込めて作ってくれた仕立て屋には申し訳ないけど……」

カローランの戦斧を拾い上げると、カレンは自分の衣装の加飾部分を大胆に切り落とした。

中でも裾部分は太腿(ふともも)が露出する程、短く切った。

シャロン&ソアラ「………」

露出の多さにシャロンとソアラが言葉を失っている。


カレン「さあ、これで思う存分動ける。待たせたわね、カーク。これで2対2よ」

カーク「ちょっと露出が多くないか?」

シャロンとソアラが「うんうんうん」と無言で何度も頷いている。

カレン「あら、カークには10年、いえ5年早かったかしら。でも仕方ないのよ。あの儀礼服、スゴく重くて動き(にく)いんだもの」


馭者B「なんだ、小僧だけじゃなく小娘も相手してくれるのか」

カレン「勇者候補に相手をして欲しいんでしょ。喜びなさい、目の前に2人もいるわよ」

()くしてカーク&カレンと馭者A&Bの2対2での戦いへと発展したのだが、(つら)い戦況まで好転した訳では無かった。

パワーの差は歴然。おまけにカークはこれまでの戦いで吹っ飛ばされ続けてダメージも蓄積している。

カレンにしても、これまで使った事のない戦斧に馴染めず、扱いに苦戦していた。


カレン(カークは2対1を相手に散々吹っ飛ばされて体力を削られてる、ここは私が頑張らないと!)

カーク(カレンは使った事の無い戦斧に四苦八苦している。使い慣れた武器を使っている僕が頑張らないと!)

互いを(おもんばか)る気持ちを糧にして懸命に戦うカークとカレン。だが、一生懸命だから必ず勝てる程、今回の戦いは甘くない。

アコーダーに近付けさせない、という事だけは死守しているものの自分たちは傷だらけになっていく。

 

馭者A「勇者候補と言っても大した事ねえなー。もう終わらせようぜ」

馭者B「ホントにつまらん。全力を出してないのに全く相手にならん。期待外れだ」

馭者A「もういいだろ、次の攻撃で勇者候補を片づけて、そのまま皇子の方もやっちまおう」

馭者B「了解だ」


今までは警戒の意味もあって、力をセーブして様子を(うかが)っていた馭者たちだったが、それも終わり。

決着を付けるべく、並び合うカークとカレンに向かって全速力で突進してくる。

まともに立ち合えば、これまで以上の勢いで吹っ飛ばされるのは目に見えている。

だからと言って、避ける選択肢を取る事は絶対に許されない。後ろにはアコーダが控えているからだ。


馭者たちは体当たりと同時に武器を叩きつけるつもりで、各々の武器を振り上げる。

カレンは吹っ飛ばされる事を覚悟して戦斧を前に出す。カークは諦めてしまったのか、ブツブツと小さな声で何を呟いているだけで動かない。

カーク「開門を告げる・・・ 大地に吹く・・・闇に走る……」

カレン「もしかして詠唱をしているの?? 駄目よ、プレセアのシールドで攻撃魔法は無効化されてしまうわ」


カレンの眼前にはマチェットが、カークの眼前に金砕棒(かなさいぼう)が、(せま)って来る。

カーク「……スフェーンの煌めきを以てかの敵を戒める、カース サプレス」


詠唱を終えると同時に馭者に向かってカークが右の掌を突き出す。そこから生じた緑に発光するリングが2人の馭者を動けなくした。

マチェットと金砕棒もギリギリのところで止まっている。

流れるような動きで、カークが持っていた剣で斬りつける。カレンも少し遅れて戦斧を振るって一撃を加えた。

馭者たちは一旦後退するも致命傷には至っていない。

 

馭者A「なんだ、今のは……」

馭者B「動けなくなったぞ。何をしやがった……」

馭者たちには、自身に何が起こったのか理解が追いついていない。


カレン「どういう事よ、プレセア。攻撃魔法はカットされて使えるのは回復魔法だけじゃなかったの?」

プレセ「……分かりません」

カレン「ひょっとして呪い系も対象外ってワケ?呪い系魔法なら私だって得意よ」

プレセ「いえ、そんなはずは…」

プレセアにもカークがなぜ魔法を使えたのか、分からないでいた。


逆上した馭者たちが再び突進してくる。

カレン「カースサプレス」

カレンが敵を抑圧する魔法、カースサプレスを唱えた。しかし、魔法は発動せず、馭者たちは止まらない。

「カースサプレス!」

混乱するカレンを気にも留めずにカークがもう1度カースサプレスを唱えた。馭者たちが動けなくなる。


カレン「一体どうなってるのよ。同じ魔法なのに、どうしてカークだけが発動するのよ!」

カロ「おそらくアンチマジックアンチ、勇者のスキルじゃな」

ソアラの献身的な回復魔法のおかげで普通に話せる程度に回復したカローランが答えた。

カレン「それこそおかしいわよ。私だって勇者候補のはずよ。カークが本物で私が偽物だって言うの?」


カロ「そんな事は言っておらん。人の成長には差があって当然じゃ。いずれおぬしも使えるようになるやもしれんから気にするでない」

カレン「どっちにしても、カークの方が1歩先に進んでるって事じゃないっ!全然納得いかないわ」

激しく動揺するカレンだったが、ショックを受けている人がもう1人いた。プレセアだ。

プレセ「アンチマジックはギルバードさんとの手合わせ以降、長年(みが)きをかけてきたのに……、こんなにあっさり」


カロ「ほれ、まだ敵を倒した訳では無いぞ。ごちゃごちゃ言ってる余裕があったら倒してしまわんかい」

カレン「アンタの戦斧が使いづらいのよ!」

カロ「ではこれを貸してやる。まだこっちの方が慣れとるじゃろう」

そういってカローランは短剣をカレンに手渡した。


集中力を高めているのか、殆どしゃべらなくなったカーク。コツを(つか)んだらしくカースサプレスを駆使して馭者2人に確実にダメージを与えていく。

カークに負けじとカレンも借りた短剣で改めて戦いに挑む。

カレン(並行詠唱まで使いこなしている。魔法で後れを取ってるのに、剣術までカークに負ける訳にはいかないわ)


元々、カークは呪い系魔法を得意としていたものの、実運用はカローランに詠唱時間を稼いでもらって使用する形だった。

ギルバードへの弟子入り後に実戦での有用性を高めるべく、並行詠唱を習得するように指導されてきた。

カレンはその経緯を知っているだけに殊更に負けん気が刺激された。カークの成長速度に焦りを感じたのだった。


次第にコンビの息も合ってくる。カークがカースサプレスで動きを止めた敵に対して、カレンが今までより更に1歩踏み込んで大きなダメージを与える。

こうなるともはや勝負にはならない。

馭者A「こんなガキと小娘に敗れるとは、俺たちもヤキが回ったな」

馭者B「そうじゃない、勇者候補が伊達じゃなかったって事だ」

そのセリフを最後に2人の馭者がほぼ同時に力尽き、倒れ込んだ。

こうしてカークとカレンの勝利が確定した。

 

馭者の裏切りという災いをカークとカレンの活躍で退け、アコーダを守り抜いた。

一方でパレードの混乱は激しさを増していた。

馭者の代わりはカローランが務める事になった。万全とまではいかないが体調は回復している。だが今のところ、代役は意味を成していない。


城までのルートは残り3分の1。護衛騎士の人垣が完全に崩壊し、観客が道を(ふさ)いでしまっている。

はっきりとした敵であれば戦えるし、遠慮なく蹴散らす。しかしながら観客は敵ではない。

観客の中には悪意を持った者も含まれるかもしれないが、それを見定める(すべ)もない。

力技での排除も叶わず、いつしか御料車は完全に停止したまま前に進めない。

それでもチェロックたちの働きもあって、アコーダたちに害は直接的な害は出ていないが、如何(いかん)せんこのままではパレードが終わらず、リスクだけが増大していく。


(ギルバードすまん、不殺は貫けねえかもしれねぇ)

チェロックはギルバードとの約束を守るべく殺傷は避けている。だがやはり、それは厳しすぎる条件だった。

危惧していた通り、次第にチェロックは観客と騎士の濁流にのみ込まれて押し込まれてるケースが増えていく。

チェロックだけではない、近接班のピーテ、グラディエ、ベレル、ラミオも同様に限界が近付いていた。


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