密談 その4
パレードの真っ最中、バラカーンはアクロム・グラディエの屋敷を訪れていた。
2人が会っているのは本館だか、その他にも別館が複数ある程の豪邸にアクロムは住んでいた。
アクロ「パレードはそこそこ順調だそうだな」
バラカ「みたいですね」 (そこそこか)
御料車が射手に狙われたものの冒険者パーティーのグリフォンとアルジョンのメンバーに撃退された結果、予定されていたスケジュールから遅れる事なく進行していた。
その事をアクロムは『そこそこ』という言葉で表現し、加えて屋敷の中にいても、それを把握しているのだと暗に匂わせた。
アクロムの意図に気付いたバラカーンも、自分も知っている、と返した。
アクロ「それにしてもお互い、親父が御料車に同乗してパレードに参加しているというのに俺たち2人はお留守番とは、実に憂うべき事とは思わないかね?」
バラカ「そう仰る割に機嫌は悪くないようにお見受けしますが、いかがでしょう」
アクロ「相変わらず君の観察力は素晴らしい、それとも俺の演技が大根だったか。それは置いといて、今は待ち、耐える時だと考えるようにしている。それと屋敷にいても出来る仕事はあるし忙しくなるのは、恐らくこの後からだしな」
バラカ「忙しいのは良い事です」
アクロ「君は忙しくないのかね?」
バラカ「それほどでは。自分の本業だけなら知れてますし慣れてもいますので」
アクロ「君が働き者だというのは知っているよ。働き過ぎだという事もね」
バラカ「………」
アクロムとバラカーンが腹の探り合いのような会話をしていると、家人がメモを持ってきてアクロムに手渡した。
アクロ「順調だったパレードだが、御料車が停滞してしまっているようだ」
バラカ「理由も教えて頂けますか」
アクロ「観客が多すぎてルートを塞がれてしまったらしい。護衛は一体何をやってるんだかな。しかし、それだけ新皇国王の人気が高いという証拠かもしれん」
バラカ「何か対策を講じるおつもりでしょうか?」
アクロ「それは俺の仕事ではない。それに止まっただけなら、予定が少し遅れる程度で済むだろう」
バラカ「そうですね」 (だけ、ならな)
引っ掛かるものがあったが、バラカーンは話題を変えた。
バラカ「そういえば仕事で思い出しましたが、最近異国との貿易にも積極的らしいですね。パレードにも異国のものを用いられたとか」
アクロ「……ああ、馬の事であればオーライン皇国のものより大きくて見た目が立派なので、御料車に相応しいかろうと思ってな。親父殿を通じて献上した」
バラカ「他にも様々なものを異国から集めておられるんでしょうね。例えば傭兵とか武器とか」
アクロムの顔色が変わる。
アクロ「……いつから探ってたんだ。いや、誰に頼まれたんだ?」
先程までの和気藹藹とした温かい雰囲気から一転、冷たい空気が流れた。
一方でバラカーンは顔色1つ変えずに平然としたままだ。
バラカ「誰に頼まれたか。直接の命令は父バラキューダスですが、元はハイウエ卿です」
アクロ「親父殿が……」
バラカ「いつからかと言えば、皇国王が崩御されて以来、ハイウエ卿は不安になったそうです、危機感を抱いたと言ってもいい。皇国王という重石が外れ、もしフロンテ・ネガスという猛毒まで排除される事になれば、野心の強いアクロム卿は自分を抑えられなくなるやも知れぬ、と思ったそうです」
ここでバラカーンはアクロムの反応を少し待ったが、特に無かったので話を続ける。
バラカ「悩んだ結果、父に相談されたのです。アクロム卿が国への忠誠心と野心と天秤にかけ、もし野心が勝ってしまった場合の対応措置として、私に白羽の矢が立ったという訳です」
アクロ「……それで君から見た俺の評価はどうだったんだ?」
バラカ「貴方はとても優秀です。異国との貿易をはじめとする交流も見事なもの。商人としての才もお持ちだ。何より権力と財力の使い方を心得ている」
アクロ「思いの外、お褒め頂いて光栄だな」
バラカ「褒めてはいません。そして貴方も光栄とは1ミリも感じていない。当然の評価、いや他人の物差しで測れる程、自身の器は小さくないと考えているかも知れない」
アクロ「………」
バラカ「貴方は優秀過ぎる。なればこそ野心が抑えられない。というのが私のアクロム卿に対する見立てです。おそらく御尊父であるハイウエ卿も同じでしょう」
アクロ「だから親父殿はバラキューダス卿へ相談に行ったのだな。……それで?」
バラカ「それで、とは?」
アクロ「バラカーン卿、君はどこまで知っているんだ?」
バラカ「言いたくありません。私の答えが貴方にスイッチを押させる事になり兼ねない気がしています」
アクロ「良いから言いたまえ!」
渋っていたバラカーンだったが、根負けしたのか仕方ないという仕草で話し出す。
バラカ「差し当たって、兵をこの部屋に伏せていて私を包囲する準備をしている事は存じ上げております」
アクロ「そうか、きっと君も優秀過ぎるのだな。……非常に残念だ」
そう言い終えると、アクロムはゆっくりと左手を上げた。
それを合図に隠れていた兵たちが姿を現した。そしてバラカーンに対して剣先を突き付け威嚇した。
アクロ「バラカーン卿、君を拘束する。ここでしばらく大人しくしていたまえ。事が済めば解放してやる」
バラカ「……」
ここで再度、家人がメモを持ってきてアクロムに手渡した。
アクロ「パレードに急展開だ。御料車に乗っている者の中から背信者が出たぞ。さすがの新皇国王も危ない知れんぞ。尤も俺が予め仕込んでおいたのだがな(笑)」
アクロムは本性を隠さなくなっていた。




