最初の異変
パレードの観客数は想定していたより遥かに多かった。
路上の観客に関しては騎士の人垣が有効に機能していた。中には過熱し過ぎたり、或いはふざけて御料車に過剰な接近を試みる輩もいたのだが、見事に跳ね返した。
道程の3分の1ほどが過ぎた頃、最初の異変に気付いたのは狙撃班のアルジョンのミュウウィ・ザライブだ。
ミュウウィは御料車から一定の距離を保って移動しながら、路上や建物の人々、街路樹などにおかしなところが無いか気を配っていた。
(ほえー、木を隠すなら森の中、人を隠すなら人混みの中とはよく言ったもんだわ)
喧騒を極める中で99.9パーセント以上は悪意の無い観客。それでもおかしな動きをすれば、違和感を感じる事は出来る。
警戒活動どころか自身の移動も容易ではない程の混雑具合だったが、ミュウウィは敵を発見した。しかも2人。
1人はミュウウィからみて正面の建物の3階、もう1人はその3件隣の建物の2階、それぞれの部屋の窓から御料車に向けて弓で狙いを付けていた。
(ほえ、間に合わないっ!)
狙撃班の他の3人(ジェイミ、ゲード、クロスファー)とは離れたところにポジショニングしていて、未だ気付いている気配もない。
(どうしよう……)
迷っている時間はない。
ミュウウィは、幾つか思い浮かんだ選択肢の中から仲間を信じる選択をする。
自身の弓を鏑火矢をセットし、その場から天に向けて発射した。
鏑火矢とは、音と煙を出しながら飛んでいく矢で今回ミュウウィが用いた矢は「ピョーーウ」という音を発しながら、紅い煙を生じさせる。
観客はまた花火が上がったな。程度の認識でしかない。だが護衛を担う関係者の認識は違う。鏑矢の音=要注意 紅い煙=敵が迫っていると理解した。
近接班のメンバーとカークとカローランたちに一際緊張が高まる。
無論、鏑火矢が上がる前から気を張り詰めて護衛に当たっていた。だが、敵が本当に来るのか、いつ来るのか、分からない状況が続くと集中力には限界があり、陰りも出てくる。
それを今「バチン!」とスイッチが入った。
敵も鏑火矢には気付いたが、構わずに矢を放つ。だがこの時、放たれた矢は2本だけではなかった。
実はミュウウィが認識した敵は2人だけだが、別の場所にも敵が2人いた。そしてほぼ同時に矢を放っていた。
計4本の矢がアコーダとカレン目掛けて真っ直ぐに飛んでいく。
これこそがミュウウィが鏑火矢を選択した理由だった。
弓を構えているのが1人であれば、矢で先に敵を射止める自信はあった。しかし、残り1人には矢を発射されてしまう。それに他にも敵がいる可能性は否定出来ない。むしろ、いると考えて対応するべきだ。
不意さえつかれなければ、アルジョンかグリフォンのメンバーの誰かが必ず止めてくれる。それが1番確率の高い選択のはず。ミュウウィはそう信じて動いた。
4本の矢は、それぞれ別の角度から放たれていた。
両舷一流(二刀剣術)の達人であるチェロックはアコーダの顔に来た矢を斬り落とし、深紅火山流格闘術の達人アスカはアコーダの胸に来た矢をナックルガードで弾いた。
グランディエとアンは持っていた盾でそれぞれカレンの胸と腹部に来た矢を見事に防いでみせた。
御料車に同乗しているカークとカローランも射線を遮るようにカレンとアコーダの前に立ちはだかっていた。
もし仮に、近接班が矢を防ぎ損なっていたとしても、カレンとアコーダに当たる事は無かっただろう。
なお、バラキューダスとハイウエの2人はチェロックの「伏せろ!」の声に従って身を屈めてこちらも事無きを得ていた。
狙撃班のゲードとクロスファー、ジェイミも黙っていない。
既に放たれてしまった矢は彼らに止める術はない。そこはチェロックやアスカたちに任せるしかない。
それとは別に自分たちにも出来る事がある。
敵から放たれた矢を観察。鏑火矢によって心構えが出来ていた3人は、さすがというべきか第1射で射手の位置を特定した。
そこからのゲード、クロスファー、ジェイミの行動は素早かった。
敵は第1射を外した敵は第2射に向けて再度狙いを付けていたところだったが、3人は即座に矢を放つ。
見事射止めて、追撃を阻止した。
ミュウウィも残っていた敵1人を射止めて、こちらも第2射を射たせなかった。
アコーダとカレンを狙った敵の攻撃は始まったばかり。
パレードはまだ3分の2残っている。




