パレード
<パレード&即位戴冠式の朝>
アコーダが城から脱出してから7日目(バラカーンが来てから4日目)の朝、ギルバードたちのいる宿屋周辺は賑わっていた。
迎えにやって来たパレード用の御料車(馬車)は一般的なものと比べて壮麗で装飾も絢爛豪華。加えて儀典服を纏った数騎の騎兵とそれに連なる数十人の騎士たちと軍楽隊。
事前にパレードの開催を知らされていた周辺住民もその規模と威容は想像以上で大騒ぎ。
天候にも恵まれて、頭上に青空が広がる絶好のパレード日和となった。
大勢の注目が集まる中、軍楽隊がタイミングを見計らって登場曲を奏でると、宿屋からカレン・オーライトとアコーダ・オーライトが現れた。
御料車ではバラキューダスとハイウエが迎える。
バラキ「アコーダ様、カレン様。本日の陪従者は私バラキューダスとハイウエ・グランディエルとなります。よろしくお願い致します」
バラキューダスがそう言った後、ハイウエと一緒に深くお辞儀をした。
アコー「2人ともパレードのみならず、これまでの様々な対応に感謝する。大儀であった」
カレン「これからもアコーダをよろしくね」
バラキ&ハイウ「畏まりました」
自然に周りから拍手が巻き起こる。2人はそのまま御料車に乗り込むと手を高く掲げて大きく振った。歓声が大きくなる。
この日のために職人が誂え直した儀典用の衣装を身に纏っており、場の空気を華やかに彩っている。
2人に続いてプレセアとソアラのシャロン2姉妹とカーク、カローランが御料車に乗り込む。プレセアとシャロンの衣装は豪華さではカレンとアコーダには及ばないものの煌びやかだ。
カーク、カローランは簡易礼服を着ているが武器は帯びたまま。万一の場合、カレンとアコーダを守る最後の砦を務める。
御料車は一般的な馬車より大きい為、馭者2人を含めた計10人が乗っても十分以上の広さがある。幌も無いので窮屈さを感じる事はない。
カレン「馬も馭者もずいぶん堂々とした体躯をしているのね」
馭者A「御料車を引くのに見栄えするとの事から、我々と合わせて此度の栄誉に預かりました。
馬とあの鳳凰の彫刻は、グランディエル卿が異国から仕入れて献上されたものだそうです」
そう言って馭者Aは御料車に乗せられている威厳のある彫刻を指差した。
見事な彫りも然る事乍ら、眼の部分に埋め込まれた宝石が紅と蒼のオッドアイ仕様で、ミステリアスな雰囲気をクリエイトしている。
バラキ「ハイウエ卿の誼とな。さすが幅広い人脈をお持ちですな」
ハイウ「フォフォフォ、お褒め頂いて恐縮ですがのー某ではなく倅のアクロムですわい」
バラキ「ほう、頼もしいご子息をお持ちで羨ましい」
ハイウ「何を仰る。バラキューダス卿の御子息バラカーン殿の方が得難い器量人。愚息アクロムにも爪の垢を煎じて飲ませたいくらいですわい」
アコー「立派な馬だが、御する馭者の2人も馬に負けておらず頼もしい限りだ。本日はよろしく頼む」
馭者A&B「かしこまりました」
重臣たちのどこまでが世辞か本音か分からない社交を余所にグリフォンとアルジョンの近接班9人が事前に打ち合わせ通り、御料車を囲む形で護衛に付く。
装備は多少装飾をパレード用に工夫はしているものの、基本は動きやすさを優先していつもの冒険者然としたものに近い。
狙撃班の4人は別行動をとっており、既に御料車から距離を取っている。
通常の狙撃であれば、木の上や建物の上層などの高所にポジショニングするところ。しかし、今回の護衛対象である御料車は移動するのでそうもいかず、人混みに紛れる形で街中に溶け込んでいる。
衣服も目立たないよう住民に近いもの着ているが、弓矢と短剣は装備している。
その他、宮廷の騎士たちは人垣となって御料車が通るルートの確保にあたっている。
花火が上がり、ドーン、ドドドドドという炸裂音が響き渡る。それを合図に軍楽隊の曲が行進曲に変わる。
騎兵に先導されて御料車がゆっくりと動き出す。
街のムードがお祭りに切り替わる。
告知からパレード開催までの日数が短かく集客が心配された。しかし、新しい皇国王を一目見ようと地元以外からも大勢が足を運ぶことになり、活況を呈した。
アコーダとカレンは、御料車の両側から見えるように時折、立ち位置を入れ替えながら笑顔で手を振る。
一方、バラキューダス、ハイウエは座ったまま手を振った。あくまで主役はアコーダとカレンであるとメリハリをつけた対応だ。
プレセア、ソアラは魔法防御に専念。カークとカローランは護衛モードで物理攻撃に備えていた。
カレン「笑顔がぎこちないわよ、アコーダ」
アコー「姉様は、よくそんな自然な笑顔が出来ますね」
カレン「クラリティア母様から、口を酸っぱくして何度も言われたもんよ。笑顔は淑女の嗜み。特に民衆に対しては例え苦境にあっても笑いなさい、ってね」
アコー「己は母様の事をあまり覚えてないんですよ」
カレン「アコーダが幼い頃に亡くなってるから仕方ないわよ」
亡くなった理由が自身にあるカレン。クラリティアの最期の情景が浮かんで古傷が傷んだが、周りに気付かれぬように取り繕って、そのまま大切な想い出として胸の奥に仕舞い込んだ。
カレン「ちょっとマンネリになってきたわね」
古傷が傷んだ様子を悟られない為か、手を振るのを飽きてしまったのかは定かではないが、カレンがいきなり、端に向かってダッシュした。そして、まるでプロレスのコーナーポストのように御料車のピラーに足を掛けて大きくジャンプ、そのままバク宙を披露した。
アコー「姉様、なにをするんです」
カレンはバク宙を着地すると、今度はカークに向かってダッシュ。
カレン「カーク!」
敵を警戒していたカークだったが、名前を呼ばれて咄嗟にカレンの意図を理解。下腹部の下で両手を結ぶ。
カレンは、今度は結ばれたカークの手のひらを足場にして、再度バク宙をやってみせた。
生地が多くて(=重い)、動きづらい儀典用の衣装を物ともしないカレンのアクションに観客は大盛り上がり。
カレンが満足そうに両腕を上げて手を振ると、再度盛り上がる。
普通なら周りの人間が「危ない」「ハシタナイ」と言いそうなものだが、誰も言わない。カレンがお転婆なのは今更の話で全員が分かり切っている。要するに『いつもの事』だからだ。
カレンの身体能力は折り紙付きで動きにはキレがある。アクロバティックな動きですら雅やかだった。
足場にされたカークも「やれやれ」という表情はしたものの本人には一言も文句は言わずに護衛モードに戻った。




