護衛の依頼
アコーダの命令、いや許可を得てバラカーンはパレードの危険性について話し始めた。
バラカ「危険は……ございます。我が父バラキューダスが城内を取り纏め、どうしても折り合いがつかない者を排除したと言っても、それが表面的な部分である事は否定出来ません。面従腹背で隠している不満、欲求がマグマのように吹き溜まりのように蓄積している可能性を危惧しております」
ギル「それで?」
バラカ「分かり易く『敵』と呼びますが、カレン様とアコーダ様を好ましく捉えていない敵にとって、国民へのお披露目のパレードは行動を起こす絶好の機会となるはず。であるならば、いっそのこと出せるうみ膿は全部出してしまおう、という考えでございます」
ギル「要は危険を承知で皇女と皇子をおとりに使うつもりなのか?」
バラカ「そうです」
ギルバードが「とんでもない」という表情をしたのを察して、またアコーダが割って入る。
アコー「そもそもパレードをおとりにするアイデアは幽閉されていた時に己とバラキューダスが考えたのです」
カレン「はあ?どーゆーことよ」
アコー「時間だけは余ってましたからね。もし無事に城から脱出出来たなら、その後に取るべき行動を考えて……幾通りものパターンでシミュレーションするように。平和が続くのは良い事ですが、同じ体制が長く続けば此処彼処に澱が溜まるのは避けられません。災い転じて福と為す、というのは好きな言葉ではありませんが、フロンテ・ネガスという災厄を経たこの国が力強く建ち上がるには、どうすべきか。これでも己なりに国を良くしたいと思っています」
カレン「だからって、わざわざ危険に身を晒らす博打のような真似をしなきゃなんないのよ。1番狙われるのはアンタなのよ。そーいう立場なのに自覚が足りてないんじゃないの?」
アコー「えー、姉様がそれを言いますか」
アコーダが半笑いながら納得いかない、という顔をした。
アコー「姉様もご存じでしょう、即位の時にパレードを行うのは初代皇国王からの慣わしです。あくまで慣例ですので必須でもはないと捉える事も出来ますが、己は皇国王になるんです。顔も見せずに逃げ回っているだけの男を誰が認めてくれるのですか?臆病な指導者が頂点にいて民衆が安心して暮らせますか?姉様も一緒に危険に付き合わせるのは申し訳ないのですが……」
カレン「……私の事は良いのよ」
アコーダがカレンを真っ直ぐに見詰めたまま視線を逸らそうとしない。
カレン「……はあ、なんというかアンタ、10代の癖にすっかり政争に塗れた考え方になっちゃったわね。というかバラキューダスの影響を受け過ぎじゃないの?」
アコー「そうかもしれません。でも覚悟を決めたんです」
カレンがまた腕組みをして少し考えた後、口を開いた。
カレン「もうしょうがないわねー。アコーダがそうまで言うのなら私は付き合ってあげる。戴冠式も面倒だけど、可愛い弟の為に出てあげるわ。ギルバードもそれでいい?」
ギル「俺に聞くのか。カレンとアコーダが覚悟を決めて先に進もうとしているのに外野が口出し出来るもんでもないだろう」
カレン「なら決まりね。アコーダと私は4日後の朝に迎えの馬車に乗って城までパレードを行い、そのまま城内で即位戴冠の儀を執り行う!」
アコー「はい、よろしくお願いします」
バラカ「パレードに際してギルバード様にお願いがございます。アコーダ様の救出に力を貸してくださった皆様もパレードの馬車と一緒に行進頂けないでしょうか。率直に申し上げますと護衛です」
ギル「皆様ね……」(どうやらバラカーンは攻城戦で力を借りた冒険者パーティー、グリフォンとアルジョンの事を知っているようだな。報部の副長を務めているのは伊達じゃないってワケか)
バラカ「先程ギルバード様はおとりと仰いましたが、無策でアコーダ様とカレン様を危険に晒す訳には参りません。当然、宮廷の騎士たちも護衛は致しますが、1番近くを信頼のおける皆様に堅めて頂ければ、父も私も安心です」
カレン「騎士たちだけの護衛では不足と聞こえるんだけど?」
バラカ「そういうわけではありませんが……。万一騎士の中に敵方に与する者がいた場合、後手を踏みますのでそれに備えてです。あくまで念のためです」
アコー「護衛については、己からもお願いしたい。安心もさることながら今回の件で皆さんに何か御礼をしなければと考えていたところ。そのまま一緒に入城して褒賞を受けて貰いたい」
ギル「……俺たち以外の助力を願うとなると、俺には回答を出来かねるな。ソアラ、すまないがカークと一緒にグリフォンのリーダー、チェロック・ジーフスとアルジョンのリーダー、アスカ・イースを呼んできてくれないか。2人とも酒場にいるはずだ」
ソアラ「わかりました」
返事をすると、ソアラは直ぐに別室に控えていたカークと一緒に酒場へ出掛けていった。
ギル「褒賞の話なんだが……」
アコー「勿論、ギルバードさんには最大の謝意を以て遇させて頂くつもりだ」
ギル「そうじゃなくてな。今はアコーダの口から褒賞の件は言わない方が良いかもな」
アコー「どうして?」
ギル「いや……。冒険者の中には傭兵のように損得を最優先して動く者もいる。その場合は褒賞を素直に喜ぶだろう。だが、冒険者は王侯貴族との関係を嫌う者も多い。独立不羈を好む傾向にある。捻くれた見方かもしれないが、先程のアコーダの物言いは「金をやる代わりに護衛をしろ。言う事を聞け」と言っているようにも聞こえてしまう」
アコー「そんなつもりは全く無い!」
珍しくアコーダが激昂した。
ギル「分かっている、俺はな」
アコー「皆には本当に感謝していて……、感謝しきれないくらいなのだ。それに少しでも報いたいと思っている」
ギル「大丈夫、根は気の良い連中だ。今このタイミングで褒章の事を持ち出さなくても、素直に困っているから守ってくれと頼めば、きっと応えてくれるさ。褒賞は無事入城した後でも間に合う。それで気持ちは充分に伝わる」
アコー「分かった」
ギル「それに冒険者は天邪鬼が多いんだ。|素直じゃない性格の相手は慣れたもんだろう?」
アコー「確かに、慣れている(笑)」
ギルバードとアコーダはそんなやりとりの後、同時にカレンの方に顔を向けた。
カレン「ん、何?」
ちょうどカレンは別の事を考えていて、直前のやりとりを聞いていなかった。おかげでギルバードとアコーダは命乞いをせずに済んだ。
しばらくすると、ソアラとカークがチェロックとアスカを連れて戻って来た。
まずパレードの概要をバラカーンが説明。
次にアコーダはギルバードのアドバイスに従って褒章の件には触れず、馬車の周りをグリフォンとアルジョンが護衛しながら一緒に行進するよう、それぞれのリーダーであるチェロックとアスカに依頼した。
その際、アコーダは「なんとかお願いしたい」と言った後、深く頭を下げ、そしてしばらく静止した。
この光景を目の当たりにして驚いた表情を見せたのはプレセアだった。
アコーダは幼少より帝王学を学ばされている。その一環で『上位者たるもの首を垂れず』を刷り込みレベルで教導されてきた。その事を知っているプレセアにとっては驚愕に値する出来事だった。
チェロックとアスカは、アコーダとは救出後に会ったのが初対面でそんな事情は知る由も無い。だが次期皇国王という立場とは関係なく1人の人間としてアコーダが真摯に護衛を依頼している事は伝わったようだった。
チェロックとアスカの2人が、互いに「どうする?」といった感じのアイコンタクトで無言の相談をしていたところに「俺からも頼む」というギルバードの口添えが決め手となって受諾に至った。
その後、細かな打ち合わせをしてからバラカーンは城に戻っていった。




