覚醒
死者破裂によって手持ち?の死霊兵の半数を失ったギーブイだが、意に介していなかった。死体さえあれば、いくらでも補充可能だからだ。
辺りに死体はないが、意識を失って横たわるカレンとカークがいた。
勇者候補2人を両隣に従えている自身を想像するとまんざらではない。ギーブイは妄想を膨らませる。
ギーブイにとって、意識の無い人間は死者に限りなく近い存在となる。
死体のように破裂させたりは出来ないが、ある程度なら操る事がギーブイのスキルなら可能だ。
「???」
ギーブイが首を傾げる。
2人を操って立たせようとしたところ、カークはすんなり操れたのに対してカレンが抵抗を示した。
意識は戻っていない。
ギーブイにとって初めての経験だったので少し困惑したものの、本腰を入れてスキルを発動させたところ操れるようになった。
カークとカレンを向かい合って立たせて剣を抜かせる。
そして互いの剣先を合わせる。そうしたうえで少しずつ距離を縮めていく。
カレンの剣でカークを、カークの剣でカレンを貫いて、相打ちような形に持って行くのがギーブイの狙い。
何故そんな事をするのかといえば、それがギーブイなりの美学であり、趣味としか言い様がない。
わざわざ手間と時間をかけて殺めて自分の思いのままに動く死霊兵を作る。
それを操ったり破裂させるなど、道具として敢えて粗末に扱う。
もし死霊兵の家族か知人が、その様子をみて苦悩の表情でも見せようものなら、ギーブイには至福。
常人には決して理解出来そうもない癖だ。
そんなギーブイの下衆な趣味を意識の無い2人は無抵抗で受け入れるはずが、ここでもカレンだけ抵抗を示した。
更にギーブイは力を入れる。それでもカレンは思うようには動かない。
「ええい、もう良イわ」
ギーブイは諦めて死霊兵を操ってカレンとカークの腹のあたりを貫かせた。
意識のない2人から「ぐはっ」「ごぼっ」という声が漏れる。
大量の血がポタポタと流れ落ちて床が紅く染まっていく。
相打ちの形には出来なかったが、もう少しばかりの時間が経てば、上等の死体が2つ出来上がる。
ギーブイは、インスタント食品に熱湯を注いだ後のように静かに待つ。
但し、満たされるのは食欲ではなくて殺人欲。
殺人を犯して死霊兵を作り上げるのは、ギーブイにとって食事と類似の行為と言えた。
(もうすグだ)
ギーブイが涎を垂らしかねない面持ちで待っているとポタポタという音が聞こえなくなった。
(おかしイ。出血の止まるタイミングが早過ぎル)
これまで幾度となく同じ処理をしてきたギーブイは殺人の達人であり、絶対の自負を有している。
その彼が違和感を覚えた。
新手の城内兵士が現れてはいない。カレンとカークが意識を取り戻した様子もない。
ギルバードはアコーダの元を目指している最中であり、この場に現れるのは物理的に不可能。
にも拘わらず違和感は無くなるどころか、どんどん強くなる。そしてじきに違和感の正体が明らかになる。
紅く染まっていた床の色が、徐々に薄くなっていく。
ビデオの逆再生のようにカレンとカークから流れ出た血が身体に戻っていく。
全てが逆流して床だけではなく、血液がべったりついていた衣服と剣が綺麗になる。
「なんなんだ、こレは……」
これまで思うがままに人々を畏怖の念を刷り込み、最悪の気分にさせてきたギーブイが逆の立場に追い込まれつつある。
カレンが先に、次いでカークが立ち上がる。
剣を握って戦う姿勢をとる一方で、目の焦点は定まっていない様にも見える。
「意識が戻ったノか?」
ギーブイが話しかけても2人は答えずに、攻撃を仕掛ける。
ギルバードの弟子となって日は浅く、コンビネーション技の修練などはした事がない。
ところが、カレンが左から仕掛ければカークは右から。
正面から突っ込めば、裏に回り込んで挟撃するなど、互いにどう動くか予め分かっていたかのように振る舞う。
そうやって息の合った攻撃を見せたかと思うと、残った半数の死霊兵とギーブイの本体、影方を狂戦士のように闇雲に斬りつける。
死者破裂によって死霊兵が約半分(15人⇒7人)まで減っていたとはいえ、先程まで劣勢を強いられて大苦戦していたとは到底思えない程、敵を圧倒する。
しかもカレンとカークは未だに意識を失ったまま。
「一体何がどうなってイる」
ギーブイは訳が分からず、為す術がない。
通常の攻撃が通じないので死者破裂も繰り出すのだが、破裂する部位が膨らむと直ぐにカレンとカークが察知して、斬撃で膨らみをリセットしてしまう。
圧が高まらないので、破裂しても威力がない。
カレン「僕を」 カーク「呼び起こしたのは」 カレン「君かい?ギーブイ君」
カレンとカークとが交互に発声して1つの文章を組み立てて、しかも流暢に話す。
それにカレンは自分の事を僕とは言わない。
ギーブ「死者破裂を破るとは、お前たちは何者ダ?」
カーク&カレン「質問に質問で返すのは失礼だよ、ギーブイ君」
2人は会話と並行して残っている死霊兵の相手をする。
今まで斬っても突いてまともにダメージを与える事が出来なかった死霊兵だが、今回は違った。
カーク、カレン「死なない相手だろうが僕には関係ない。死ぬまで殺すだけだから」
そう言って非常に素早い動きで何度も斬った。
細切れとはいかないまでも、それに近いくらい敵をバラバラにする事で7人の死霊兵全てを倒してしまう。
カーク、カレン「死体が無ければ大した事が出来ないネクロマンサーの分際で、僕に歯向かうとは身の程知らずの見本だね」
いつしか2人の声色がカーク、カレンのどちらでもない変わっている。
ギーブ「アンタらは勇者候補の小娘と小僧ではなイのか?」
カーク、カレン「また質問に質問で返すのかい?どうも君とは会話が嚙み合わないね」
2人は、やれやれといった表情をしながらギーブイを軽く斬りつける。
それはダメージを与えるというより、敵を威圧して動きを止めるものだった。
ギーブイが手を動かそうとすればカークが手を斬りつける。
足を動かそうとすればカレンがその足を斬りつけて、元の姿勢を強要した。
結果、ギーブイは怖い先輩から叱責を受ける学生のように直立不動で、問われた事だけを答えるようになる。
カークとカレンに対する呼び方も、お前たち⇒アンタら⇒貴方様という具合に段階的に変わっていった。




