絶体絶命
<最悪のNの由来>
オーライン皇国には『デモン(悪い事)は重ねてやってくる』という諺がある。
由来や信憑性は定かではないが、少なくとも今のカレンとカークには、この諺が現実となってしまう。
ネクロマンサーであるギーブイの操る元衛兵の死霊兵と比べてスピードはなんとか互角。パワーと人数では負けて劣勢を強いられるカレンとカーク。
そんな状況の折、騒ぎを聞きつけて、今度は騎士が5人ほど騒ぎを聞きつけてやってきた。
前に来た衛兵の場合は、フロンテに従う形でカレンたちの敵だったが今回は違う。
今の状況を客観的にみると、魔物に襲われている人間の構図である。
そしてオーライン城内に魔物が出没する事には前例があり、騎士たちにも申送りされて情報共有されている。
数年前のブロアームシャドウによる皇后クラリティア殺傷事件である。奇しくもその現場にもカレンは立ち会っている。
結果として、騎士たちは反射的にギーブイの反目に回る。
それでもカレンたちにとって騎士たちは予期せぬ援軍、とはならなかった。
そして、敵であろうが味方であろうとギーブイには一切関係がない。
戦闘態勢を整える前に殺害してしまったからだ。
決して騎士たちが弱かったのではない。
元衛兵たちがまさかギーブイに操られているとは思わず、味方だと勘違いをした。
その虚を突いて5人の騎士たちを背後から、10人の元衛兵たちがメッタ刺しにした。
死体となった騎士たちをギーブイが操って元衛兵10人、元騎士5人の総勢15名の死霊兵団が出来上がる。
このような状況こそがギーブイ・ヌライロの2つ名である『最悪のN』と呼ばれるようになった由来である。
衛兵からすれば、死してなお、同胞を傷付ける為の戦いを強制される。
騎士の視点では、裏切られたと思って失望してしまう。ギーブイに操られている事を事前に知り得てたとしても、仲間に刃を向ける事に躊躇してしまう。
残された者にとっては、待望の援軍がそのまま敵の増援に置き換える。
どの立場であっても『最悪』と愚痴と溜息が出そうになる。その時ギーブイは冷たく笑っている。
<ギーブイの趣味>
騎士の死霊兵が敵に加わった事でカレンとカークは、よりシリアスな状況に追い込まれていく。
元々劣勢だったが、反撃の糸口を見つけられない。
それでも2人は心を折らずに抗い続ける。
四方を囲まれた2人は背中を寄せ合う。
純粋に死角を無くすのが目的だったが、それ以外の副産物も生んだ。
感じられる脈動と流れる血液が伝える暖かな体温が、言葉を発っせずともお互いを鼓舞する。
装備と衣服越しなので、本来なら殆ど感じられないはず。
だが、極限状態で感覚が鋭敏になっているからなのか、なぜかはっきり認識出来た。
「カークなら諦めたりしない」「カレンなら弱音を吐いたりしない」と思い出して奮起した。
そして「自分もまだ頑張れる。確かに生きている」と挫けそうになる身体と精神に何度も鞭を入れ続ける。
それでも事態は好転しない。むしろ消耗する体力の分だけ更に追い込まれる。
戦闘に長けた元騎士は身体が覚えているのか、詰将棋のような太刀筋で防御の僅かな隙をついてくる。
一旦距離を取ろうにも元衛兵たちが周りを包囲してそれを許さない。ただただ、ダメージと疲労が蓄積していく。
カーク(まずいな。ギルバード師匠ならどうするんだろうか)
カレン(まずいわね。ギルバードならどうするのかしらね)
打つ手のない2人は師匠のギルバードだったら、こんな時どうするのかを考えてみるが良案はない。
尚、その頃ギルバードはバラキューダスの案内でアコーダの元を目指しており、救援は望むべくもない。
対する元騎士、元衛兵は死者故にこれまでと同様に痛みを感じなければ出血もしない。
それでもカレンとカークはよく頑張っていた。
だが、ギーブはその頑張っている者の心を折りにくる。それが彼の趣味であり、大好物であった。
<ネクロマンサーの権能>
ギーブ「小娘ども。愚人が操る死者はフロンテのそれと比べテ、多少スピードが速いとか力が強いだけと勘違いしていなイか?」
カレン、カーク「………」
ギーブイの真似をしているわけではなく、今のカレンとカークには意図の分からない問いに返事をしている余裕はない。
ギーブ「無視とは冷たイのう、ギブブぶブ。まあイい。死者の行動を操るだけがネクロマンサーでは無イのだ」
余裕の無い2人に対して大上段から話しかけるのが、ギーブイは愉快でたまらないらしい。
カレン「笑い声が下品なのはフロンテと同じなのね」
ギーブ「好きに言い給エ。そんな事より、こんな事も出来るノだぞ」
ギーブイがそう言った直後、カークと眼前で競り合っていた元騎士の腕が膨れていく。
そして、そのまま膨れ上がっていき、最後はボンっ!という大きな音がして破裂した。
衝撃はかなりのもので、カークが仰け反り数歩後退させられる。
当の元騎士は、反動で数歩後退しただけで平然としている。それどころか、そのままカークに向かって突進、互いの後退で出来た距離を詰めると今度は全身が膨れて、そのまま破裂した。
初撃で腕がしびれていたカークはまともな防御態勢も取れずに、しかもより大きな威力の破裂だった為、身体ごと吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
「カーク!」
「ギブブぶブ」
その様子をカレンは心配そうな顔、ギーブイは楽しそうな顔で見ていた。
カレンがギーブイを睨みつける。
「死者破裂は中々の威力だロ?真に操るというのは、こういう事なノだ。愚人にとって死者は部下ではない。武器であり駒なノだ」
「本当に最低で最悪な奴ね!」
それでもカレンは強がってみせるが、既に限界に近い。
「光栄だ。御礼にそろそろ決着をつけてやロう」
ギーブイがそう言い放った直後、死霊兵たちが次々にカレンとカークに突っ込んでいく。近付く途中で全身が膨れ上がる。
「やばいっ!」
2人は瞬時に自爆目的の突進だと察するが、次々とやってくるため逃げ道がない。
ボンボンボボンっと連爆の音と共に死霊兵が破裂した。
死者破裂の連続攻撃をまともに受けたカレンとカークは意識を失ってしまう。
それまで心を折らずに踏みとどまって来た2人だったが、意識を飛ばされてしまってどうしようも無い。
この攻撃で半数の死霊兵が破裂したが、まだ半分残っている。
「ギブブぶブ」
ギーブイの笑い声が響き渡った。




