誓約のカメオ
カレンは大きく驚いてカークに質問をする。
カレン「ギーブイにダメージを与えてるじゃない!? 一体、何をやったのよ、カーク?」
カーク「どうやら身体は存在してるけどそれはダミーで、本体は影なんだよ」
カレン「……よく気付いたわね」
カーク「さっきギーブの傍にいた衛兵が剣を落としたんだけど、その時に少し違和感を感じたんだ」
いずれにしてもダメージを与えたと言っても掠り傷程度。それでも0が1になった事は大きい。特にカークよりカレンの方が興奮気味だった。
僅かながら光明が見えて士気の上がるカレンとカークだが、フロンテも黙っていない。
フロン「謎を1つ解いたくらいで、いい気になるでないわ。なあ、ギーブイ」
ギーブ「………」
ギーブイは黙っていた。
ブルーカルサイトが古の血の盟約を締結する
闇月光に伏して なお冥府の瘢痕を刻む
彼方者《を深き夢から呼び覚ませ、 デッドランドグリーフ
フロン「死者さえおれば自由に操る事が出来る。ゴホホホ、これでこちらの有利は変わらぬのう」
フロンテが詠唱を終えると、先程ギーブイに殺害された元衛兵10人が立ち上がってカレンとカークに向かって來る。
動きは遅くて単純だが、死者ゆえに痛みを感じる事はないし、出血もしない。
タフという表現で合っているか分からないが、とにかく面倒な敵である事に違いはなかった。
それでも白兵戦は得意としているカレンとカークだけあって、数的不利を物ともしない。
斬っても突いても倒れない元衛兵に対しては避ける事に徹して極力戦わず、フロンテとギーブイとの戦いに注力した。
ギーブイに攻撃が当たるようになっても、 相変わらずフロンテには攻撃が当たらない。それでも2人は攻め続ける。
カレンは武器をギーブイが衛兵を貫いた時に落とした長剣に持ち替え、そのまま突進する。
そして先頭の元衛兵に思い切り体重を乗せた蹴りで後方に仰け反らせる。
後方の敵もそれに押される形で態勢を崩す。そこにすかさずカレンが剣撃を加えた。
敵の数が多いため、そこで一旦少し距離を取った。
カークは長短2刀で戦う。
突進してくる元衛兵2人を1回フェイントを入れた後、すれ違うように躱す。
そして身体を軸に2刀で円を描いて回転をして無防備な側背面を斬りつける。
残った敵から回転が止まったところを狙われるが、今度は逆回転をして跳ね返した。
直線的で力強いステップを踏むカレン、滑らかな曲線で軽やかな動きのカーク。
まるで対照的だが、双方とも動きが定められている演舞の型のように格好が良かった。
その勢いのままカレンは今度はギーブイに突っ込んで行った。
黒の保護色で分り難いのだが、ギーブイ本体(影の方)は胸に黒いカメオのブローチを付けていた。
※カメオ:宝石や貝殻を『浮き彫り』で作った装飾品。浮彫を施す事で絵柄が立体的に見える
そのカメオに攻撃を仕掛けたカークの剣がヒットして割れてしまう。
誰も特にその事を気にしてなかったのだが……。
(気のせいか?)
これまで無言&無表情だったギーブイの口元が動いて、ニヤっと微笑んだようにカークには見えた。
次の瞬間、カレンの刃がフロンテの胸を貫いた。
フロンテが「ゴボっ」という呻きと共に吐血する。
「当たった…」
自分が握っている剣がフロンテを貫いている事にカレンが誰より驚いていた。
「ギ、ギーブイ……、其方……一体何のつもりだ?」
フロンテがギーブイを鬼の形相で睨みつける。
「もうキサマは終わりダ」
終始無言だったギーブイが口を開いた。
「なぜ身代わりの術式を解いた? そ、其方、胸のカメオはどうした?」
フロンテがギーブイの胸のカメオが割れている事に気付いて、尋常じゃなく狼狽えている。
「な、なんて事をしてくれたのだ。糞ガキどもめ、取り返しがつかんぞ」
「なによ、今まで散々悪い事をしてきたでしょう。胸に刺さった剣はその報いと思い知りなさい!」
「余の事ではない、ギーブイのカメオを砕いたのが問題なのだ。奴は悪魔の使い人。もう人類は奴を止められぬやもしれんぞ」
「人類って、大げさね」
「本当なのだ。……まあ良いわ、余の居なくなった世界がどうなろうと知った事では……ない」
そう言い残してフロンテはあっという間に事切れた。
「汝たちがカメオを割ったおかげで忌々しい誓約が破棄サレた。感謝スルぞ」
「あんた、喋れるんだな。フロンテの奴が言ってた事の意味は分かるか?」
カークがギーブイに話しかけた。
「愚人がそれを答える義務はナイ、と言いたいところだが礼替わりに答えてヤロう」
「愚人?」
「愚人は自分の事をそう言ウだけだ。口癖のようなものダ。それより先程の答えダが……」
これまで無表情だったギーブイが、薄っぺらく冷たい笑みを浮かべながら話を続ける。
「誓約の証であるカメオの霊力によってフロンテの奴の言う事に従っていた迄に過ギん。それが破壊されて愚人は自由になった。だから身代わりの術式も解除してやッタのだ」
「よく分からないけど無理やり戦わされていたなら、もうギーブイさんと僕たちが争う理由もない。お互いに剣を収めるって事で良くない?」
カークが持ち前の天然の性格を発揮して、平和的に事を納めて先を急ごうとしたが、ギーブイに無視された。
「……最悪のNという2つ名を知っていると言っていタな?」
「うん、言った」
「元来、人間が勝手に愚人の事をその2つ名で呼び始めたのだが、どうでも良かったのダ。それをフロンテのような馬鹿者が名を騙るようになって気が変わっタ。そう呼ばれるのも悪くないとナ」
「ごめん、何が言いたいのか分かんないです」
「前置きが長くなっタ。ネクロマンサーである愚人にとって人類は決して親睦を深める対象では無いノのだ」
周囲の温度が2℃程下がったようにカークとカレンには感じられた。
「忠実なしもべであり道具。死者となった後の話ダがな」
ギーブイが再び冷たく笑った。
「愚人の両脇に君たち勇者候補2人の死者が並ぶ。存外悪く無さそウだ。……というワケで、死んでくれ給エ」
そう言って指を動かすと床に放置されていた元衛兵が立ち上がって、操り人形のように動きだした。
本物の操り人形と異なるのは、ギーブイが1度命令を出した後は自動で動き続ける事と糸がつながっていない事。そして人形ではなく人間の死体という事だ。
元衛兵がカレンとカークに斬り掛かる。
カーク(動きが速い) カレン(速いわ)
カークとカレンが驚きながらも辛うじて皮1、2枚程度の傷で済んだが、先程より元衛兵の動きが数段速くなっている。
「断っておくが、操る死体の強さはネクロマンサー自身の強さにも影響を受ける。即ち、同じ死体であってもフロンテの奴が操っていた時とは速さも力強さも比較にならぬ」
カレン、カークに共通する長所の1つに、適応力と成長速度がある。
速くなった敵に最初こそ良い様にやられていたが、次第に躱したり防御が出来るようになっていく。ただ、ついていけるのはスピードだけ。
膂力の差が大き過ぎた。剣と剣をぶつけ合っても、はじかれて体勢を崩すのは決まってカレンとカークになる。
おまけに元衛兵10人と数も多いため、防戦一方の苦戦を強いられる。
「防御ばかりではつまラんぞ。もっと盛り上げてくれ給エ。それに死者は体力切れがない。愚人の魔力が続く限り動き続ケる。まだ君たちはそうではないだロう」
(「まだ」ですって。私たちを殺して操る事を前提にしちゃってる訳ね)
立腹したカレンが直ぐにでもギーブイを殴りたいと考えても、防御に追われてそれどころではない。
カークはカークで防御に徹しながらも、ギーブイ急襲を狙うが、元衛兵が連携の取れた動きのせいで隙が見出せない。
ギーブイが指摘した通りに体力だけが削られて、いよいよジリ貧に追い込まれていった。




