フロンテ・ネガス
「プレセア・シャロンはまだ見つからんのか」
フロンテ・ネガスが激昂していた。
「あやつを潜伏させると皇女カレンと合流して巻き返しにかかるに違いない。せっかく皇国王をしい弑し奉り、アコーダを幽閉したというのに全てが水泡に帰してしまう!」
「声が大きいぞ、フロンテ。誰が聞いているかわからん」
向かい正面にいるバラキューダスが戒める。
「ここには其方と余の護衛のギーブイしかおらぬわ」
「………」
ギーブイはフロンテの後方に控えたまま喋らない。
「其方の助言に従ってアコーダ皇子を幽閉したのだが、やはり皇国王と一緒に毒を盛るべきだったのではないか?もし皇女と皇子が組むような事になれば今こちらに靡いている諸侯も身の振り方を考えるようになるわ。そうだ、今からでも皇子を……」
「落ち着かんか。皇子なくして重臣や諸侯がこちらに付く訳がなかろう。手元に置いているからこそ服しておる、いや、お前の謀略と知っていても皇子の身を案じて面従腹背しておる侯もおるのだぞ」
(其方のようにか?)
バラキューダスに向けて言いかけた言葉をフロンテが飲み込む。
「追っ手を差し向けるだけでなく、魔導士たちに広範囲の魔法探知をさせておるが引っ掛からん。さすが馬鹿に序列1位は務まらん」
「呑気に敵を褒めている場合か!?」
「褒めているわけではなく、客観的に状況を検分しているだけだ。しかし魔法の使用はともかく、未だに足跡が全く掴めないという事は脱出用の隠し通路が本当に存在するのかもしれんな」
「隠し通路!?……この宮廷にか?」
「カレン様が宮廷を抜け出す時によく使っていたとの噂だ。ごく限られた者しか知らぬらしいが、カレン様に近いプレセアなら知っていてもおかしくはない。部屋の捜索と合わせて侍従長あたりを締上げてみると良いかもしれんな」
「ギーブイは存じておるか?」
「………」
ギーブイは無言のまま小さく首を振った。
バラキューダスが話を続ける。
「それに……、実は行先の見当はついておるのだよ。一昔前になるが、悲劇の英雄は存じておられるだろう?」
「大魔導士ギルバードの事であれば、宮廷内で知らない者などいないだろう」
「皇国王が何かある度にかか彼の者を持ち上げていたからな。おそらくプレセアは彼に救いを求めると思われる。もしかするとカレン様も一緒かもしれん」
「なんだと?それでギルバードは今どこにいる?」
「知らぬ。今探させているところだ。国境の大森林に居を構えているが、少し前に旅へ出たらしい。まあ発見は時間の問題だろう。それに……もし一緒でなかったとしてもプレセアはアコーダ皇子救出のために必ず戻ってくる。その時に捕らえればよかろう」
「なるほど」
「隠し通路を発見したら待ち伏せさせておくのが良いだろう」
しばらく後、フロンテの配下から隠し通路が発見され、最近使用された痕跡があるとの報告がもたらされた。