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2つ名:最悪のN(エヌ)

カレンの暴走気味の行動で、事の首謀者フロンテとその護衛ギーブイと急遽直接対決する事になったカレンとカーク。

これでもかというくらい苦戦していた。

なにしろ、フロンテに向かって攻撃を仕掛けても何故かギーブイに向かっていってしまう。

何故そうなるのか分からない。攻撃が当たってから相手がギーブイだった事に気付く。


しかもギーブイに攻撃が当たっても、まともにダメージを与えられていない。剣を振るった手には確かな感触があるにも(かかわ)らず、だ。

幾度試しても、その2重の不可思議な事が起こってしまう。そしてその後にフロンテの反撃を受ける。

八方塞がりと言って良い状況だが、それでも決着が付かず戦闘を継続できているのはカレンとカークが奮闘尽力をしているからではない。

フロンテが2人をいたぶって意識的に大きなダメージを与えないようにしているから。遊んでいる、と言って良い。


今もまた、攻撃が自分に及ぶ事は無いのが分かっているフロンテがゆっくりと詠唱を始める。

「原始の力感と拍子、型儀 悔恨と自責の日々 ブルーカルサイトの方陣 激衝の破軍 大地を踏む

中央に座する荒人(あらびと) 雄渾(ゆうこん)の連撃、ナーグサイス」

呪文を唱え終えると、カレンとカークに向かって無数の巨鎌が飛ぶ。

なんとか掻い潜ってクリーンヒットは免れたものの、2人にダメージが蓄積していく。


反撃を受けても、カレンはひたすら動きを止めずに次の1手を模索している。対照的にカークは運動量を抑えて目の前で起きている現象の分析に入っていた。

自分たちの攻撃が通じていないのは百も承知している。

「手足を動かせ、身体を動かせ、頭はもっと動かせ」ギルバードに弟子入りしてから何度そう言われたか分からない。

アプローチ方法こそ違うものの、カレンとカークは師匠の教えを実践していた。


(前にいるフロンテに攻撃してもダメ、後ろにいるギーブイに攻撃してもダメ。どうしろっていうのよ)

動きは止めていないもののカレンが思案に行き詰りかけたところにカークが割り込む形で、呪い系魔法を連発しての敵の拘束を試みる。


「開門を告げる鐘の音 大地に吹く緑の風 翼を閉じ 翼を休め 闇に走る

スフェーンの煌めきを以て かの敵を戒める、カース サプレス」


カークが詠唱を終えると、フロンテとギーブイの胴回りをスフェーン色に発光したリングが締上げる。

2人して直立不動の所謂(いわゆる)『気を付け』となるが、苦しんでいる様子は見受けられない。

「ほう、其方は魔法も使えるのか。余は今、待ち人来たりで非常に気分が良い。しばらく付き合ってやろうぞ」

カークとカレンは攻撃姿勢を崩さない一方で、フロンテは拘束されたまま会話を続ける奇妙な状況となっている。


「ところで、其方たちは『最悪のNエヌ』という余の2つ名は存じておるか?」

「聞いた事はあるわ。だけど、由来は謎らしいじゃない?もっとも最低最悪なんて嫌われ者の貴方にぴったりで、由来もそのままだと思うわ」

劣勢にあっても侮られない様にカレンが強がって答える。

「ゴホホホ、言ってくれる。当たらずとも遠からず、対峙する敵にとって最悪な相手、即ち嫌われるのも本望とも言える」

「どうでもいいけど、下品な笑い方ね」


「失礼な姫じゃのう、まあ聞け。最悪はともかくポイントはNエヌの方なのじゃよ。芸の無い浅はかな考えの者はフロンテ・ネガスのネガスからNを連想しよるが、違うのじゃよ」

「じゃあ、なんのNよ?」

「ゴホホホ、急くな急くな。重要なポイントがもう1つ。実は最悪のNという2つ名は余のオリジナルではない。先人に付けられていたものを余が貰い受けたのじゃ」

「そういえば……」

話を聞いているだけだったカークが口を挟む。


「聞いた事があるかも。なんでも昔遠くの国にそう呼ばれる極悪非道の王がいたとか。最悪が意味するのは、悪魔主義の王の行いそのものと、出会ってしまった犠牲者の心情から付けられたんだっけか」

「小僧、見かけに寄らず博識じゃのう。どこぞのオテンバ姫に爪の垢を煎じて飲ませてやった方が良いぞ」

「………」

カレンは黙っている。


「で、Nの方はどうかな?」

「それも聞いた。……ネクロマンサー(死霊使い)(Necromancer)のNエヌ

「ゴホホホ、その通り。じゃが、これは知らぬであろう? そこにいるギーブイ・ヌライロこそが2つ名:最悪のNのオリジンじゃ」

「え?」カークとカレンが驚いて同じ声を出した。

「傑作じゃろう?赫々(かっかく)たる2つ名まで得ていたネクロマンサーが逆に使役される側になっておる。身体だけじゃなく名前でも余に尽くしてくれてると訳じゃな」

2人の驚いた表情をフロンテが愉快そうに眺めている。


「さて……、そろそろ子供のお()りは終わりにしようかのー、なあギーブイ」

そういってフロンテは解呪の文言を呟くように詠唱して自身とギーブイの戒めを解いた。

改めてカークとカレンが戦闘姿勢をとると、そこに城内の衛兵が10人駆け込んできた。


衛兵「フロンテ様、こやつらは我々にお任せください」

フロンテとカレンとの間に入って立ちはだかる。

カレン「私、一応皇女なんだけど敵対するつもり?」

衛兵「黙れ、偽物!」

カレン「へー、そういう建前なんだ。いいわ、来なさいよ」


てっきりそのまま衛兵を含めた戦闘になるかと思いきや、そうはならない。

フロンテが何か癪に障ったのか、それとも気まぐれか不快感を示す。

 

フロン「(きょう)が削がれるのう……もう良いわ、ギーブイよ、邪魔者は片付けてしまえ」

ギーブ「………」

あっという間の出来事だった。ギーブイの腕?が伸びて衛兵の胸のあたりに突き刺さった。

衛兵全員が致命傷を受けて握っていた武器をその場に落とす。

その際、ギーブイの傍にいた1人が持っていた剣が真っ直ぐに落ちず、僅かにどこかに当たって跳ね返るような、おかしな動きをした。

おかしいと言っても些細な事だがカークは見逃さなかった。


カレン「自分の部下の衛兵を攻撃するなんてどういうつもり? 仲間割れ?」

フロン「ご都合主義の風見鶏は目障りなだけじゃ。この先も大して役に立つとは思えんし、そのような雑魚はいらん」

カレンもフロンも気付いている様子はない。


違和感を感じたものの確信している訳ではない。とにかく行き詰っている現状を打破すべく必死になっていた。

そのカークがギーブイの足元に映る影へ向かって剣を振るう。

それを見ているカレンは「何してるの?」とでも顔に書いてあるような表情をしている。

一方でフロンテは「まさか」という顔をしていた。


(かす)り傷程度だが、初めてギーブイにダメージを与えた瞬間だった。


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