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フロンテ・ネガスとギーブイ・ヌライロ

敵の数が想定していたより多かった。

カレンとカークは、思うように前に進めていない事から通路を使うのを諦めて、外壁に沿って進む決断をする。

ただ、その後もすんなりとはいかなかった。

「何やってんだよ、カレン。まさかロープがいきなり役に立つとは思わなかったよ!」

「なによ、ロープの強度を確認してみただけじゃない!」


カローランから預かったロープ2巻のうち、1巻は命綱としてカークとカレンを繋いでいる。

クレストルたちが断続的に城へ砲撃を放つ陽動活動は現在も続いており、砲弾が城壁に当たる度に爆音が鳴り響き、かなり揺れる。

カレンにしても織込(おりこ)み済みのはずだったが、想像していたより振動が凄くて足を踏み外してしまう。


「あっ」とカレンが叫んだ時には既に手遅れ。カレンとカレンの全装備すべての重量がロープを介してカークを下方に引っ張る。

「ぐぇっ」

危うく持って行かれそうなり、小鴨(こがも)の鳴き声のような声を出したカーク。

素手で外壁に張り付くだけでは耐えきれず、瞬時に近くの窓枠に剣を鞘ごと引っ掛けて、なんとか落下を(まぬが)れた。


「気をつけろよカレン!それから重過ぎだろ!」

「レディーに向かって失礼じゃないの」

「装備分を含めて言ってるんだよ」


ハプニングと多少の言い争いはあったものの以後は、慎重になったのが奏功して落下する事はなかった。

ただ、慎重過ぎて砲撃が来そうなタイミングで早めに動きを止めるので、時間が掛かって仕方がない。

(このままだとまずいな)と考えていると、遠くから3つ重なった爆発音が聞こえた後に砲撃がぴたりと止まった。


「砲撃が()んだな」

「第1班もクライマックスだわ。同時に第2班である私たちに残された時間もあまりないって事よね」

「急ごうカレン」

邪魔するモノがなくなったカレンはどんどん登って行く。カークも遅れないように付いて行く。


最上階まであと少しとなったところで、カレンが愚痴る。

「だいぶ登ったわね。なんで偉い人たちって自室を高いところに作りたがるのかしらね」

「自分も皇女のくせして他人事みたいに言うなよ……。奥まったところにある方が防護上にも都合が良いんだろ。実際、僕たちも辿り着くのが大変だし」

「そろそろだと思うけど、外側だと位置関係がイマイチ分かり難いわ」


「そういえば、ギルバード師匠、昔は空飛ぶ魔法が使えたんだってな」

「なにそれ、そんなのアリ!?」

「自由に飛び回れたりはしないけど、浮くことは出来たらしい」

「落下のリスクが無くなるのは大きいわよ。戻ったら教えて貰おうかしら」


出し抜けに「しーっ」とカークが人差し指を口の前に立てた。

そしてもう片方の手の人差し指で近くの窓を指さす。

「人がいる……」

声には出ていなかったが、カークの指と唇の動きから意図を察したカレンが窓の内側をそっと覗いてみる。


「フロンテ……」

窓の内に国防次官フロンテ・ネガスとその護衛を担うギーブイ・ヌライロの2人がいた。

その姿を見たカレンは(おもむろ)に自分とカークを繋いでいるロープを(ほど)いて部屋に入る。

(よど)みの無い動きにカークは止める間もなく、「仕方ないな」といった感じでカレンの後に続いて部屋に足を踏み入れる。


カレン「こいつがフロンテよ、カーク」

フロン「これはこれはカレン殿。こいつとは乱暴なお言葉。しかも窓から帰城とは、さすがオテンバ姫の2つ名に相応しい振る舞いだな。それに御一緒されているカーク殿、初めてお目に掛かるが勇者候補が揃い踏みとは光栄の極み」

カレン「なぜ貴方がカークを知っているの?」

フロン「希少な勇者候補が自国から2人も輩出されれば話題にもなろうというモノ。国防を担うものとして知っていて当然でしょう」


カーク「奥にいるのは?」

フロン「彼はギーブイ・ヌライロ、私の護衛です。とても無口ですが頼りになるのですよ」

ギーブ「………」


カレン「2対2よ、カーク」

カーク「皇子はどうすんだよ?」

カレン「目の前に居るこいつが元凶なのよ。ここで倒してしまえば解決じゃない?それに前に進む為に結局は倒さないとダメでしょ」

カーク(スルー出来たのに自分から部屋に飛び込んだ癖に……)

カレン「何か言った?」

カーク「なんでも無い」


フロン「いつの間に勇者候補同士で夫婦漫才が出来るくらい仲良しになったのですかな」

カレン「誰が夫婦よ」 カーク「誰が夫婦だ」

カレンとカークが同時にツッ込みを入れる。

ギーブ「………」

フロン「さて余も暇ではない。戯言はこれくらいにしようか。ずっと探しておったカレン殿が、自らやって来るとは手間が省けたわ」

カレン「先手必勝。行くわよ、カーク」


言い終わらないうちにカレンが右からフロンテの下半身を、カークが左から上半身にすれ違いざま斬りかかる。

カレン(手応えアリ)

確かな手応えを感じながら振り返るとダメージを受けた様子がない。何より不可思議だったのは、斬りつけた相手がフロンテではなくギーブイだった事だ。

そしてフロンテは別の場所にいて、涼しい顔をしている。

カーク(手前にいたフロンテに攻撃を仕掛けたはずなのに、なぜ僕は奥のギーブイの相手をしてるんだ……)

 

カレン「私が攻撃を仕掛けた相手はフロンテよね?」

普通なら意味不明な質問なのだが、カークはそう思っていない。何故なら自身も同じ疑問を抱いていたからだ。

カレン「それに剣を振るった時に確かな手応えがあったのに、ダメージを受けた様子もない。どういう事よ」

カーク「ごめん、今の2つの質問に対する答えは持ってない。というか、全く同じ疑問を僕も感じてるんだ」

カレン「そう。私の勘違いじゃないって分かっただけでも良かったわ」


フロン「どうかしたのか。ギーブイにはそんな攻撃は効かんぞ」

ギーブ「………」

カーク「カレン、もう1度だ。いや、何度でもやってやる」

カレン「ええ」


今度はフロンテではなく、最初からギーブイをターゲットに斬りかかる。

カレン(さっきと同じ手応え。そして……)

カーク「やっぱり効いてないみたいだ」

ギーブイがダメージを受けている様子はない。

カーク「諦めるな、もう1度だ。カレンはギーブイを狙って!」


結果は変わらない。2人がかりでギーブイに斬りかかるも変容はみられない。

カレン「やっぱり同じね。ダメージを受けてないわ。何か仕掛けがあるはず……」

カーク「訳が分からない……。どうしたら良いのか分からない」


カレン「なによ、何度でもやってやるんでしょ」

カーク「前言撤回する。この謎を解かないと僕たちは勝てない気がする」

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