撤収
ギルバードが魔力バイクでカレンを追って出立した後も残ったクレストル、シャロン、コンパス、アンの4人はオーライン城に向かって大砲で砲弾を飛ばしていた。
アン「さすがに砲弾の残りが少ないネ」
コンパ「そろそろ騎兵隊がやってくるはずだから丁度いいだろ」
城への攻撃と並行して騎兵隊の接近を注意深く警戒している。最初に気付いたのはスコープを覗いていたクレストルだ。
クレス「騎兵が来るぜ。数は……100騎以上、200騎くらいだな。コンパスも見てみろ」
コンパ「おーー、来てる来てる」
クレストルからスコープを渡されたコンパスが自分の目で確認する。
プレセ「魔法でもまだ探知出来ない距離なのに、それだとはっきり見えるんですね」
アン「のんびりしてる余裕はないわ。急いで撤収するわヨ」
既に万全の準備で待ち構えていた4人は騎兵の襲来を確認すると、大砲を残したまま直ぐに距離を取る。
しばらくするとリオン・クラウン率いる騎兵200騎が大砲の元に到着するのだが、その時には誰も残っていない。
アン「想定より馬足が速くてニアミスだったネ」
コンパ「先頭の隊長らしき女騎士が、1人突っ走って他を引っ張ってたな」
クレストルたちは、その様子を離れた場所に立っている樹木の上からスコープを使って見ている。
そして昨夜の打合せ通り、大砲アイコンの刻印が入ったバングル型リモコンを操作して兵士の動向を確認しながら〇×ボタンで煙を出したり、止めたりした。
ほぼ同時刻、回回砲の元にもクルーガス・プログレム隊が襲来。同様に弩砲の元にはリアハ・アルシラル隊が襲来した。
だが、グリフォンとアルジョン、どちらのメンバーも接近を早期に察知して、兵器から距離を取って騎兵隊との接触を回避していた。
そしてクレストルと同様にチェロックとアスカがリモコンの〇×ボタンで兵士の接近を監視しながら煙を操作して目論見通りに時間を稼ぐ。
3度目まで上手くいったが、4度目にもなると煙が出ても兵士たちの足は止まらない。
2人は前夜のギルバードの「最終的には処理する事にした」という科白を思い出していた。
リモコンの〇×ボタンを同時に長押しする。3秒後に火花が散り、回回砲と弩砲に仕掛けられた火薬が爆発を起こす。
回回砲と弩砲はバラバラになり、パーツ片が勢い良く吹き飛ぶ。
パーツ片は散弾のように散らばって兵器を調べようとしていた兵士だけでなく他の兵士をも巻き込んで、隊に大きなダメージを与えた。
とても荒っぽいやり方だが、こうして予定通り回回砲と弩砲が、復元はおろかまともに調べる事も困難な形で処理がなされた。
<リオン・クラウン>
大砲を調べようとする兵士たちに「止まるな!」と命令した後もリオンは警戒態勢を厳にして全方位を見渡していた。
クレストルたちのいる樹木のある方向を見た時、スコープが反射したのを見逃さなかった。
次の瞬間「2,3騎ついて来い。他の者はこのままで。この場は任せる」と言い残して馬を駆る。
あまりに急、しかもリオンの相棒は騎士団でも有数の駿馬。他がついて来れなくても手綱を緩めない。
生い茂る葉で全容は隠されているが、樹木のうえに数人の影を見定めるとリオンは走りながら馬に備えてあった4本継の槍を組み立て始める。
クレストルはスコープで兵士たちの動向を確認していた。
アンとコンパスも大砲に近付いている兵士の方に気が取られていて、リオンの接近には気付いていない。
「騎士が向かってきます」
魔法探知の範囲にリオンが侵蝕した事により最初にプレセアが気付いた。
それでも構わずにクレストルは〇×ボタンを同時に長押しする。
リオンが槍を逆手に握り直して投擲の姿勢を取ると、馬上からクレストルへ目掛けて槍を投げる。
長押しの3秒が経過してリオンの手から槍が離れる瞬間に大砲が爆発を起こす。爆音がリオンの背中に届けられる。
僅かなディレイの後、別の場所から回回砲と弩砲の分の爆発音が鳴った。
槍を投げ終えたリオンは爆発音のした方向を一瞥しただけで、そのままクレストルのいる樹に向かって走り続ける。
放たれた槍はクレストルに向かって一直線に飛んで来る。アンとコンパスが槍に気付いが、樹上で態勢が悪く対応が遅れてしまう。
(しまった。間に合わねぇ)
足場の定まらない中、回避を試みるが避け切れずに槍がクレストルの肩をかすめて肉を削る。
勢いに押されたクレストルがそのまま樹上から崩れ落ちる。
コンパスが落下の阻止を試みるが、支えきれない。せめて頭部からの落下を阻止すべくクレストルを抱え込んで一緒に落下する。
落ちてくるコンパスとクレストルに向かって、馬上のリオンが今度は剣を抜いて振り被る。
コンパスがリオンの剣にも気付いていて、目で追う事は出来ても手がふさがっていて対抗措置が取れない。
「こっちで受けるサ」
後追いするアンが剣を抜き、自らも落下しながら腕を伸ばしてコンパスの眼前でリオンの攻撃を受け止めた後、宙返りして足から着地した。
「あぶねぇ、ナイスだアン。助かった」
クレストルはコンパスが庇ったおかげで頭部からの落下は免れたものの全身を強打して気を失ってしまう。
コンパス自身は身体をぶつけたものの直ぐに立ち上がって、剣を抜いて構える。
アン&コンパス対リオンで睨み合いになる。2対1でもリオンは一歩も退く気配がない。
膠着状態になるかと思いきや、サイドからプレセアが自身の杖をリオンに突き付けて撤退を促す。
「ここは退いてくれませんか?リオン」
「プレセア……。そうか城内にいたカレン様とつながっているのはお前だったか」
騎士団長と序列1位の宮廷魔導士、特別仲が良かった訳ではないが共に前皇国王からの評価が高い者として尊重していた。付き合いも長い。
「カレン様と会ったの?」
「会った。多少会話しただけだが……。なるほど、この騒ぎは陽動なのか?」
「……どうかしら。それより3対1だけど続けるの?」
「問題ない。よくある事だ」
リオンは構えた剣を下ろす様子がない。
そこにようやく、騎兵隊の部下2人が追い付いてきた。
「リオン様、加勢しま……」
そう言いながら2人の部下が下馬しようして無防備になった一瞬を逃さずに、アンとコンパスがそれぞれ脚を斬りつけた。
2人分の出血が地面に広がっていく。
「このままだと失血死しちゃうぜ?」
「部下を見殺しにすル?」
アンとコンパスが改めてリオンに剣を向ける。
斬られた部分を抑えて自分で止血を試みるも、痛みで力が入らないのか血は止まらない。
「……分かった」
リオンの決断は早かった。構えを解いて自分の衣服を紐状に切り裂いた後、剣を鞘に納めた。
作った紐は部下の止血帯にした。
「すみません」
「いい、気にするな。それより戻るぞ、2人とも馬には乗れるか?」
謝る部下を気遣って騎乗するのを手伝う。
「速度は出せそうにありませんが、乗るだけなら大丈夫です」
リオンたちはそのままゆっくりと去っていった。
プレセアが回復魔法を掛けて傷口は塞がったもののクレストルは気を失ったまま。
「命には別条ないみたいサ」
コンパスがクレストルを担いで4人もその場から撤収した。
グリフォンとアルジョンのメンバーも回回砲と弩砲が爆発でバラバラになった事を見届けた後、誰にも邪魔をされる事無く無事に撤収した。




