決別
城下町チハヤの郊外にある城の隠し通路の入口に辿り着いたカレン、プレセア、ソアラの3人は小休止をとりながら侵入前最後の打合せを行っていた。
カレンとすれば、アコーダの元に一刻も早くすっ飛んで行きたいと気が逸るところだが、年長者でもあるプレセアがなんとか宥めた。
ソアラ「ここに来るまでにアコーダ様が幽閉されている、という噂を確認出来たのは良かった」
プレセ「カレン様を誘き寄せるためにフロンテが敢えて噂を流した可能性もあるわね」
ソアラ「だとしても、私たちは行くしかないよね」
プレセ「一方で協力を得られそうな諸侯の情報は得られなかった。既に皇族派の多くはフロンテに処刑されてしまっているから、仕方の無い事かもしれないけど」
ソアラ「私たちもカレン様と共謀して武半を企てた容疑者として指名手配されちゃってる。しかも、ご丁寧にDead Or Alive(生死問わず)だって」
プレセ「フロンテのやりそうな事よ。こうなるとギルバードさんが指摘していた通り、既に隠し通路はバレてる可能性が高いわね」
ソアラ「待ち伏せされてるか罠が仕掛けられてるか、その両方か」
カレンが黙ったままなのでプレセアとソアラの2人だけで会話が進んでいく。
プレセ「もっと時間があれば、味方となってくれる諸侯を探し出せるかもしれない、けれど……」
ソアラ「そんな時間はないでしょう。どうやって探せば良いかも分からない。下手な動きをすると、鴨葱とばかりに私たち3人を捕まえて、フロンテの機嫌を取ろうとする奴もいるかも」
プレセ「捕えられなくてもフロンテにカレン様の所在を知られるだけで、警戒態勢がより厳重になって城への侵入が余計に難しくなるでしょう」
ソアラ「結局のところ、私たちには隠し通路から城へ侵入する以外に選択肢が無い。まさか正面突破するわけにもいかないしね。そして極力敵と遭わずアコーダ様のところに行く」
カレン「考えるだけ無駄よ。時間が惜しいわ。そろそろ行きましょう」
黙っていたカレンが我慢しきれず出立を促す。
プレセ「……分かりました、行きましょう。隠し通路が未だ発見されていない事を祈りましょう」
プレセアが一呼吸置いて話を続ける。
プレセ「ですが、もし途中で待ち伏せされている事が判明したら、一旦撤退して仕切り直す事も視野に入れておいてください。私たち、いえカレン様が捕らえられると却ってアコーダ様の危険度が増します。先程も言いましたが、フロンテがアコーダ様を処刑せずに幽閉しているのは、カレン様を誘き出すため、という側面があります。キツイ言い方になりますが、2人を手中に収めたらその必要が無くなる」
カレン「分かってるわよ。私たちの目的は侵入でもアコーダとの面会でも無くて、あくまでも救出って事よね」
プレセ「その通りです。カレン様自身も無事脱出せねばなりません。ですが脱出してしまえば、その後はなんとでもなります。宣誓文を出して蜂起を促しても良いですし、皇女皇子の2人がお揃いなら、味方となる諸侯も出てくるでしょう」
アコーダを何とかして助け出したい。想いが一致している3人は危険を承知で、枯れ井戸近くの隠し通路に足を踏み入れる。
空高く風舞う月光の下、オブシディアンの理を以て霞を剥ぎ
躊躇いを消し、心の音を奏でる
ナニモノにも染まらぬ力で闇路を穿つ ムーンサイト
プレセアが暗視魔法を唱えた。
隠し通路は分岐が少なくて迷う事はほぼ無いが、暗くて見通しは悪い。
通常のダンジョン探索であれば、松明やランプで道を照らすところだが、今回のように秘密裡に侵入するケースでは遠目にも目立ち過ぎる。格好の的にもなるため使えない。
暗視魔法ムーンサイトを使う事で一時的に被術者は、昼間の明るさには及ばないものの、歩くのに支障がない程度には視えるようになる。
あまりに大規模な魔法だと、魔法探知の網に引っ掛かる恐れがあるが、暗視魔法ならその心配もない。
「ストップ。……4、いや5人。伏兵というより巡回兵ではないかと」
隠し通路の中盤に差し掛かった頃、先頭を歩いていたソアラが後ろの2人に向かって囁くように小さな声で言った。
「ギルバードさんの言った通り、やっぱり隠し通路は発見されてたみたいですね」
「だけど、5人なら余裕で倒せるでしょ」
カレンが剣を抜いて戦闘態勢に入ろうとする。
「カレン様、落ち着いて。巡回兵を倒しても定期連絡などで異変が発覚して守りを固められます。そうなると先に思うように進めなくなるだけでなくアコーダ様を危険に晒す事にもなります」
「巡回兵を倒した後、そのままの勢いでアコーダのところまで突っ走ればいいじゃない!」
「それは楽観的過ぎます」
「ちょっと2人とも、こんなところで言い争いしないで。見つからない様に後退しましょう」
隠密行動にも拘らず、言い争いを始めるカレンとプレセアをソアラが宥める。3人は来た道を戻って、巡回兵から十分な距離を取ってから改めて意見をぶつけ合う。
プレセ「良いですか、カレン様。繰り返しとなりますが、隠し通路を使う事でフロンテに見つかる事なくアコーダ様を救出する、というのが作戦の核です。ですが、もうその前提が崩れているんです。一旦戻って改めて作戦を練り直すべきです」
カレン「そんな時間はないのよ。今は幽閉で済んでるけど、いつフロンテの気が変わるかも知れない。隠し通路に入る前にも話したけど、良いアイデアも浮かばず、他に手段なんて無かったじゃない」
プレセ「なぜ、フロンテが入口付近ではなく隠し通路の途中に兵を配置しているのか。カレン様を誘い込んで逃げられないようにするのが狙いです。敵の術中に陥るのが分かってて、なお強行するおつもりですか」
プレセアの口調が厳しくなる。
カレン「相手の術中だろうと、危険を承知で飛び込まなきゃいけない時もあるのよ!私はクラリティア母様とアコーダを守ると約束したの」
プレセ「お約束の件は存じ上げています。だからこそ私はカレン様を止めねばならない。失礼ですが、カレン様は蛮勇と勇気を混同されています。何より今このまま進んでもアコーダ様をお救いする事は叶わない、結果約束も守れない」
カレンがアコーダを大事に思うのと同じくらい、生前のクラリティアからカレンとアコーダの事を託されたとの自負がプレセアにもある。
カレン「……所詮貴方たちにとっては他人事だよね。私の気持ちなんて分からない。プレセアとソアラが何と言おうと、私1人でも絶対に行くから!」
2人とも一歩も引かず、平行線の議論が続く。
(皆アコーダ様を助けたいという想いは同じはずなのに、どうしてこんなに食い違うのだろう)
不条理なやりとりにソアラの中で、もやもやが大きくなっていく。
カレン「さっきから黙ってるけど、ソアラ、貴方の考えはどうなの?」
ソアラ「私は、プレセア姉さんの言う通り、一度出直すべきだと思います。……でも……もし、カレン様がそれでも行くと命令を下されたらなら喜んでご一緒します。プレセア姉さんもそうでしょ?」
プレセ「ええ。意見は忌憚なく言うけれど、最後はカレン様と一緒に心中する覚悟よ。ですから、カレン様。1人でも行くなどと冗談でも言わないでください」
ソアラの問いに答えた後、プレセアがカレンの方に顔を向き直して話した。
カレン「じゃあ、時間も限られてるので議論はこれくらいにして結論を言うわ。今から言うのが最終決定であり、皇女としての命令です。2人には絶対に従って貰うから」
ここまで言った後、一呼吸吸置いてからカレンが口を開く。
カレン「ここで2人の私の護衛の任務を解きます。直ちにギルバードのところに戻りなさい」
プレア「何を仰るんですか!」 ソアラ「カレン様はどうなさるのですか?」
プレセアとソアラが、即座にそして同時に反論する。
カレン「これは最終決定で命令だって言ったでしょう。従って貰います、否応は無しよ。アコーダのところへは私1人で行きます。」
それまで激しい物言いだったカレンが優しい顔つきになる。
カレン「2人とも……これまでありがとう」
そう言ってカレンは2人に背を向けて歩き出そうとした瞬間、不意をついて男が忍び寄り手を伸ばしてカレンの口を押えた。
カレン「モガっ、ムグっ」
足搔くように暴れてみても、そんな事はお構いなし。男はカレンを荷物のように肩に担ぎ上げ、隠し通路の出口を目指して歩き出した。




