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クラフトマスターを訪ねて

ギルバードが魔王ドラゴニックの生まれ変わり(と思われる)勇者候補2人と他2人の5人パーティーを組むようになって1か月。

幾度かのモンスターとの実戦も経験して、それなりの形になってきた。

敵によって多少は変えるものの基本は前衛にカーク・カーバイン、カローラン・ミューの2人。少し下がって準前衛にカレン・オーライト。後衛はソアラ・シャロンが構える。

ギルバードはというと中央で全体のバランスを取っている。真円の砂時計で魔導士だった頃も同様のポジションを担う事が多かったのを(かんが)みると、性格的にも向いているのかもしれない。


通常の冒険とは違って、カークとカレンの修練も重視している為、ギルバードは前に出るのはなるべく控えている。

積極的に動くのは、例えば手本を見せたり、いよいよ危なくなった時だけに限定していた。

モンスター爺の2つ名を持つカロットワーフが転生したカローランも現役復帰して前衛で戦っているが、豊富なモンスター知識は健在。

敵の弱点や毒の有無などの注意ポイントを的確に仲間に伝えてくる。

一方、気分次第で3回尋ねられるまで答えない時があるなど、カローランらしい偏屈ぶりも発揮するが、それも結果的には敵を知るという情報の大切さを理解するのに一役買っている。


旅の最初の目的地はカタノの街。

街には奇怪な器具や魔術具を作り出すクラフトマスターと呼ばれる少年がいるらしい。

少年の名はクレストル・マークチェイスという。


15年前、真円の砂時計にはギルバード・ラインベッカの弟であるクライド・ラインベッカもいたのだが、彼もクラフトマスターと呼ばれていた。

ダンジョン内の地底湖の水を汲み上げ、その水を利用して聖水の弾丸を飛ばしたり、21人もの冒険者を乗せて移動する自動車(動力が魔力なので本人は魔動車と呼ぶ)を組み立てたりと、2つ名に恥じない奇才ぶりを発揮した。

 

「リン酸にジングステンだっけ?2つ合わせると結構な重さだけど、旅にこんなの必要あんの?」

「旅には必要ないが、手土産にするんだよ。といっても元々俺のじゃなく弟のクライドがストックしてたものなんだが」

アスカがギルバードに文句を言った。

 

「クラフトマスターって子が弟さんの生まれ変わりとは限らないんでしょ?もし違ってたら意味ないじゃない」

「その場合でも手土産としてこのまま渡すよ。俺が持っていても宝の持ち腐れだからな」

真円の砂時計に別段思い入れのないアスカにとっては、愚痴が止まらないのも無理のない事かもしれない。


クレストル・マークチェイスは果たしてクライドの生まれ変わりなのか。そうだとしてもカローランのように記憶を取り戻しているのか。

記憶が戻っていても、また一緒に旅をしたいと考えるのかどうか。分からない事はたくさんある。

だから行って確かめるのだが、また一緒に冒険出来るなら心強いし嬉しい。

しかし、魔王ドラゴニックと取引までして転生を実現させたギルバードは何よりクライドの気持ちを尊重するつもりだった。兄だと言っても、あくまでそれは生まれ変わる前の話であって今は事情が異なる。

理屈では分かっていても割り切れない部分もある事をギルバードは自覚していた。


「クライドだったらいいのう」

「ああ、そうだな」

複雑な心情を察したカローランが言葉数の少ない会話をギルバードと交わす。


ギルバードたちがカタノの街に到着し「さてどこから探そうか」と相談し始めた頃、探すまでもなく相手の方から近付いてきた。それも猛スピードで。

最初は馬に乗っているのかと思われたが違っていた。

鉄のフレームに車輪が2つ。後で聞いたところ、動力は魔力で乗って来た本人曰く「魔力バイク」というらしい。

その魔力バイクがそのままカークに向かってくる。

危うくぶつかるところだったが、カークが持ち前の反射神経を活かしたタンブリングのような動きでぎりぎり躱す。

魔力バイクはその少し先で止まった。


「動力を逆回転すれば良いやと思ってブレーキはつけてなかったが、こりゃ危険だぜ」

少年は降りるなり、周りを気にする事もなく魔力バイクのチェックを始めた。

「危ないだろ。もう少しでぶつかるところだぞ!」

ぶつかりそうになった事より、謝意が全く感じられない事にカークが怒りを(あらわ)にする。

「ぶつかってないし、ケガもしてないのにゴチャゴチャ言うんじゃねえよ」

悪態をつくだけで少年はカークの方を見ようともしない。

 

「ブレーキがないって、この奇怪な乗り物は自分で作ったのか?」

「魔力バイクってんだが俺が作った。まだ試作だけどな」

 (カークとの出会いは最悪だな(笑))


未だ名乗ってはいないが、その風貌と様子から少年がクラフトマスターの2つ名を持つクレストル・マークチェイスだとギルバードは推察した。

そして思わず笑みがこぼれる。昔、クライドとサンドラと出会いも似たような感じだったからだ。

「カロさんはどう思う?」

「むう、自分の作った術具で迷惑をかけても全く気にかける様子が一切見受けられんのう。あの不遜な態度はまさにクライドのそれじゃな」

「だよな(笑)」

カローランが自分と同じ感想を抱いた事で、ギルバードの印象は確信めいたものに変わった。

(ただ、俺を見ても反応がないという事は、記憶が戻ってないんだろうな)

 

「いやぁ、ごめん。魔力バッテリーとそれを積んだ魔力バイクを同時にテストしてたんだ。だけど、まだまだ改良しないと使い物にならんなこれは」

「まりょくばってりぃー、なにそれ?」

「おっ、興味あんのか?」

自分の作った道具について尋ねられてクレストルは、つい饒舌になる。


「興味というか、あんなの初めて見たから」

「こいつの動力は魔力なんだ。だけど魔力がない人や出力が安定してない場合でも、ちゃんと動くように魔力を貯める装置を積んでる。そいつを魔力バッテリーって言うんだ」

「それであんなにスピード出るのか。凄いね、君は」

「まあな。凡人は1つの変革がやっとだが、2つ一緒に革新を起こすのが天才ってもんだぜ」

(ついさっきぶつけられそうになって怒ってたのに、一言謝られたらもう機嫌が直っている。後腐れのないところはカークの美点だな)


「よし、お前いい奴だな。試作2号が出来たら乗せてやってもいいぞ」

「ほんとに?ありがとう!僕はカーク。君の名前は?」

「俺はクレストル。街じゃあクラフトマスターと呼ぶ奴もいるな」

「なによ、私も乗せなさいよ」

「なんだよお前は?」


「私はカレン。カレン・オーライトよ」

ふんぞり返るように腕を組んでカレンが名乗った。

「オーライト……という事はあんたが噂のオテンバ姫か」

「誰がオテンバよ!初対面で随分な挨拶するわね」

「そういう噂を聞いただけで、言ってるのは俺じゃない。俺のクラフトマスターと同じだな」

「クラフトマスターとオテンバだと、受ける印象が全然違うじゃない!」

 

(考えてみたらカーク、カレン、クレストルは3人とも14、15歳。殆ど同い年のせいか直ぐに友人になっちまうんだな)

不老で身体は20代後半とはいえ、精神は40代のせいかギルバードはここのところ親目線になる事が多くなっている。

「楽しんでるところに悪いんだが……」

「楽しんでないわよ」「楽しんでねーよ」

カレンとクレストルがハモって否定した。カークは特に反応はしなかった。


「俺はギルバード・ラインベッカ。クラフトマスターと呼ばれるクレストル君をスカウトに来た。冒険者となって俺たちと一緒に旅をしないか?」

「ここにいるカークやオテンバ姫もパーティーメンバーって訳か?」

「そうだ」


クレストルが少し考えてから口を開く。

「正直、冒険者ってモノに興味はある。モノづくりとレア素材収集はセットみたいなもんだしな」

「だったら、丁度良いじゃないのよ」

カレンがプッシュする。

「だが、今じゃないな。今は魔力バッテリーやバイクを完成させたい。兄弟もいるから勝手するわけにもいかない。だから申し訳ないが一緒には行けない」


「わかった、無理強い出来る事じゃないしな」

断られる事も想定内だったギルバードに驚きはない。

「でも俺たちはしばらくこの街に滞在するつもりだ。その間にもし気が変わったら言ってくれ。あとこれは手土産だ」

そういってギルバードは持って来たリン酸とジングステンを差し出した。


「会ったばかりで誘いも断ったのに、受け取る訳にはいかねえよ」

「気にするな。どうせ俺たちが持っていても使い道がないシロモノだよ」

「……実はその2つは魔力バッテリーとバイクを作るのに、めちゃくちゃ助かるんだよな」


「だったら尚の事、遠慮せずに受け取ってくれよ」

「じゃあ、これは貰っとくけど借り1つな。その代わりなんか困った事が言ってくれ」

「ああ、その時は頼むよ」


仲良くはなったが、ギルバードたちはクラフトマスターを仲間にする事には失敗した。


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