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初恋はオバケ  作者: 星 見人
9/22

愛姫百鬼夜行


 結界ギリギリまで来てバリバリと音を立てながら、手を結界の外に出そうと愛姫あいひめが頑張っている。


その結界の外周りには、沢山のお化けや妖怪が集まっていた。


みんな口々に「姐さん頑張れ!負けるな姐さん!」と愛姫を鼓舞し続けた。


結界を少し、少しと通るたびに愛姫の体は傷だらけになっていた。


「坊や、待っておれ!もう少しじゃ!何かあったのだろぉ。待っておれよ」と言いながら

体をドンドンと結界に食い込ませて行く。


僕はその頭の中に流れて来る映像をただただ見守る事しか出来なかった。


どれくらいの時間が経ったのだろう。もう少しで愛姫は結界の外に出れそうだった。


周り妖怪やお化けはもう阿鼻叫喚しながら

「あと少し!あと少し!」と叫んでいた。


僕も心の中で「愛姫ちゃん!頑張れ!」と叫んだ。


すると愛姫の体がズルッと結界の外に飛び出した。


一斉に周りのお化けや妖怪は大声で喜んだ。


すると愛姫が

「さぁさぁ、お前達、道を照らしておくれ!坊やの家まで行くよ!」と言った。


「おぉーーー!」と掛け声と共に一斉に左右に整列して一本の道が出来上がった。


その真ん中を愛姫は悠々と歩き進んでいく。

通り過ぎたお化けや妖怪達は愛姫の後ろに着き歩き始める。


山道を降りてドンドンと僕の家に近づいて来る。

そしてついに僕の家の前までたどり着いた。


愛姫は髪や体を整えながら

「お前達、ありがとう。面倒かけたの。また何かあったら声をかけさせてもらうよ。」と言い僕の家に入ってきた。


お化けや妖怪達はその愛姫の後ろ姿に向かって

「姐さんの頼みならいつでも集まりますよ」と言い手を振り、愛姫を見送った。


家に入った愛姫はゆっくりと僕の部屋に向かって来る。

もう少し、もう少し。

ハッと扉の方に目をやるともう愛姫は立っていた。


僕は泣きながら

「ごめん愛姫ちゃん…迎え行けなくて…痛い思いさせちゃって」と、言うと

愛姫はゆっくり近づき僕の布団に入って来た。


愛姫は

「何にも痛い事なんて無かったぞ。それよりも坊やの方が辛かろうに…」と言った。


そしてこう続けた。

「妾、毎日毎日が楽しくて、本当はこんな幸せが妾には訪れてはいけない事がわかっておるのに、坊やの優しさに甘えてしまっておった。坊やの体の負担も、もう少し考えるべきじゃったな」と言った。


僕は「ううん。全然負担じゃないよ。とっても僕は幸せだよ。ねぇ、愛姫ちゃん…魂道繋いでよ。赤ちゃんみたいで恥ずかしいけど抱っこして欲しいな」と照れながら言った。


愛姫はためらいながらもゆっくり魂道を僕に繋なぎ、そっと僕を抱きしめた。


そして愛姫は

「もう逢いに来てはダメだぞ。きっと妾は坊やをあの世に連れて行ってしまう。今日が最後じゃ…」と言った。


僕はニッコリ笑って

「風邪が治ったらすぐ迎えに行くよ。これからも楽しくて幸せな毎日を2人で過ごすんだ!」と言った。


愛姫は呆れた様に「ダメだと言っておるだろうに!聞き分けのない坊やじゃの。」と笑った。


愛姫は僕をぎゅーっと抱き

「今はゆっくり寝るといい。朝まではここに居るから。だからゆっくりおやすみ。坊や」と言い頭を撫でた。


僕はコクッと頷き目を閉じた。

するとあの日聞いた子守唄が聞こえてきた。初めて会ったあの日の、膝枕で胸をトントンとされて聞いたあの子守唄。


その子守唄を聴きながら僕はスゥーっと深い眠りについて行った。どこか甘く爽やかな牡丹の花の匂いのする中で。



            続




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