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断片を集めた物語   作者: 山村
3/16

第3話

「通報のあった子どもはあの中か?」

初老を迎えた男性警部は部下に歩み寄りながら聞く。

「はい、警部。他の客は全員避難させております」

「よし、よくやった。…だが、一体どうしたものか」

全国どこにでもあるハンバーガーショップを遠くに眺めながら警部は呟く。手に持った双眼鏡を覗くと、窓越しに小さな女の子が見えた。外の状況には気が付いていないようで、手に持ったハンバーガーを笑顔で食べている。その場面だけを切り取ってしまえば、よくある日常風景だが、彼女の体に取り付けられた武骨な茶色いベルトと物体によって、異常さを孕んだ光景へと変わっていた。

 ハンバーガーショップの店員からの通報だった。小さな女の子の身体に爆弾のような物が付いている、と。近頃世間を騒がせているテロリスト集団の模倣犯、あるいは誤通報の類かと思っていたが、警官を派遣したところ“本物の確立が高いこと”が確認された。



「本当に嫌な予感がするぜ」

警部は自然と悪態を吐いてしまう。現時点では起爆条件が把握出来ていないため、専用の装備が到着するまで待機していた。だが、私服の警察官が確認に行った際、時計の針が進むような音がしたとの報告から時限式ではないかと予想されている。時限式と言われると数か月前に起きた、警察が苦渋を舐めさせられた史上最悪といわれる爆破テロが思い起こされる。

突如「アノニマス」と名乗るテロ集団がインターネット上にて爆破を予告。日時と範囲を指定した犯行予告だった。しかし、警察はそれを悪戯と判断し、形だけのパトロールを行った。結果、大規模商業ビル内にて複数の爆発が起こり、数多の死傷者が出た。その後、世論から警察がどのように言われたのかは想像に難くないだろう。

もちろんその後に現場検証が行われ、爆発の規模や仕掛けた場所などがあまりにも腑に落ちない点が多かったものの、結論として時限爆弾として発表された。



「しかし、こんな悠長にしていていいもんかね」

じれったそうに警部は足を揺らす。

「そうですよ、今回はあんな小さな女の子が被害者ですからね。しかも、もし今回の件がA案件だった場合、対応が遅れれば遅れるほどどうなるのか分からないですからね。正直、(ブツ)もあれ一つとは思えないです」

「だよな。上はチンタラ何の準備をしているのか」

警部は電子タバコを取り出すと電源を付けた。

すると見覚えのある車体が敷地内へ入ってくるのが見えた。

「クソ、タイミング悪いな。おら、仕事だ、行くぞ」

電子タバコの電源を消しながら、警部は部下を引き連れて車へと向かった。



専用装備を身に着けた隊員がハンバーガーショップへと進んでいく。警部は車の中で備え付けられたモニターを眺めていた。作業者のヘルメットに付けられたカメラを通して現場を確認し、必要があれば指示出しを行う。

「目標はまだ店内で食事をしている。あまり怖がらせるなよ」

隊員は小さな声で、了解と返事をする。

 モニターに映る狭い視界が店内の様子を捉える。女の子は変わらず楽しそうに食事を続けていた。しかし、ガチャガチャという重苦しい音に気が付き、隊員の方へ視線を向けた。女の子は怯えた表情に変わり、隊員は落ち着くようにと穏やかに語り掛ける。最初は警戒している様子だったが、暫し時間が経つと危害を加えることがないと分かったのか落ち着いた。

 まずは、爆発物だということは伝えずに、どうして体にそんな物を付けているのかを女の子に確認をする。要約すると、近所に引っ越してきた若い男の人から、好きなものを買ってあげるから少しの間付けていて欲しいと頼まれた、との話だ。その男の人はとても優しい人で常に交流もあり、女の子は特に警戒することなく、その“お願い”を聞いたようだった。



 女の子の背後にいた容疑者も分かったことで、いよいよ解除作業に取り掛かろうとしたタイミングだった。ふと大きいアラームの音が店内に鳴り響き始める。音の出所は探すまでもなく、女の子の体に巻き付いた爆弾だった。

「おい。これヤバいんじゃないのか?!先ずは被害者から爆弾を切り離せ!ベルトの部分は切れねえのか!?」

警部の声に焦りが浮かびながらも指示を飛ばす。カメラに映る腕は、背後からボルトカッターを取り出し、女の子とベルトの間に刃を滑り込ませる。何度も刃を合わせるが、一向に断ち切れる様子がない。

「なんでベルト如きが切れねえんだ!」

焦る間にも無慈悲に時間は過ぎていく。響き続ける音は耳を塞ぎたくなるほどに巨大になっていた。すると突然静寂が訪れ、ピーッという心停止を知らせるような音が鳴りだした。

「警部!!」

同じように隣で経緯を見守っていた部下が叫ぶ。警部もその意味を瞬間で察していた。

「クソぉぉぉぉぉぉ!!退避だ!退避!!」

言葉を聞くや否や、カメラは反対方向を向き全力で駆け始めた。

「俺が全部責任を取る。吊るされるのは俺だけでいい。お前らは俺の指示に従っただけだ、分かったな」

椅子の背もたれに全体重を掛けながら警部は独り言のように呟いた。

「え?」

周囲の全員が下を向く中、カメラを見続けていた部下は唐突に画面に映った学ラン姿に素っ頓狂な声を出した。

「ったくよ。久しぶりにハンバーガーでも食おうと思ったら、えらい事になってんじゃねーか」

スピーカーから気の抜けた声が聞こえた直後、轟音と衝撃派が車を揺らした。



爆破事件再び、というニュースが全国を駆け巡った。幸いにも死者は0人。唯一、現場で対応に当たっていた処理班員が衝撃による軽い打ち身程度だったという。今回の手口は卑劣で、幼い女の子に爆弾を括り付け、そのまま爆破した。だが、幸いにも女の子は無傷だったという。その女の子曰く、「“変な黒いのを出す”怖いお兄ちゃんから助けてもらった」という。








今回の題材:時限爆弾を取り付けられた幼女が、ハンバーガーショップにいる。でした!

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