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断片を集めた物語   作者: 山村
15/16

第15話

久し振りの更新となります!

風邪だと思ったらインフルエンザでダウンしておりました(泣)

今かなり流行っているみたいなので、皆さんも体調崩さないようにお気を付けください!



前回からの続き(後編)となります!

 温泉で火照った身体は少し汗ばんでいる。先導する女性の仲居は、緊張している様子であった。部屋のある3階から移動して最上階となる5階の長い廊下を、私と須藤は並んで歩いていた。廊下の両脇には襖が幾つもあったが、その裏で何者かが息を潜めているような気配がしていた。

所々に並ぶ調度品は見るからに価値のありそうな物ばかりで、明らかに下の階とは雰囲気が異なっていた。

「しかし、本当に誰なんでしょうかねぇ~」

須藤はいつもと変わらない口調で、横を歩く私を流し見る。

「それは私にも分からん」

「えぇー、黒瀬さんならてっきり把握していると思っていましたよ」

「お前は私をなんだと思っているんだ。なんでもかんでも知っているわけではないぞ」

「まぁ、こんな趣味の悪い人とは、関わらない方が良さそうですからね」

「おい」

私は横目で前を歩く仲居の様子を伺うが、特に反応はなく静かに息を吐いた。周囲にも気を配ってみるが、動きがあるような気配は無い。須藤の言葉がもし“あちら側”の誰かに聞かれていれば、この後が不利になることは間違いなかっただろう。

一際大きな襖の前に立った仲居は、「こちらになります」と頭を下げた。私と黒瀬が目の前に立つと、音の無い動作で襖を左右に開け放つ。進むように促され、履いていたスリッパを脱ぎ敷居を跨いだ。

 

案内された部屋は縦長となっており奥行きがある。最奥には大きな屏風が飾られており、その前に一組の机と椅子が置かれ、そしてそこに座する人影があった。

近付いて姿がよく見えれば、意外にも若い女だった。そしてその後ろには体格の良い男が控えている。須藤と比べても、彼より全て一回り上回っている印象だ。

「当旅館は気に入っていただけたかしら?」

右手に持った扇子で口元を隠しながら、狐のような目をさらに細めて彼女は笑った。その笑顔から醸し出される余裕からは、他者から何物も奪われることがなく、かつ自分の欲しい物を全て手に入れてきたであろう事が伺えた。自らの力は今後も一切揺らぐことのないものだと確信をしているようでもある。

「えぇ。手厚いおもてなしをしてもらい、ありがとうございます」

「なら、良かった。のんびりしたいでしょうし、早めにお仕事の話はしちゃいましょうか」

笑みをずっと顔に貼り付けたまま、彼女は言う。私は彼女の言葉に短く「えぇ」と返した。

「先ずは自己紹介ね。私は九条(くじょう) (まい)。今回は招待に応じてもらって感謝するわ。」

私はあえて相槌を打たず、九条の次の言葉を待った。隣の須藤は私の様子をチラチラと伺っている。須藤が心配する理由は私も十分に理解をしていた。

 もし、思い浮かんでいる「九条家」であれば中々やっかいな相手であった。気楽に考えて足を運んだ自分を呪いたくなる。

九条家とは、日本国内に複数ある内の財閥の一つである。財閥というだけあって、九条家が手を伸ばせる範囲はとてつもなく広い。そして確か九条 舞と言えば、将来跡を継ぐことが確実と噂される秀才だと噂に聞いたことがあった。

ハァ…という九条の小さな溜息と同時に、開いていた扇子は小気味の良い音を立てて閉じられる。

「…黒瀬さん、あなたなら勿論こんな自己紹介の為だけに呼んだとは考えていないでしょう?」

「ああ。だが私がどうするかはあなたの話を聞いてから決めることにする」

「ええ、構いませんよ。ただ、本当に断ることが出来るならですけどね」

九条が言い終えるなり傍にいた男が片手を上げると左右・後ろの襖が開き、黒い服を身に着けた男達が餌に群がる蟻のように現れ、二人を半包囲する黒い壁が出来上がった。

「もし私と須藤に危害を加えれば、この旅館はおろか、お前に関連するもの全てが不幸な事故にあってしまうことを忘れるな」

私は周囲を見渡しながら、自身が考えているよりも殊更冷えた声が出る。

「ふふふ、良いわね。それでこそだわ」

頬杖をしながら嬉しそうに九条は微笑んだ。

「もういいわよ、あなたたち」

姿勢を正した彼女が片手を上げる。すると、私を取り囲んでいた男達が包囲を解き、部屋から続々と退散していく。去っていく中でも彼らの視線が私達から外れることはなかった。忠誠心が高いのか、脅しのためだけに集められたことにプライドが傷つけられたのか、或いはその両方か。ストレスや不満の捌け口とされた私は溜息を吐く。



よいしょ、と姿勢を正すと再び彼女は口を開いた。

「さて、それじゃあ余興も終わったことだし、本題に入りましょうか」

騙されそうになる人好きのする笑みを浮かべながら言葉を続ける。

「分かりやすく結論から言えば、私に力を貸して欲しいの。まぁ、用心棒みたいなものの契約ね」

「用心棒?」

隣に居た須藤が素っ頓狂な声を上げる。私はチラッと須藤を見る。それに気が付いた須藤はしまった、という表情になる。だが、たしなめる意味の流し目ではなく、ここまで何も口を挟まなかった須藤に驚いてのことだった。

「そうね。まぁ、守るだけではなく“攻め”にも使わせてもらうけれど」

「それは私の能力を理解した上で、ということで良いんだな?」

やらされるであろうことを暗に確認する。

「間違いないわ」

躊躇いも、悪びれることもなく九条は肯定した。

「…そこまでするということは穏やかではない相手なのか?」

「まぁ、穏やかではないわね。私が争っている相手はあなた達も知っていると思うわよ」

「あまり聞きたくはないが、一応聞いておこう」

「水戸財閥よ」

九条の口から出てきたのは、またしても強大な存在だった。水戸財閥は、九条家と並ぶ古くから日本に存在する財閥だ。その影響力は、九条家と変わらず国内だけではなく海外までも波及している。そして、現当主は過去の当主達と比較しても突出した才能とセンスであり、その勢いは他の財閥をも食い始めたと言われている。



「なかなか大きい名前が出てきたな」

自然と私は右手で顎を触りながら、今後への影響や立ち回りなど考える。

もし、ここで断ってしまえば、九条側から睨まれることは確定である。下手をすれば裏を知ってしまったということで、九条が手を回した“邪魔”へ対応する手間が増える可能性もある。かと言って、依頼を受けた先に良い未来が見えるとも思えない。だが、“九条 舞に会っている”という時点で選択肢は一つしか無くなっていた。

「もし黒瀬さんが私に協力してくれるというのであれば、全力でサポートはするわよ」

「途中でトカゲの尻尾切りをされたくはない、それは前提条件だ。ここでハッキリ、リスク・リターンと契約満了後の安全を確約して欲しい」

「ふむふむ。その心配は当たり前でしょうね。報酬について、先ず一つ目はもちろん金銭報酬ね。こちら前金で2億、後金で更に3億渡すわ。あ、もちろん、須藤君にも同じよ。終了後の安全については、私の名前と命にかけて保証するわ。それに黒瀬さんは用心深いでしょうから、もし私が口封じをしようと手を出せば返り討ちにあうことは確実だし、そんな危険なことはしないわよ」

と楽しそうに九条は声をたてた。

「…余程の大盤振る舞いだな。そこまで追い込まれている訳か」

「隠していたって、どうせバレるでしょうから言うけれど、正直、今の状況はあまり芳しくないわ」

「確かに近頃は水戸の名前を良くも悪くもよく聞くからな」

「えぇ。本来なら今までのように経済闘争をしたかったのよ。でも、如何せん裏側の動きが活発になっていて、九条の主要人物が既に何人か偶然の事故とかで持っていかれているのよ。現代で血が流れる争いは野蛮で、私自身あまり好きじゃないのよ。だから、致しかたなく存在を掴んでいたあなたに接触を図らせてもらったというのが本当のところよ」

彼女は心の底からうんざりしたように大きな溜息を吐いた。

「状況は分かった。ちなみにこの契約が定める終了の条件はなんだ?」

「そうね、“終わり”はハッキリさせておかないとね。これは簡単よ、現当主 水戸 海人を退かせることが条件よ」

「退かせるとは酷く曖昧な表現だな」

「まぁ、言葉の通り退けばいいのよ。それがどんな理由であれ、ね」

「だから私への依頼となる訳か」

ええ、と笑う九条の顔に蛇のような狡猾さを感じさせる。

「期限は?」

「特にないわ。まぁ、さっきも言った通りあまり状況はよくないから早めの方が嬉しいところではあるけれど。かと言って全然耐えられないほどでもないから、あなたのペースに任せるわ」

「…了解した。なら、その依頼とやらを受けよう」

「交渉成立ね。良かったわ。代わりを見つけるのも大変だし、処分とか余計な手間がかからなくて助かったわ」

話ながらも九条は席を立つとテーブルを迂回して、私の前に立ち右手を差し出した。そして私もその手を握り返す。

「須藤君もよろしくね」

私との握手が終わると、九条は後ろに立つ須藤の下へも行き握手を交わす。彼女は満足げな表情をしながら自分の席へと戻っていく。

「あ、そういえば黒瀬君は会社員なんだっけ?」

唐突な九条の問いにあぁ、と素っ気なく返事を返す。

「そう。それじゃ仕事がし易いように、ウチのグループ会社に引っ張り込んでおくから、よろしくね」

自らが持っている力を躊躇いなく縦横無尽に使用する女帝の姿はそこにある。自らの席に戻り、座り直した彼女は肘をテーブルにつき、手で口元を隠した。

「それと、あなたリサイクルショップに仲の良い女の子が居るそうじゃない?そういうのから情報が漏れたりして邪魔になることもあるのよねー。もし、あなたが裏切ったり、失敗したりしたら、怒って彼女に八つ当たりしちゃうかも。だからそのことをしっかり頭に入れてお仕事に取り組んでね」

「…あぁ、分かった」

突然飛び出してきた“彼女”の話に私は眩暈を覚えたが、辛うじて返事をする。動揺を顔には出していないと思いたい。

「何故彼女のことを?とか思っていそうね」

またも九条は獲物を見る蛇のような笑みで私を射すくめようとする。

「私はこれでも九条の一員なのよ。そこら中に目があることを忘れないでいて欲しいのよね」

「十分に分かった」

「えぇ、それじゃ改めてこれからはビジネスパートナーとしてよろしくね」

「…最後に確認だ。やり方やタイミングは私の判断で良いんだな?」

「良いわよ。ただ、大きなことをする時は、事前に連絡をくれればありがたいわね。まぁ、知らなくても対応は出来るから構わないけれど」

「分かった。それだけ確認できれば良い」

「うんうん、熱心なビジネスマンは私好きよ」

場を辞する挨拶をし、私は九条の部屋を足早に後にする。後ろを必死に付いて来ながらもワーワーと騒いでいる須藤を尻目に、私は今後の動き方を考えていた。



「須藤が推薦してくるだけ、有能そうな駒だったわね」

傍に控えた巨漢の男は慣れた手つきで、私のティーカップに紅茶を注ぐ。

「事前に須藤から店員の話を聞いておいて良かったわ。表情は変わらなかったけれど、目の動きまでは隠せなかったわね。いざとなれば人質にでも人柱にでも何でも使ってやりましょう。須藤には常に監視して報告するように言っておいてちょうだい」

いつもの香りに心を落ち着かせながら、紅茶を一口飲む。

「力のない人間は本当に哀れよね」

うーん、と私は伸びをする。





今回のお題:欲深い刑事が、露天風呂にいる。でした!


露天風呂、一瞬!刑事はサブ!

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