第14話
今回のお題は複数編になります。
また、体調を崩してしまいました…。
体調の隙を見て少しずつ進めているので、次話は少しお時間頂くかもしれません。
ご了承のほどよろしくお願いいたします。
大きな身体をした男は肌を刺す冷えた外気から逃げるように、岩堀した露天風呂へと飛び込む。
「はー、気持ち良いっすねー」
「おい、須藤。こっちに水が飛ぶだろ、もう少し静かに入れ」
「他に人が居ないんですから良いじゃないですか。許してくださいよ、黒瀬さん」
須藤は先に入っていた黒瀬の肩を叩いた。大男の強い力に、黒瀬は煩わしそうにその手を払う。
「全く調子の良いやつだ」
へりに置いていたタオルを手に取り、黒瀬は自分の顔を拭く。
「しかし、こんな高級な旅館に泊まれるなんて運が良いですよね」
そのまま水の中に溶けていってしまいそうな程、気の抜けた顔をしながら須藤は言う。
「運…ではないのだろうな…」
そんな須藤とは相反して黒瀬の表情は晴れない。
ある日黒瀬が、幾つか持つ隠れ家の一つで過ごしていると一通の封筒が届いた。よくある茶封筒に黒瀬の名前が印字されているだけで、切手や差出人が分かるものは無かった。封筒は薄く、触ってみると案の定数枚ほど紙が入っている程度であった。
その薄さから爆発物等の可能性は低かったが、黒瀬は丁寧にゆっくりと封筒を開封した。中身は、A4用紙を三つ折りにしたものと、その紙に包まれていたチケットであった。A4用紙に目を通すと、その内容は形式的で一般的な案内状だった。その内容はごく単純で、とある高級旅館へ友人諸共招待したいとの旨であった。だが、差し出した人物へ警戒を強めるに至る理由が、友人の枠に須藤を名指ししていたことであった。
こちらの“事情”を把握していることは間違いないだろう。そして、分かった上で私たちを呼び出すことが出来る差出人ということだ。余程の命知らずか、対抗する術を持っているのだろう。私は自分や須藤の持つ力が、“自分達だけ”であるとは考えていない。他にも同じ恩恵を受けている者が居るだろうことは理解していた。だが、この様な形で接触を試みてくることは想定していなかった。
先方から名前が挙げられたからにはと、嫌々ながらも須藤に相談の連絡を入れる。
「良いじゃないですか、温泉!わざわざ招待してくれるってことはきっと気前の良い人ですよ!」
「はぁ~」
「あ!黒瀬さん、何ですかその溜息は!」
慎重さと思慮深さには全く期待していなかったが、僅かたりとも疑わない返事に、私は溜息を吐いた。
「期待が私の口から漏れ出た音だ」
「酷いですよ!これでも黒瀬さんの気持ちを汲んでるんですよ!」
電話口でも騒がしい須藤に、黒瀬は空いている手で額を押さえた。
「どこが私の気持ちを汲んでいるんだ。単純にお前は、良い宿だから行きたいだけだろう」
「うっ…!それは………!」
口籠る須藤。見えずとも身体を仰け反らせて困っている姿が目に浮かぶ。
「まぁ、いい。その日と翌日の予定は大丈夫か?」
「お!どうにかしてみせますから大丈夫です!」
「それは本当に大丈夫か…?」
「普段の行いが良いので、幾らでも調整はできますよ!」
今、須藤は電話の向こうで胸を張っているのだろうな、と黒瀬は思う。またしても自然と口から息が長く漏れてしまう。
「ダメになりそうでも、自分でどうにかするんだぞ」
「了解しました!」
嬉しそうに勢いのある返事をする須藤に気が抜けてしまい、黒瀬は静かに笑う。
「当日は適当な時間に集合して向かうぞ。有名な旅館だから場所は大丈夫だろう」
「そうですね!運転は、自分がしていくので黒瀬さんを迎えに行きますよ」
「そうしてもらえるとありがたい。私も明日、明後日の内にこちらを出て、そっちに向かう」
「まーた、外に居たんですか。本当に黒瀬さんは忙しいですね」
「職業柄、仕方ないさ」
「どこにでも隠れ家があるってのは羨ましいですけどね」
「お前はすぐに飽きて面倒臭いとか言いそうだけどな」
「うーん、それは有り得そうですね」
と須藤は声を上げて笑った。
「まぁ、そいうことだ。当日はよろしく頼むよ」
「了解っす!」
となんやかんや即決で誘いに乗ることが決定してしまい、そして当日を迎えた私たちは、露天風呂に浸かっていたのであった。
次回に続きます!




