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断片を集めた物語   作者: 山村
10/16

第10話

雑多なルーツが混ざり合った独特な臭いが嗅覚を刺激する。ひどく日焼けした物から、真新しい物が立ち並ぶ店内をゆっくりと歩き回る。コンビニの居ぬきを利用した小さな店舗だが、商品を見て回る客の数が意外にも多い。

近年、古着への注目が高まったことで、リサイクルショップの数が増えた。元々、リサイクルショップを見て回ることが好きだった私は、この流れに喜びを感じていた。リサイクルショップにはお宝が眠っていることが多い。インターネットの発達により商品価格の共有はある程度行われており、ジャンルに関わらずメジャーな商品は適正な値段を付けられている。だが時折、その網目から零れ落ちている商品がある。私はその様な“特別”な存在を見つけることが好きだった。



「あ、黒瀬さん」

謎の置物達が好き勝手に並んでいるコーナーを眺めていると唐突に声を掛けられる。横を向けば、エプロンを付けた女性が立っていた。そのエプロンには妙にリアルな信楽焼タヌキのイラストがプリントされている。

「どうも。やっぱりまだそのタヌキなのですね。もう少し可愛くした方が絶対人気出ますよ」

「また、そういうこと言って。前から何度も言っていますけれど、これ以上に可愛いタヌキは存在しないですよ」

と、お決まりの応酬をする。

「信楽焼のタヌキが可愛いという女性は少数派だと思いますが」

「自分の好きなモノを、可愛いとも好きだとも言えない社会であれば私は戦います!」

グッと握りこぶしを作る彼女は、若いながらも店長を務める冴木さん。何店舗もあるお店のため雇われ店長ではあるが、1つの店を自分の力量で切り盛りしている。その責任感と胆力には見習うところがある。そんな彼女とは、店に何度も足を運ぶうちに自然と顔見知りになり、挨拶をする仲になってしまった。

「今日は何か良い物は見つかりましたか?最近、物を売りに来る人が多くて商品数も大分増えたと思うんですよ」

冴木さんは目の前にあった木彫りの鷹の置物の位置を調整しながら言う。

「確かに、色々増えてましたね。お陰で楽しく見させてもらっています」

「本当に黒瀬さんって不思議ですよね。私とそんなに年齢が変わらないのに妙に落ち着いていてお爺ちゃんみたいというか…」

「ただただ感情表現が得意ではないだけですよ。というか、さり気なくお爺ちゃんと言いましたね?」

「あ!今のは、ほら、言葉の綾っていうやつですよ!褒めてるんですよ、褒めてるんです!」

わたわたと両手を振る冴木さんの姿に私は自然と笑いが漏れる。

「あ、馬鹿にしてますね?」

「してないですよ」

「笑っていましたもん、絶対していますよ!」

ついいつも感情表現の豊かな冴木さんを、からかいたくなってしまう。



「あれ?黒瀬さんって小さいご兄弟かお子さんって居ましたっけ?」

ふと、冴木さんは私が手に持つ商品に気が付いた。

「いや、居ませんよ。近所に仲の良い家族が居まして。そこの娘さんにプレゼントでも、と」

「それが必要になるなんて、とても元気の良さそうな女の子ですね」

「えぇ、まだまだ私も若いはずですが、子どものパワーには驚かされます」

ハーネスのようなベルトがついた黒のリュックサックを私は胸の高さまで持ち上げる。

「そうですよねー。私の周りでも結婚して子どもを産む人が増えてきたんですけど、いつも騒がしくて楽しそうです」

ふふふ、と友人達の幸せを想像したのか、彼女は表情を柔らかく崩した。

「でも、黒瀬さんが子どもと仲良くしているとは意外でした」

「まったく。私だって社会の一員ですよ。というか、今日の冴木さんの言葉にはなんだか棘がありますね」

「それは普段の立ち振る舞いのせいですよ」

他人から言われれば嫌な言葉も、冴木さんが口にすれば何故か許せてしまう。ひょんなことから出来た繋がりがこんなにも心地の良い物になるとは、私自身思いも寄らなかった。



「冴木さん。もしよければ今度食事に行きませんか?」

突然の言葉に冴木さんは数秒フリーズする。その後、急速に顔が赤くなり、両手をまたしてもわたわたと振った。

「え、え?食事ですか?私と!?」

「そうです。冴木さんと、です。ただ、出来ればお昼辺りに待ち合わせをして、午後は買い物にも付き合ってもらいたいです。その後、夕飯までお付き合いいただきたいです」

「分かりました!私で良ければ全然大丈夫ですよ!」

「ありがとうございます。それでは次の土曜日に駅近くのハンバーガーショップで待ち合わせはどうでしょう?」

「その日なら大丈夫です!楽しみにしてますね!」

見ているだけで心が温かくなるような笑顔を冴木さんは浮かべた。



その後、私は黒いリュックサックを購入し、冴木さんと別れ店を後にした。直近でやらなければならない事を頭の中で整理する。先ずは、近所に住む女の子にリュックサックを渡さなければならない。そして、件のハンバーガーショップへと向かわせる。どのように誘導すれば素直にいうことを聞いてくれるか作戦を考える。このような時の為に、私はあの家族と親睦を深めてきたのだ。

ある日突然私は、理想の世界を実現できるであろう力を得た。先にある大義を実現するためにも、目の前にある不安要素と障害を排除していかなければならない。

だが、欠けた自分自身を反映したかのように、能力も不完全であった。完璧でない人間が使用する出来損ないの能力。あの日々を思い出させるように、私が不完全な存在であるということを目の前に突き付けてくる。だからこそ、歩みを止めることは出来ない。どれだけ痛みを伴おうとも、醜さや残酷さに溢れたこの世界に不完全さを突き付けなければならない。



鮮やかなオレンジ色に空が染まる中、自宅アパートの前へ戻ると少女が1人で遊んでいた。

「あ、お兄ちゃん!お帰りなさい!」

無垢な笑顔を浮かべて少女が近寄ってくる。私はいつものように少女の頭を撫でた。







今回のお題:効率主義者の詐欺師が、リサイクルショップにいる。でした!

調子の波に負けないように頑張りたいです!(泣)

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