第1話
今日は皮肉にも雲一つない綺麗な青空だった。朝、淀んだ雲海と屋根を叩く小さな足音を求めて目を開いたが、僕の陳腐な祈りは虚空に消えた。
秋と呼んでいい時期のはずだが、太陽は未だにその勢いを保っている。周囲に視線を向けると、いくつもの白いテントの下で体操服を来た子どもたちが騒いでいる。
隣で体育座りをする女子を流し見る。誰とでも分け隔てなく笑い合える彼女の表情は、暑さを全く感じさせず溌剌としていた。視線に気が付いたのか、彼女は途端に冷えた瞳を僕に向けた。勢いを増した日差しによって、身体を這うように汗が流れていった。
けたたましいアナウンスがグラウンドに響き続ける。競技が同時進行で進められ、あちこちから応援の声が途切れることもない。憂鬱な気持ちを抱えたまま、その他大勢の中に紛れ込む。曇天を望む気持ちは変わらないが、いつもと違い周囲の関心はグランドへと向けられているため、比較的穏やかに過ごすことが出来ていた。
しかし、この時間もあと少しで終わりを告げる。運命なんて糞くらえだと叫びたくなるが、最終競技であるリレーのアンカーを走らなければならない。もちろん僕が望んだわけもなければ、周囲が望んだわけでもない。公平性を、という担任の先生の急な思い付きでリレーメンバーがくじ引きで選ばれることになった。当然クラス内から反発は出たが、頑として聞き入れられず、そのまま僕も最下流まで一緒に流されることになってしまった。
それから今日まで、周囲の圧力は更に激しいものとなっていた。個人的な“練習”をたくさんして身体中に痣を作ることにもなった。僕は震える腕で立てた足を強く抱きしめた。
既に銃声は鳴り終え、グラウンドに響く応援の声にも熱が籠っている。第三走者は僅かな差で2位。こちらを見つめる、いつも悪意に満ちていたその双眸には純粋な光だけが見えた。視線の瞬間の交差、後ろ手に受け取るバトン。
「遼!」
彼が僕の名前を叫ぶ。鎖の外れる音がした。
今回の題材:「対人恐怖症のいじめられっ子が、小学校の運動会にいる」でした!