図書館に恋した物語
私は昔から、本が大嫌いだった。
あんな文字だらけのモノなんて、読んでいて疲れるじゃない。
そんな私が、『図書館』に『恋した』物語。
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「……んもぉ、来週から読書週間って、ほんと嫌なのよね……」
学校の帰り道、私はボソボソと呟く。
二ヶ月に一回訪れる、私の大嫌いな週間。
「まあ、適当に読めばいっか」
今日は何だか、違う道を通ってみよう。
……何でかは分からないけど。
いつもの丁字路を真っ直ぐ行ってみよう。
「……ここら辺、初めてかも」
どうやら、この街の商店街に入ったみたいだ。
色々なお店がある。
(……?)
ふと、雰囲気がちょっと違う建物を見つけた。
そこには『貴方の心に寄り添う小さな図書館』と、書かれている。
(やだやだ、本を読んでって言ってるみたい)
その場を離れようとした。
けど、『貴方の心に寄り添う』って文字が気になる。
「た、試してみようかな」
時間はあるし、少し入ってみよう。
▪▪▪
中は教室を3つ奥に、くっ付けたぐらいの広さだ。
「……あら?いらっしゃい」
カウンターに居る女性が話しかける。
もしかして、司書の人かな。
「あ、あの。ちょっと気になって」
私はそう返す。
「そう。ゆっくり見ていってね」
私は図書館の中を見回る。
天井はそこそこ高く、上までぎっしり本が入っている。
(本、いっぱいあるわね)
大御所の作家から、見掛けない作家まで。
色々な本がある。
「貴女、本はお好き?」
あの女性が話しかけてきた。
「……は、はぁ……」
「急に話しかけて、申し訳ないわ。わたしは、この図書館の司書である柊木千鶴と言います。じっくり見ているから、気になったのよ」
(私の悩み、千鶴さんに話してみよう)
そう思って、『本が大嫌い』な事を話した。
「なるほどね……それじゃあ」
千鶴さんは、一つの本を取り出した。
「これはね、わたしが最初に読んだ本よ。難しい言葉は書いていないから、とっても読みやすいと思うわ」
『こどもの熊の、親孝行』と言う本を渡した。
文庫本よりも少し厚みがない感じだ。
(千鶴さんが、そう言うなら……)
借りて読んでみよう、そう思った。
その旨を言うと、千鶴さんは微笑んだ。
「それじゃあ、初めて借りるから……ちょっとした手続きをしましょう」
カウンターから、バーコードが付いたカードと紙を取り出した。
「これが貸し出しの記録用のカードよ。紙には、名前と暗証番号を良いかしら」
私の名前と、四桁の番号を書いた。
それをカウンターのパソコンに入力し、バーコードを通す。
「……それじゃあ、登録はおわり。貸し出しの期間は、特に決まってはいないから、好きなときに返してね」
そして、私は本を貸し出した。
▫▫▫
家に帰って、私は借りた本を読み出した。
千鶴さんの言う通り、難しい言葉は書かれていない。
そっからは、あっという間だ。
すらすらと読んでいたのだ。
(……最後まで、読めた)
読書嫌いの私が、最後まで読めた。
これが『食わず嫌い』、だったのかな。
「明日も、行ってみよう」
明日は丁度休みだ。
行ってみて、損はない。
その日は、そのまま眠りについた。
▫▫▫
翌日、土曜日。
私はまた、あの図書館に向かった。
「あら、貴女は昨日の」
千鶴さんが話しかける。
勧められた本が、面白かった事を話す。
「そう!それは良かったわ」
「あの」
私は、図書館の名前の事を聞いてみる。
「……実はね、わたしも貴女みたいに本が嫌いだったの。でもね、色々な本を読んでみて、魅力を伝えたいって思ったのよ」
千鶴さんも、本が嫌いだったのか。
それは、意外だった。
「……さて、今日は何を読む?」
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あれから一ヶ月か過ぎた頃、千鶴さんが病を患ったと聞いた。
私は千鶴さんが入院している、病院へ向かった。
「あら、お見舞いに来てくれたのね」
私の姿を見て、千鶴さんが言う。
「休館になって、心配したので」
私は、そう返す。
「……貴女、わたしの図書館に恋しているわね」
ふと、千鶴さんが呟く。
「図書館に……恋?」
「恋ってモノは、好きの現れでしょ?わたしには、貴女がそんな感じに見えるの。……そうじゃ無かったら、お見舞いに来ないでしょ?」
あの日から、毎日図書館に来ていた。
……そして今、病で倒れた千鶴さんのお見舞いに来ている。
そう言うことも、何となく分かる気がする。
「まあ実のところ、ただの過労でね。人が来ないって言っても、図書館の本の管理とかは一人で担っているから……」
苦笑いをしながら、千鶴さんは言う。
私が好きなあの図書館が、もしかしたら無くなるかもしれない。
読書の良さを教えて貰った、あの図書館が……
「わ、私……手伝いたい、です!」
必死になって、紡いだ言葉は『手伝いたい』。
その言葉に、千鶴さんは微笑みながら頷いた。
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図書館に恋した物語、今でも続いている物語。
私は、千鶴さんの意思を受け継いで司書をやっている。
誰かが、この図書館に恋する事を願いながら―――




