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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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不安は全て爆破して

「アタシの勝ちよ。異能を使った芸術、少しは勉強になったかしら?」


 勝ち誇るのも束の間、エマは膝をついて肩で息をする。


「……はぁっ、でも……勉強になったのはお互い様かしらね……。力押しには苦労したし七色の制御は信じられないほど難しかったわ……」


 見ていたのは途中からだが、あの男の異能はコピーかそれに近い何かだろう。異能の撃ち合いでかなり苦戦を強いられる相手だったわけか。


 肉体的なダメージもあれば、高度な新技による精神的な疲労もある。倒れ込みそうになって当然だ。


「……それで? なんでひとりでここにいるのかしら? あの絵の具は助かったけれど、それを渡すために来たわけじゃないでしょ?」


「ああ、それはだな……」


 座り込んだエマに、俺はここに来るまでの顛末を話した。


 レン姉という知り合いが異能に目覚めたこと。

 謎の異能力者に襲われて手も足も出なかったこと。

 そのレン姉としのが連れ去られ、次はこの島の異能力者を狙っているということ。


「ヌトラの狙いは多分、強力な力を持つ異能力者だ。先生とかアンタとか狙われてもおかしくないぞ」


 異能力を軍事力の強化に使うのが奴らの狙い。だとするとエマの能力はおあつらえ向きだ。


 色を奪えばどんな迷彩よりも視認できなくなるうえに、爆破だなんだと火力も揃っている。異能の研究をするには上等のサンプルだと思う。


「アタシ達の能力を解析してトレミュー以上の異能力者を作りたいわけ? それも軍事力のために? つまんないけど厄介ね……。ね、それなら《上書き》も狙われたんじゃないの?」


「いや、俺の能力はその……期待外れ、だったらしい」


 《上書き》よりも自由度の高い《魔法》。そして悪意のある攻撃を跳ね返す《反射》。どう考えてもあちらの方が有用だ。


 俺が逆の立場でもきっと同じ判断をするだろう。


「…………」


 じっとエマの方を見る。予定ではエマの力を借りながら、しの達の奪還を行う予定だった。


 が、エマはどう見ても先程の戦いで疲弊しきっている。走ることすらかなりの負担になるはずだ。


 だから俺がひとりでやるしかない。期待外れも評された異能と共に……。


「今考えてることは分かるわ。でもこの状態のアタシは足手まといにしかならない。理解はしてるでしょ?」


「それはそうなんだけどな。……勝ち筋が見えないし作れないんだよ」


「ふーん、かなり弱気じゃない。アンタが《上書き》の力を信じないと本当に役立たずの異能になるわよ?」


「……そうだな」


 《上書き》は俺が信じられる屁理屈を現実に反映させる。俺の信じる気持ちが弱ければ、それだけ異能は弱くなる。


「アタシや暴走族と戦った時はもっと強気……や、違うわね……。そう、楽しそうにしていたわ」


「そりゃ、あの時は難しいこと考えずに相手の隙を突いて状況をひっくり返すことだけに集中できたからな……」


 あの時は今置かれている軍だの国だのが絡んだ状況とは全く違う。負ければそれで全部終わりだ。そう考えると足がすくむ。


 ロボットや龍から尻尾を巻いて逃げて、その後にリベンジを挑むことと一緒にはできない。


「……失敗して取り返しがつかなくなるのが怖いなら、そこはアタシが解決してあげるわよ」


「は……?」


「ユウもアカリも先生も。全員倒されて異能の実験体にされそうになったら、アタシがこの島を爆破してあげるわ。ちょうど素敵な絵の具(爆薬)もあるし任せなさい」


「いや、爆破って正気か……!?」


「当然よ。どうせ全部終わりなら相手の嫌がる終わり方にした方が気分がいいでしょ? これで最後の処理はアタシに任せて心置きなく暴れられるんじゃない?」


 もし失敗したら、その場合はエマが全部爆破する。サンプルになりそうな異能力者も島も全て巻き込んで。相手に徒労感だけ与えて終わらせるというのは……


「最悪の手段だけど最悪の結果を避けてはいる、のか……?」


 混乱する俺をよそにエマは続けて言う。


「それにヌトラとか言うのは異能が効かない相手らしいじゃない。それでも物理的な島の崩壊までは防げないでしょ、多分。上手くいけば相討ちにできるわよ」


「…………! それだ!」


 今ならまだチャンスがある。上手くいけば俺の異能でも、いや俺の異能だからこそ勝てる……はずだ。


「何かいいこと思いついたようね」


「まあ必勝とまでは……いや、違うな。……これならきっと勝てるって手が見つかった」


「そう。ならアタシは休んで決着がつくのを待ってるわ」


 なんだか送り出してばっかりね、と言いながら力を抜くエマ。そう言いながらも少しすれば自分にできることをと動き始めるのだろう。


「まあ、いざとなったら全力で頼るけどな」


「任せなさい。芸術家じゃなくて殺人鬼として名前を残すのも悪くないわよね」


 その軽口を聞きつつ市街地や海を見渡す。


「何か探してるのかしら?」


「こいつらが乗ってきた飛行機か船を探してる。ヌトラはしの達を拘束した後直接やってきたはず。だったら乗り物に捕らわれてる可能性が高いだろ? まずは奪還しないと始まらないからな」


「そうね。アカリの《魔法》がないと攻撃すらままないものね。なら……船、空母みたいなものに乗ってきたんじゃないかしら。アカリ達を拉致した少人数でこの騒ぎが起こせるはずがないもの」


「なるほど……」


 飛行機で撤退したのち空母か何かに移動し、そのまま島に攻め込んだ、か。それなら海沿いに本拠地があるのは確定だろうか。


 後は堂々と市街地方面の港からやってきたか、人目の付かない場所からやってきたかの二択になるわけだ。


「……待テ。さっきカラ何を言っテいル? アカリとハあの金髪の女カ? 《魔法》? 攻撃? ……マサカ報告とハ別の異能ヲ持ってイルのカ! ク、奴の追跡ニ専念すべキだったカ!」


「「!?」」


 目を覚ましたトレミューがぶつぶつと何かを言っている。奴を捕えたい、と口では言うものの体は動かないようでそれを心底悔しそうに震えている。しかし彼のそんな様子はどうでもいい。


「追跡ってなんだよ!? しの、脱獄でもしたのか!?」


「それに別の異能って何よ! アカリの異能は《魔法》! アンタのコピーよりももっと自由な異能使いよ!」


「ナント……! そんな切り札を使わずシテ……!」


 ぶるぶるとさらに震えるトレミュー。俺達の視線を受けて一度咳ばらいをし、口を開く。


「拙者ヲ倒しタ《奪色》に敬意を表シ、教えルとしよウ。おヌシらがアカリと呼ぶ女ハ()()()()()()()()()()()()()()()()。拙者ハそう報告ヲ受けてイル」

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