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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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色と異能、多彩なる撃ち合い

「アタシの魅力は一色だけじゃないの。本当の多彩ってものを見せてあげるわ!」


「多彩と言うナラ拙者も負けヌ! 異能ノ出し惜しミなどセズ全テを見せようゾ!」


 黄の雷や銀の刺突の絵の具、その他目についたものからも色を奪って手札にする。これらを距離をとりながら飛ばしていく。


 それに対してトレミューは、大楯や砂の壁などコピーした異能で相殺していく。


 絵の具の持ち合わせが多く、《奪色》の能力を存分に発揮できるアタシと、コピーした異能のバリエーションが豊富なトレミュー。


 絵の具かコピー異能のリソース切れ。それが勝利条件の今、能力の撃ち合いは互いの手札の削り合いになるわけね。


「――借り物の剣じゃ届かないわよ!!」


「ただの借り物ではござらン!!」


 剣で斬りつけるとトレミューはそれを槍で受ける。赤い装飾の目立つ派手な長槍。


「拙者の異能は真似ルだけにあらズ! 異能を組み合わセ、どこまでモ高ミへ昇ってゆク!」


 剣を弾き、後ろへ飛ぶトレミュー。そして赤い槍に手をかける。でもそれは槍の構えじゃない。そう、あれはアタシの構え――


「ヌオオオッッ!!!」


 槍を染め上げる血のような赤色を無理やり引っぺがすような動作。


「そんな力任せな使い方、見たことないわよ……!」


 色を吸い取るように。ものに触れて瞬時に奪い取るアタシとは指向も解釈も何もかも違う。


 あんな無茶な方法でも異能が応えるのは強化され、トレミューにチューニングされたからかしら。


「焼き尽くス!!」


 手をこちらに向けて炎をけしかけるトレミュー。確かに《奪色》の力はコピーできているようだけれど、


「遅いわよ!!」


 コピーできると言っても練度がアタシと同等になるわけではないらしい。色を奪って能力発動までに時間がある。


 そう、受け止める色を用意するだけの時間がある――!


「《激流の青(ザ・トレント)》!!」


 描くなら炎の津波を覆い尽くすような水の津波を。基本戦略のひとつ、相手の対になるものをぶつけて無力化する。


 そのはずだったのに。


「えっ……止められない!?」


「甘イ! 強化スルと言っタでゴザル!」


 炎は消えず、燃え盛る。障害など何もないとでも言うように。


 トレミューの異能は他者の異能の模倣と強化だ。当然アタシは強化の要素を忘れたわけではない。


 アタシは強化による上がり幅も考慮して多めに絵の具を使用した。その出力を上げた《奪色》を彼の異能は超えたのだ。


「この異能ハ拙者の国ノ努力の結晶でゴザル! 易々と破れルものではナイ!!」


「訳の分からないことを言って……!」


 とにかくどうする? この業火の色を奪ったところで炎は炎。その熱からは逃れられない。なら――


「――《暴風の緑(ザ・ゲイル)》!」


 両手にそれぞれ緑を纏う。右手は炎を押し返すための風を。左手は私の背後への風を。それは炎から逃れる脱出のための風。


「これでどうかしら!?」


 風に乗って炎の射程圏内から離脱する。と同時に振り向いて炎の動きを確認する。


「フハハハ! お主の風モ! 水流モ! 拙者の《奪色》の前にハ無力! さアどうスル!?」


 しかし炎は風に煽られて激しく揺れ動くだけ。水も風も通じない、アタシの知らない超火力。


「何がアンタの《奪色》よ! アタシの異能なんだから!」


 それならばと先程の拳銃を抜いて、その銃に緑の絵の具を垂らす。


「防げるものなら防いでみなさい!」


 そのまま即座に射撃。しかしこれはただの拳銃ではない。緑の風を受けて速度の増した弾丸だ。


「そのようナ使い方マデ……!」


 その弾丸は炎の壁を貫いてトレミューへと迫る。が、


「反応スルには十分でゴザル!」


 アタシではない誰かの異能。その日本刀で弾丸を次々弾いていくトレミューの姿が、炎の向こうに見えた。


「ッ……なんで……!」


 そう思って気づく。アタシの弾丸が炎の壁を突き抜けた瞬間。その時は穴が空いたように見えるのだと。


 炎の壁を突破した時点で大まかな位置を把握し、後は反射神経に任せて刀で叩き落としていたということ。


「次ハこちらから行かせてモラウ!」


 トレミューが日本刀に手を添える。すると刀身の銀色が抜け落ちていく。


「《奪色》とはマコトに便利なモノよ……!」


「刀身の見えない日本刀ね……アタシの真似のつもりかしら……!」


 見えない長物を振り回すのは強力ではある。けれど射程が見えないのはメリットだけではない。


 使用者本人も刀身が見えないのだから、振り回しても刃が相手に届かないことだってある。


 そしてそれは明確な隙を生む。だからアタシはその隙を突いて飛び込む。トレミューが戸惑っているうちに一撃を叩き込む――!


「いざッ!!」


 刀を腰に当てるようにし、突進してくるトレミュー。狙いは真横に一線の水平斬り。


「ふう…………っ!」


 息を吐いて集中する。見えない鉄パイプを振り回して戦っていたアタシなら、武器の動きによる空気の揺れから射程が予測できる。


 自分の積んできた経験を信じて間合いを予想する……!


「ヌゥゥゥンン!!」


「このラインね!」


 トレミューの初動から、この後刀がとるであろう軌道が見える。


 それを信じて立つ位置を微調整してアタシは構える。紙一重で避けて、刀を振れない超接近戦に持ち込むために。


「刀ヨ! 応えルでゴザル!!」


「は――っ!?」


 刀がギリギリで腹部を掠める。それを感じた瞬間に反撃するビジョンが見えていたのに。


 実際には脇腹に刀が当たっている。痛みの中でトリックに見当がついた。目測を誤ったというよりは、これは――


「刀身が伸びる異能……!?」


「フン!!」


 そのままトレミューは刀を振り抜きアタシを吹き飛ばす。手近な木にぶつけられて更なる衝撃。


「か……っ!!」


「峰打チでゴザル。すぐ終わらせテしまっては、つまらヌでゴザルからナ。さア、もっとおヌシの異能を見せルでゴザル!!」


「余裕を見せてくれるじゃない……!」


 実際に余裕を見せるだけの強さはあると思う。異能がコピーできて、かつ複数の異能を組み合わせられるのは正直破格だ。


 さっきは技術とかなんとか妙なことを口走っていたから普通の異能じゃないのかも。でもそんなことは関係ない。


「だったらアタシも奥の手を出すわよ……」


 自分にだけ聞こえるようにぽつりと呟き、立ち上がる。それと同時に意識を切り替える。


 それなりの気合が必要だけれど……アタシなら余裕でしょ? 自分に言い聞かせてゆらりと歩き出す。手には何も持たない。コートの中の絵の具にも触れるつもりはない。


「何も持たズに向かって来るとハ……よもや諦めタとは言うまいナ!!」


「そんなわけ……ないでしょ!」


 振り下ろされる刀を受け止める。


 ――素手で? そんなことはできない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ついてるわ、いつもより綺麗な色。これならトレミューの刀でも受け切れるわね……!」


「これハ《奪色》……!? シカシ、どこカラ……!?」


「アタシの能力をコピーしたくせに分からないの? ……まあ、そうよね。分からなくて当然よ」


 会心のできの剣を振るい、ガァンと相手の刀を弾く。剣を握り直して踏み込みの位置を調整する。


 本気を出すなら守るより攻めないともったいないわ。


「これがアタシの多彩な魅力のひとつ! 共感覚の力、これから存分に教えてあげるわ!」




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