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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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模倣と創作

「模倣なんかよりも創作の方が強いってこと、このアタシが教えてあげるわ」


 コートの内側の絵の具に手を滑らせる。選んだのは灰色と青。混ぜればできるのは鉛色。ついでに刺突に優れた銀も少しだけ。


「――《射撃の鉛(ザ・バレット)》」


「ホウ、拳銃の異能は初めてでゴザル。先の槍とイイ、興味が尽きヌでゴザルナ……!」


「空無色さん……!」


 横に並ぼうとする先生を制してアタシは言う。


「先生の異能はコピーされてるんですよね、それも強化されて。だったらコピーされてないアタシの方が戦いやすいと思います。……それにいつコピーが切れるか待ってる暇があったら他の生徒を助けにいくべきじゃないですか? 先生」


 コピー能力に制限がないとは思わない。けれどもそれを分析したり戦っている間にも戦線は押したり引いたりを繰り返すと思う。


 その激しい戦況で教え子を助けることこそ先生の役割であり最善だとアタシは考える。それは先生にしかできないこと。


「他人に指示とか共闘とか、そういうのは先生の役目であって……アタシの役目はこういう面倒そうなのをひとりで叩くことなのよ!」


 引き金を絞ると絵の具から生まれた弾丸が飛び出していく。絵の具と言ってもアタシの異能のおかげで殺傷能力は十分にある。


 トレミューが大楯を再度出現させて防御姿勢に入ったのを確認した瞬間にオレンジの絵の具を地面に撒き散らす。


「《爆破の橙(ザ・バースト)!!」


 少量の絵の具でも火力は十分。地面を破壊し砂を撒き散らす。視界は悪く、下手に踏み込むこともできないこの瞬間、先生の方を見やる。


 やることはひとつでしょう? と問いかけるように。


「ありがとうございます。ここはお任せしますよ、空無色さん!」


 先生のその声を背中で受ける。トレミューの居場所から目を逸らさないように。


 苦し紛れの追撃には手厳しいカウンターを加える。そのつもりで睨んでいたけれども、対するトレミューは微動だにしなかった。


「ハア…………。敵前逃亡とは実にツマラン。決着のつくマデ死力を尽くシテ戦わんトハ何タル礼儀知らずカ……」


 うなだれるようにしてそう漏らす。


「そりゃ変なのを相手にするよりは大切な教え子を優先させるわよ。詳しくは知らないけど本当は訓練じゃないんでしょ? だったら勝負なんてしてる暇はないわよ」


 アタシが暇潰しに付き合ってあげるわ、と挑発するように言う。


「くだらン、拙者はこの島の占領など興味はナイ!! あらゆる異能を高メ! 使イ! 強さの果テを見られればヨイ!」


 甲冑に続き、今度はチョークで日本刀を描き出す。刃が持つ特有の反射は見られないものの斬れ味が悪いはずがない。


「…………!」


 取り出すのは銀色。遠距離の刺突も近距離の斬撃もこなせる便利な色。まっすぐに伸びた剣を出して片手で握る。そのまま迎撃の構えをとる。


「……ゆくゾ!」


 両手で握られた日本刀が空気を裂き、唸りを上げて落ちてくる。


 正面から受け止めることは難しくても……


「受け流すくらいなら簡単よ!」


 剣に集中し、刀身と刀身がぶつかり合うのを感じた刹那。相手の日本刀に横から衝撃をぶつけるように剣を振る。


「筆より重いものも普通に扱えるのよ!」


「ヌ……!」


 加えられた力に逆らわず、トレミューの刀は一度攻めの姿勢を緩める。攻めの姿勢に戻られる前にこちらから攻撃を行う。


 右手に握った剣を左から右へ。体の外へ向かうように大きく振り抜く。


「当たらヌ!」


 もちろんそんな大振りが当たるとは思っていない。


「なら本命はどうかしら!?」


 剣を振り抜いた右腕。その動きに引っ張られるようにして左腕を前に出す。握られたのはさっきの拳銃。


「なんト!」


 頭、手、足にそれぞれ弾丸を撃ち込んでいく。広い範囲を撫でるように。


「ぐヌ……ッ……!」


 色を混ぜて作ったアタシの弾丸は甲冑を撫でる、で終わるほど優しくはない。狙ったところに次々と穴を開けていく。


「どうする? 少しずつ防御力が落ちていくわよ?」


「フ……甲冑が壊れタ程度、恐ルルに足りン! そんな事ヨリ、その異能を使わせロッ!」


 甲冑が破壊されることもダメージを受けることも厭わずこちらへ前進するトレミュー。刀を投げ捨て、両腕を大きく広げて掴み掛かろうとした時点で狙いは明白だ。


「一度見たものは喰らわないわ!」


 即座に腕の射程圏外へ飛び退く。そして反撃に出ようと銃を構えた時だった。


「ならば新しイ異能(モノ)を見せるまでッ!!」


 アタシを掴もうとしたトレミューの腕は地面へと突き刺さっている。勢い余って突き刺さったとかじゃなく、これは――


「フン!!」


 地面がボコボコと盛り上がり、隆起した土がアタシへ伸びる。空中へ跳んだアタシに逃げ場はない。


「ないなら……!」


 握った拳銃で迫り来る土の塊を撃ち抜いていく。が、小さな弾丸で崩せるほど甘くはない。例えるならば土の津波。穴を開けて打開できるものではなさそうだ。


「ッ……仕方ないわね!」


 迫る土の壁。その色が明るくなっているところへ手を伸ばす。伸ばした先はレンガのようなオレンジ色。これを奪って即座に使う!


「――《爆破の橙(ザ・バースト)》!!」


 土壁の色を奪い、直撃する寸前に爆発させて壁を破壊する。爆風を受けるのは仕方ない。ダメージを最小限に抑える必要経費だ。


「っつ……流石アタシの《奪色》ね、爆風でも普通に痛いわ……!」


 爆発で生じる熱風を全身で受けつつ、爆風に飛ばされないようにしっかりと踏ん張る。


 ……甲冑も土の壁も橙の色で処理できる。多彩な異能に対してワンパターンになるのはいただけないけど、防御に関しては問題がなさそうね。


 ならば必要なのは攻め手。さて、何色をぶつけるべきかしら?


 爆発による土煙が立っている間に高速で頭を回転させる。戦況の動かない今の間に攻撃の選択肢を増やしておく。


 そんなアタシの考えはすぐに甘いと思い知らされた。


「名前モ忘れタあんナ異能なぞ囮!」


「うそ!?」


 土煙を割って現れたトレミュー。甲冑は爆風や土壁の破片をもろに受けたのか大破している。


 そんな様子を気にも留めずにまっすぐ飛び掛かってくる。このダメージは必要経費、さっきまでのアタシの思考がフラッシュバックする。


「そノ異能、拙者が極メさせテいただク! ――《借りる八号、成す一升》!!」


「まずった……!」


 がっしりと腕を掴まれ、その叫びを聞いてしまう。トレミューの腕が先生の時と同じように光り、アタシの異能を取り込んだように見えた。


「これガお主の異能…………《奪色(だっしょく)》!! 素晴らシイ、素晴らシイポテンシャルではないカ!」


「っ……この……!」


 《奪色》はコピーされた。内容も恐らく解析されている。


 そのうえこのまま自由を奪われたままはまずい。そう考えて咄嗟に炎を出し、トレミューとの距離を空ける。


「握りしめた手カラ血を出したのカ……。赤は炎を司ル……。なるホド、自身の異能ヲ良く理解してイルな……。ダガ、拙者は今日! それを越エル!!」


「舐めんじゃないわよ! 同じ道具を用意しただけじゃ芸術品は作れないのよ!!」


 ――啖呵は切って見せたけれども、どうすべきかしら。実際、強化された《奪色》を使われるのは厄介なことこの上ない。


 青は藍より出でて藍より青し。


 そんな諺が脳裏に閃く。師弟関係でもなければ異能をコピーされただけではあるけど、アタシより優れた異能を使われることは間違いない。


 けれどもそれは()()()|》《・》()()()()()()()()()()()。彼が強化するのはあくまで異能。


「……青色では負けるかも知れないけれどね、アタシの魅力は一色だけじゃないの。本当の多彩ってものを見せてあげるわ!」


 作るなら、あのふたりが見たら腰を抜かすような芸術を。逆境すらも作品の糧に。思考を前向きに戻しつつ、アタシは絵の具に手をかけた。



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