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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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色鮮やかな助太刀

「攻撃は最大の防御です。……アタシは生徒の前に強力な戦力として扱うのが最善じゃないかしら?」


 アタシは先生に待機、避難所でのサポートを命じられはしたけれどしばらく考えてこんな結論を出した。


 別に素直に従うことはないじゃない、と。


 治療を得意とする異能力者は既に待機していたし、怪我人は回復した側から戦力になる。


 そもそも学校にまで本気で攻め入られたら手遅れな状態じゃない。アタシでどうにかできるレベルを超えてくる。


 それなら敵が侵攻する前に仕留めればいい。単純な話だった。


 そうして暴れ回っているうちにピンチの先生を見つけた、というわけだ。


「なるほど……危険な場に飛び込むのはいただけないですが、非常時にそんなことは言えないですね」


 ふうと息を整えてこちらに向き直る先生。


「今回は私の判断ミスです。ありがとうございます、助かりました」


「あ……は、はい」


 綺麗な角度で頭を下げる先生。アタシ達と変わらないくらい若いと思っているけれど、こういう所作を見るとやっぱり大人なんだなと思ってしまう。


「ところで空無色さん。あの異能力と互角以上に勝負できる弾丸……それとナイフもですが、あれらについてはどのように対処を――」


 その質問を遮ってアタシはに飛び出し、オレンジの絵の具を撒き散らす。そして言葉を紡ぐ間もなく爆発させる。溜めも何もいらない。必要なのは少しの爆風……!


 その断続的な爆発の合間に聞こえる複数の発砲音。爆発の煙でよく見えないけれど、爆風で銃弾は押し返せている。


 そして流れるように聞こえる文字に直せない言葉。間違いない、新手がやってきたということだ。


「休まる暇もありませんね……!」


「先生は休んでなさい!」


 今度こそはと新しいチョークを構えた先生を敬語も忘れて静止し、アタシは兵士達へ向かって飛び込んでいく。


「そんな付け焼き刃の武器じゃアタシの足元にも及ばないわ!」


 近くの茂みに手を触れ、緑の色素を吸収していく。茂みは初めからそこになかったかのように忽然と消え失せる。しかし実際は植物の持つ色を奪っただけ。


 物質の色を奪う。故に《奪色(だっしょく)》。そして奪った色はアタシの意のままに扱える。普段絵を描いているのと同じように。


「――《暴風の緑(ザ・ゲイル)》!!」


 恐ろしいまでの突風。茂みの色をかなり多く奪ったぶん出力が上がっている。


「――――!」


 例の弾丸の雨を降らせにかかるが、分厚い暴風のカーテンを最後まで抜けられる弾はない。


「アタシの異能を他と同じに見ないで欲しいわ!」


 弾丸も。銃を構えた兵士さえも。まとめて後方へ吹き飛ばす。近くの木や岩に体中をぶつけ、やがて動かなくなる。


 爆風でもいい。暴風でもいい。弾丸にしか頼れない連中はそれを無効化すればいいだけの話だし、アタシにはそれができる。


「――――」


「空無色さん!」


 前方の兵士を全て片づけ、手を下ろした瞬間だった。木の上からナイフを構えた別の兵士が降ってきたのは。


 新しく色を準備する暇も与えず重力に任せてこちらへ向かって落ちてくる。ナイフは方位磁石のようにこちらを向いて動かない。


「そのナイフも恐らく異能を無効化できます!」


 言われなくても分かっている。普通に兵士で制圧できればよし、それが難しいなら伏兵が必殺の一撃を放つ。そういう戦法なんでしょうね。けれど、


「色を使うだけが《奪色》じゃないのよ!」


 アタシは手を伸ばす。オーバーコートの中の絵の具にではない。手近な色を奪えそうなものにでもない。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


「この暴力を無効化できるかしら!」


 何もない空間を強く握る。そこには確かにものを握った感触がある。


 それは地面に刺さっている。だから引き抜いてあげる。出番だと言わんばかりに。


 あらかじめ刺しておいたそれは鉄パイプ。それも不可視の、だ。


「絵筆しか扱えないと思ったら大間違いよ!」


「――――!?」


 動揺しつつも予定通りにナイフを突きつけてくる敵。


「……そこね!」


 ナイフと鉄パイプが交差する。ナイフの刃が色を奪われたアタシの鉄パイプに擦り付けられる。


 その刃が鉄パイプを這った跡、その軌跡は《奪色》の効果が消されたのかくすんだ鉄色を取り戻している。


「……へえ、消しゴムみたいね。でも、それだけよ!」


 それも束の間、鉄パイプを滑らせて相手の顔にクリーンヒットさせる。


「――――!?」


「アタシは手を緩めるなんて言葉、知らないから!」


 顔への一撃の後、力が抜けた隙を狙って次はナイフを握った手へと鉄パイプを振り下ろす。


 そうして一瞬のうちにはたき落としたナイフを蹴り飛ばして拾えないようにしてしまう。


「――――」


「終わりよ!」


 鉄パイプを打ち付けて。引いて。また打ち付ける。それを何度もくり返す。


「――――……」


「《暴風の緑》!」


 よろけつつも後ずさりした瞬間をアタシは見逃さない。緑の絵の具を取り出して暴風に変換。


「――――!!」


 踏ん張る力も残っていない兵士を軽々と吹き飛ばす。ぐるぐると空へ巻き上げて一気に叩き落とす。


 小刻みに動くだけで反撃も何もできないことを確認してから息を吐く。


「他愛無いわね。さっきの質問ですけど、こうやって普通にごり押します。暴走族のロボットの方がよっぽどしんどいですよ」


「そうですか……。頼もしい限りです。心配は無用でしたね」


 アタシが引きこもって絵を描いていても必要以上に邪魔されなかったのは正面からやり合っても勝てないと先生方に判断させたからだ。


 アタシはそれなりに自分の強さに自信を持っている。これくらいはできて当然。


「では私は他の生徒のサポートに行きます。空無色さんも……危ない!」


「――えっ」


 いきなり襟元を掴まれ、後ろに引き倒される。訳もわからず受け身を取りながら目を向けた先では先生と外国人の男が鍔迫り合いを繰り広げていた。


 先生は急拵えの刀身の短いレイピア――いやもう短剣と呼んでもいいかもしれない――、そして外国人の男は()()()()()()()の片手剣。


「派手すぎるわ。まるで……」


 まるで異能で作ったみたいだ。鍔は左右に広がった翼のよう。刀身は長く、燃える炎のような装飾が入れられている。


「先程の戦い、見ていたでゴザル! 素晴らしイ異能、ぜヒ手合わせ願いたイ! そしテ、そしテ! ソレを我が手に収めたイ!!」


 異能でできたゲームのような剣、この国の人間とは思えない人種の顔。そして珍妙なしゃべり方で乱入者は叫ぶのだった。

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