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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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最善手

「今です! 遠距離部隊は時間差で攻撃しちゃってください!」


 カメラが捉えた映像は、ゲームの画面のように敵味方、全ての配置が丸わかりだ。


 《監視》の異能で作り出した小型の空飛ぶカメラ。市販のドローンとは比較にならない解像度と操作性は鈴代カンナの強みだろう。それは相手の武器が強力になろうと変わらない。


 それを最大限活かすべく、彼女は司令塔として異能力者を引っ張っている。


「東へ退こうとしています! カバーを!」


「お任せあれ!」


 相手の配置が分かるということは、次の行動も読みやすいということ。戦況を読んですぐに連絡を取り、対応する。


 異能力者達の戦い方は、これまでの自由行動によるものから変化しつつある。その理由としてはやはり、


「――――!」


「うわっ! やっぱり撃ってきた!」


「こっちも異能を止めんな! 突破されんぞ!」


 突如として彼らが得た力。異能を打ち破る謎の弾丸。これが個人戦の限界を作っている。


 異能の炎や水。あらゆるものを謎の弾丸は貫通する。異能力者は、その貫通してきた弾丸に更に異能を浴びせて何とか破壊する。


 燃費の悪い、そして失敗は致命傷となり得る戦術だが、今はこれが精一杯だ。


「ぐおっ……そろそろヤバいぜ……!」


「素晴らしい、充分です!」


 こうして無理やり作り出した数秒のうちに進藤先生が敵の懐へと飛び込んでいく。近距離で銃で上手く狙えないうちに、先生の拳がひとりふたりと沈めていく。


「俺達も続け! 先生だけにいいカッコさせんな!」


 先生の戦いぶりを観察し、同じように直接攻撃に出る生徒達。弾丸を浴びるより前に仕留める速攻を見せていく。


「防御はこれまでと変わらねえ! あのヤバい弾丸にだけ気をつけろ!」


 先回り、足止め、攻撃。そのルーティンが確立されていくのを見た先生は、ひとりその場を離脱を決意する。


「私は他の生徒達の応援へ行きます。この場は任せますよ、皆さん」


「それなら西のエリアに行ってください、先生!」


 この場はもう大丈夫だと判断し、新たに補助が必要な場所へ移動しようと考える。


「先生、気をつけてください」


「ありがとー!」


「ええ。皆さんも油断はしないでください」


 そんな先生に口々に言葉が飛んでくる。さっきまでの生徒とは大違いだ。明るさも取り戻し、士気も悪くない。これならば一安心だ。


「さて、ここから立て直していきますよ」



 *



 こうして劣勢の戦線のサポートをしているうちに感じたこと。


 それは敵の弾丸の威力が異常に上がっていること。異能と正面からぶつかって相殺、なんなら押し切れるというのは普通の軍の装備では考えられない。


 それこそ異能のひとつとでも言われた方が納得できる。


 ただし、それ以上でもそれ以下でもない。異能力者のように炎や雷を出せるといった多様性は見られない。


 あくまで兵士全員が等しく異能に対する特効を手に入れた、というように見えるのだ。


「原因、もしくは首謀者を探す必要がありますね……」


 さて、その手がかりになりそうなものは――


 そう考えた時だった。


「な……奇襲ですか……!」


 音もなく、突然男が現れた。背後から走り寄ってくるのに気づいた時には、もう交戦距離に入っている。


 突き出されたナイフは確実にこちらに届いてしまう。


「くっ……!」


 咄嗟にチョークを突き出して、ナイフの刃先の方向を逸らす。異能の力はチョークで描いたものに宿る。


 つまり今は普通のチョーク、ナイフをいなすだけで簡単に折れ、長さが半分になってしまった。


 それでもその機転のおかげで間一髪、直撃は免れた。必要経費としては最小限。


「――――!」


 しかし密着状態は変わらず、二撃三撃と休みがない。なんとか躱すも先生は即座に反撃に移れない。


 折れたチョーク、そして近接攻撃の密度を考えると大層なものは描けない。新たなチョークを取り出す隙もなく、手短に、かつ小さいものを描く必要がある。


「ならば最適解は――《白亜の籠手》!」


 ほんの一息のうちにチョークでそれを描き切り、実体化させる。


 全身の鎧を作り出す《白亜の鎧》と違い、これは籠手、それも片手分のみを作り出す。


「――――!」


 作り出した籠手で突き出されたナイフを受け止める。受けきったうえでのカウンターで隙を作り、万全の状態で異能を出せるよう整える。


 そのための布石だったのだが――


「な……?」


 刃と籠手が奏でるキィンという甲高い音。それを合図としてカウンターを行うつもりであった。


 けれども実際はナイフが籠手を貫通した。驚きで静止した僅かな間もナイフは暴れることをやめない。


 腕にダメージを与え、さらには籠手をナイフで削ぎ落としていく。ナイフが動くたびに防御力がどんどん落とされ、痛みは激しさを増していく。


「く……!」


 進藤先生は教師であり、それなりの戦闘経験を積んできている。痛みに負けて攻撃や思考を止めることはない。


 パンチを放って反撃の糸口を探ろうとする。


「――――!」


 それでも敵は修羅場も潜ってきたであろう軍人だ。異能のないパンチを意に返さず、先生が仕掛けるつもりだったカウンターを逆に放つ。


「ぐあっ……!」


 異能を十分に活かしきれないと、ここまで戦闘が苦しくなるのか。


 ――ならば腕一本を犠牲にしてでもチョークを取り出す時間を作り出すべきか。


 先生のそんな考えを見透かしたように兵士は片手に拳銃、片手にナイフを構える。多少距離を取ろうとも異能は殺す。そんな構えだ。


「今は私が問題を出される側ですか……」


 この駆け引きをどう制するか。試されているようなこの状況をどう打開する? チョークを出した後の選択で明暗が分かれるのだ。


「――――」


「くっ……!」


 兵士の重心が前に移動する。それに合わせて焦りが大きくなる。絶対と信じられる手が無い今、取りうる最善手は――


「最強の問題児の手を借りる、じゃないですか?」


 オレンジの飛沫(しぶき)が舞う。花弁のように先生や兵士を取り囲む。しかし鮮やかに空間を染め上げるのも一瞬のこと。見惚れている場合でないことを先生は知っている。


「《爆発の橙(ザ・デトネーション)》!!」


 その声は起爆スイッチだ。宙に浮いたオレンジの水玉。これらが連鎖的に爆発し、その爆風が兵士を右へ左へ揺らしていく。


 派手に揺さぶられ、爆発が収まった時には兵士は既に倒れ伏していた。脳震盪か爆風による骨折か。要因は様々あれど彼が戦線に復帰することはないだろう。


「アタシの芸術は意識が飛ぶほど素敵ですからね。先生もじっくり鑑賞してくださっても良かったのに」


「……それはまたの機会にさせてください。ありがとうございます、空無色さん」


「攻撃は最大の防御です。……アタシは生徒の前に強力な戦力として扱うのが最善じゃないかしら?」


 銀髪に乗った虹色のメッシュ。爆風でそれをなびかせながら空無色エマは不敵に笑うのだった。


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