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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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教え、また教えられる者

 喧騒に包まれる市街地。建物や道路から火の手が上がるのも、この島ではそこまで珍しいことではない。


 武器を持った兵士らしき人間をカジュアルな服装の異能力者が追いかけ回すのは普通のことだ。それによって起きる破壊は「そりゃ起きるよね」くらいのノリで片付けられる。


 けれど。今回悲鳴を上げているのは兵士ではない。


「なんで防げないんだ! 異能の炎だぞ! 銃弾すら溶かす火力の!」


「こっちの刃もだ! いつもと何かが違う!」


 あちこちから上がるのは劣勢の声。


 最初は訓練の難易度が上がったものとばかり思われていた。《避難訓練》と名前がついているのだから当然だ。


 負荷をかけて今よりも高みを目指すことが狙いなのか。そう解釈して果敢に挑む能力者が大半だった。


「ちっくしょおおお!!! …………ッ」


 ――また捕縛された。そう、その果敢な姿勢はこの拘束によって一転した。


 気絶させ、両手足を縛って目隠しもする。それを手早く、慣れた手つきで。


 この《避難訓練》で捕縛された経験のある者は少ない。捕まった者がいれば助けることと説明を受けていたし、いざとなれば教師陣が割って入って救出もしていたから。


 しかしその教師までもが捕縛され、どこかへ連れ去られる。その様子から今起きているのは只事ではないと直感する。


 そこからは訓練だと考えて動く者はいなかった。全力で応戦し、身を守ろうと奮闘する能力者の姿があった。自分の異能を試してやろうといった訓練を楽しむ余裕は霧散し、ただ防衛に徹しているのみだ。


 けれども。


「…………」


「ひっ、待っ、無理っ……!」


 無言の兵士が異能をものともせずに突き進む。彼らのアドバンテージを消していく。戦闘中の彼らは知るよしもないが、異能と対等に戦える兵士の前では、能力者も一般人同然だ。


 だから張り合うには軍人と同様の戦闘訓練を積んだ者。もしくは異能力に長けた者でなくてはならない。


 ――例えば、他人に教育を行えるレベルくらいには。


「……ッ!」


 兵士の攻撃の腕が止まる。いや、止められた。


 彼の腕に巻き付いているのは純白の触手。それが武器の使用を抑えている。さらに複数の触手が残った手足を縛り、ひときわ太い触手ががら空きの腹へ殴打を喰らわせる。


「がは……っ……」


「皆さん、落ち着きなさい! 無闇に能力任せに戦ってはいけません! 何が通じ、何が通じないのかを見極めなさい!」


 犬を放ち、追い立てるように攻撃の手を緩めない進藤先生。しかし兵士達も押されるばかりではない。


「――――!」


 聞き取れない外国語の罵倒と実弾を乱射する。


 その弾を受けた犬、そして追撃に転じようとしていた触手も。弾丸に一方的に力負けするように粉々になっていく。


「これが噂の無効化ですか……!」


「あの《教育》ですら勝てないなんて!」


 生徒の悲痛な声が上がる。実力者と名高い進藤先生の異能でならもしかすれば押し勝てる。そんな生徒の期待すらあの弾丸は打ち砕いたのだ。


「クックッ――」


 不敵に笑い口々に声を上げる兵士達。言語は分からなくても挑発の類であることは想像に難くない。


「皆さんも、彼らも、考えが甘いですよ。ぱっと見ただけの有利不利で勝敗は決まりません。……涼夜君と東雲さんは不利な状況でも私を下して見せましたからね」


 ふう、と息を整えチョークを握る。それを使い、目にも留まらぬ速さで何かを描いていく。


 いや、「何かを描いている」と認識する前に答えが浮かび上がってくる。


「生徒に教えられるのも教師の宿命ですかね。……次は私が劣勢を覆す番です! ――《白亜の鎧》!!」


 宙に描かれた鎧が重厚感を帯びる。純白の鎧。身に纏った先生は重さなど感じないように走り出し、銃を構える兵士の元へ迫っていく。


「――――!」


 楽しげな声で兵士が引き金を引く。これまでよりも耐久性がありそうな見た目だ。歯ごたえのある敵キャラのような認識でしかないのだろう。


 ただ、決してそれは間違ってはいない。


「あ……先生の鎧が……!」


 高速で撃ち出される弾丸は確実に鎧を削り取り、程なくして中のワイシャツが顔を見せる。


「あの鎧でも保って数秒! 先生、逃げてください!」


 しかし進藤先生の進撃は止まらない。まさか痛みを堪えて弾丸の雨を突き進んでいるのか?


 違う。異能を教える人間ならば根性だけで解決する姿を見せるべきではない。


「見せるのは……異能を使う、教師らしい姿です!」


「――――!?」


「お、おい! あの鎧、再生してるぜ!」


 進む傍ら、先生は手持ちのチョークを砕いている。砕かれたチョークは宙を舞い、弾丸によって削られた鎧の部分に集まっていく。


 吸い寄せられたチョークは新たな鎧の一部となり、再び先生を守るのだ。


「鎧を砕かれるのは二度目です。同じ轍は踏みません」


 再生する鎧が弾丸を防ぎつづける。あの弾丸が防がれた経験がなかったのだろう、兵士達が驚きに包まれたその瞬間を進藤先生は見逃さない。


「っ……シッ!」


 重い踏み込みに腰の回転をかける。繰り出されるパンチは、籠手が風を切って更に威力が増す。


「…………!」


 ずしっという重く、痛々しい音が響く。一撃、それだけで兵士は銃を構えることも逃げ出すこともできなくなった。


「次は……貴方です!」


 ひときわ強烈な踏み込み。先生は一足で、瞬間移動のように距離を詰める。


「…………ハッ!」


 そんな移動と殴打の繰り返し。それは洗練された、一時停止のない動きであっという間に片がつく。


「この一撃、彼に浴びせることができなかったのが残念です。……さあ、皆さん。異能というのは使いようです。工夫と協力で彼らに一泡吹かせますよ」


「「「はい!」」」


 かくして異能力者も態勢を立て直し、島と能力を巡る攻防は激しさを増していく。


 その激戦地へ向かうヌトラ、そして涼夜ユウ。島へ降りかかる戦火は更なる油を待っている。

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