本土でのファーストコンタクト
「もうそろそろだと思うけどな……」
「あっ! 遠目に見えるあれじゃない?」
始めは何もない真っ平らな水平線。その直線が少しづつ起伏する。陸地が見えてきた。
「それじゃ上陸するか。手筈通り、身を隠すのは任せたからな」
「それはいいけど、本気でアレやるの?」
「他に方法とかないし仕方ないだろ。騒ぎは起こしたくないけど背に腹は変えられないぞ」
本土への侵入はエマの力を借りる予定だった。《奪色》の力で船の色を全て抜いてしまえば容易にステルス船ができあがる。
しかしエマが離脱してしまったため、この方法はお蔵入りだ。ではどうするか? もちろん妥協案、代替案が必要だ。
――その方法がこれだ。
「捉えた! 港が完璧に見えた! スピード上げるぞ、数分粘ってくれ!」
「期待に応えられるかは分からないよ! ――《幻影》!」
ぐにゃりと視界が歪み、船の周囲をシャボン玉のような膜が覆う。そう、話は単純だ。しのの《魔法》で船を透明にしてしまえばいい。
ただし最大の欠点は、
「ううう……っ! 待って、ほんとにしんどい! 船を《上書き》で小さくできない!?」
しのの負担が尋常ではないというところだ。
「いくらなんでもできるかそんなもん! 物の大きさなんて弄れねえよ!」
そうこう騒ぎながら観光用のフェリーか何かの横を素通りする。すぐ横に巨大なフェリーが見えたのも束の間、最高速度で突っ走る俺達の船はすぐに距離を空けていく。が、
「……! しの、大丈夫か!?」
視界を覆うシャボン玉、それが今にも割れそうにぐにゃぐにゃと揺れる。《魔法》の限界が近づいているのは明らかだ。
けれどもここで姿を見せてしまえば、水上に突如現れた謎の船の図ができあがる。そんな新聞の一面を飾るような真似は許されない。
許されない、が、
「……ごめん! 無理だよ!」
その言葉と共に《魔法》が決壊する。光を屈折させていたであろう膜が消失し、今はどこからでも船体が見えるようになっているのだろう。
ここで取るべき選択は――
「いや、問題ない! このまま強引に突っ切って逃げる! 悪いこともしてないし、まだ追いかけられると決まったわけじゃない! とにかくさっさと上陸する!」
バンバンと操縦席を叩き、船を焦らせるようにしながら早口でまくし立てる。
理由もなしに捕まりはしない、周囲の環境をそんな風に上書きできるように祈りながら陸との距離が縮むのを待つ。
音を立て、水しぶきをあげて。存在感を示しながら俺達の船は港を目指し、あっという間に接舷できる距離になる。
「人目につく前に速攻で離れるぞ!」
停止させるやいなや、弾かれたように船を飛び出し進路を探る。人通りの少ない方へ――、いや、むしろ人の多いところに紛れた方がいいか?
つい最近まで走り回っていた孤島とはわけが違う。冷静に、かつ迅速に正解を探さないと――
「アカリ、ユウ! あーしが助けてやろうかい?」
「進藤先生から連絡は来ています。迅速に乗ってください」
「えっ……?」
「ここで何して……?」
まるで俺達がやってくるのを待っていたかのようにタイミングよく走ってくる車。
助手席にいるのは髪をオールバックにして、細い目で俺達を捉えている男。敬語で話す口ぶりから異能力の関係者ではあれど敵意はないように感じる。この男は特に問題ではない。
問題なのは運転席の女だ。運転席で揺れる茶髪のポニーテール。男勝りのその口調。俺としのは彼女を知っている。異能力者の島に来る前の知り合いだ。
「「レ、レン姉……!?」」
「ああそうさ! この柊レン様が本土での生活をエスコートしにやってきたのさ!」




