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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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《避難訓練》と走り出す思惑

「《逃滅走統(テウメソス)》……彼らが複数の異能を組み合わせているのは予想がついていました。しかしまさか《制御》なんて能力があるとは。この島では教師と言えど知らないことばかりです」


 戦車による送迎から一夜、俺達三人は《逃滅走統》との一件の報告に職員室にやって来ていた。


「《制御》の戦闘への転用もそうですが、《乗車》の異能も見逃せませんね。ロボットに乗れるとは面白い、私も機会があれば乗ってみたいものです」


「アレ、他人も乗せられるんだろうか……。いや、兄貴だけは意地でも乗せそうではあるな……。ところで、先生でも島民の異能は全部把握できているわけじゃないんですね」


 エマや《逃滅走統》の連中の異能の全容が知られていないことを見ると、「謎の異能力者」的な人間はもしかすると珍しくないのではと思ってしまう。


「そうですね。この島に招待されるのは異能に目覚める可能性のある人が大半ですから。島に来た時点で異能に目覚めてる方もいますが、やはり多くは未覚醒です。その後目覚めたからと言って特に報告義務もないので……」


「詳細がバレないケースも出てくるってわけね」


「色々と管理体制がガバガバなんだな、ここ」


「異能力者と言ってもまずは人ですからね。厳しく管理されるのは嫌でしょう? この島で異能の訓練をして頂ければそれ以上は求めない、というのが上の方針なんでしょう」


 下手に締め付けて異能力者に暴動を起こされるのは困るということだろうか。


 ……権利が認められていると言っても島を出ようとした人間にはどうなのだろう。下手を打ったら徹底的な管理下に置かれる可能性は? いや、脱出して逃げ続ければそれは問題にはならないか……?


「涼夜君? 話を聞いていましたか?」


「……あっ、いえ、すいません。ぼーっとしてました」


「昨日の深夜に暴れたもんね。睡眠時間が足りないんじゃない?」


「あー……そうかも」


「授業中に寝るのは自由ですが気をつけてください。私まで怒られるようなことにはしないでくださいよ」


「そこは《上書き》でどうにかしますよ……いや、教師がそんなこと言っていいのかよ……」


 面倒ごとに巻き込まれなければ何をしても目をつぶってくれそうだ。そんなことを考えながら俺は職員室を後にした。



 *



 《逃滅走統》の一件の後、進藤先生から特に大きな依頼をされることはなかった。せいぜいが異能力者の喧嘩の仲裁程度、もはや学級委員のような役回りだ。


 そういった事件がない日は三人で集まって戦闘の訓練だ。異能だけではなく身体能力を磨くことも忘れない。


 《上書き》でインチキできるくらいの体は必要だ。飛んだり跳ねたり、体を自由自在に動かせることが理想だ。


 そんなことを繰り返して1ヶ月ほど過ぎた頃だろうか。転機は不意に訪れた。


 ジリリリリイイ!!!


「うわっ、うるさっ!? 迷惑だね、何これ!?」


「このサイレン……《避難訓練》だろ!」


 《避難訓練》、テロリストがやってきたという設定で行われる異能を使った実践訓練だ。逃げるもよし、迎え撃つもよし。


 血気盛んな島民は攻勢に出ることが多く名前ほど避難要素は強くなかったりする。


「ちょうどいいわね。テロリスト役を襲撃してみましょ。成長を見てみたいわ」


 相手はあくまでテロリストという設定を与えられた職員だ。悪人ではないにせよ、多分給料とか出てるだろうしサンドバッグにするくらいは働かせてもいいだろう。


「あっ、早速始まったね」


 ドオオン……と重い音が下から上へと響いてくる。


 俺達が今いる学校は坂の上にある。市街地や海が見下ろせるところに位置しているのだ。


 市街地の方からはあちこちで煙が上がり、爆発音や叫び声が聞こえてくる。


「今日はいつにも増して派手にやってるわね。急がないと何もできずに終わるわよ」


 言われてみれば、ここまで大きな騒ぎになってるのは珍しいと思う。普段はもう少し爆発とかが散発的だったかもしれない。


「職員の新人研修的なアレで人が増えたか? いや、テロリスト役が普段より強いとか……?」


「ユウ! 学校の皆も飛び出して行ったよ! 続こう!」


 先生達まで出ていってる! お祭りだよ! などと興奮した様子で校門前のしのが催促してくる。


 ああ、そうだなと足を踏み出したその時。あるひとつの考えが頭をよぎった。


「待った……《避難訓練》がいつになく派手にやってるならさ、今が脱出のチャンスにならないか?」



 ✳︎



 俺達は山の上の学校から市街地へと下りていく。市街地からは学校へ続く道が舗装されているが、普段と違ってここは使わない。


 木の生い茂った山道を、人目につかないように進んでいく。まあ、誰かに見つかるとは思わないけど。


「学校、全然人いなかったもんね」


 学校を少し探索したところ、生徒も教師も数えるほどしかいなかった。ほとんどが《避難訓練》のために出払っていると考えていいだろう。


 これなら不審な行動をしても見つかる可能性はかなり低いはずだ。最悪見つかっても《避難訓練》での作戦行動だとか言っておけば言い逃れもできるはず。


「とか言いながらいざとなったら実力行使も辞さないでしょ」


「いざって時にはそりゃ、な。《魔法》で記憶改変とかできれば良かったんだけどな」


 記憶だとか認知だとかに手を加えられたら最強だろ、という話になったことはあるが、しの曰く「複雑すぎて《魔法》だと無理じゃない?」だそうだ。


「暴力で解決できるならそうすべきよ。芸術的であれば許されるわ」


「芸術的な暴力って何すればいいんだ……?」


 そんなことを言いながらこそこそと下山し、市街地を避けるように迂回しながら走っていく。異能力者としてのスペックとこれまでのトレーニングにモノを言わせて見えてきたのは小さな港。


 ――脱出するならここからだ。


 この島には玄関口となる大きな港が存在する。しかしそれだけでなく、小さな港というのもあちらこちらに存在する。全方向を海に囲われているのだから当然だ。


 この裏口みたいな港から船を拝借して一気に脱出する。シンプルな脱出方法だ。


 本当は夜闇に紛れるだとかダムのヌシを使って陽動を起こすだとかを考えていたが、この混乱を利用しない手はない。即断で決行に踏み切ったというわけだ。


「市街地のちょうど裏側のここなら特に目立ちもせずに――」


「退がって!」


 茂みからアスファルトのカーペットへと足の踏み場を変えようとした矢先、しのが正面から割って入り、体で俺を押し退ける。


「――《抜剣(ドローイング)》!」


 そのまま《魔法》でできた剣を握り、一、二、三振り。しのの剣は空を切ったように見えたが、少し遅れて白い花火がいくつも打ち上がる。


 何かの飛び道具? 誰が? なんで?


 次々と湧き上がる疑問。いや、この人の前では()()と呼んだ方が適切か。


「ふむ、素晴らしいですね。この程度ではびくともしませんか。箒で戦っていた頃とは別人ですね、東雲さん」


「私の相棒はもうちょっとで直撃コースでしたけどね、先生」


 しのの剣の切っ先が見据えているのは紛うことなき進藤先生だ。


「なんでここにいるんだ、《避難訓練》の指導に行ったと思ったのに……!」


「決まっているでしょう、涼夜君。これも指導ですよ」


 まるでタバコのようにチョークを取り出した先生は、しのの鏡写しのようにそれを構える。


「指導は指導でも『特別』が付きますけどね」


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