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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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36/53

誰にも見つからないパレード

「ふたりとも、いい加減に起きなさい」


「エマちゃん……? 私何してたっけ……?」


「……ん、エマ……? ね、寝てたか俺……?」


「寝てたというか気絶してたのよね」


「気絶って……あっ……!」


 思い出した。確か俺を起点にしながらエマと共に周防兄弟の異能を封じたんだ。そこにしのの《私の全てを込めた魔法(フルバースト)》なる新技を撃ち込んで勝利を手にしたのだ。ただ、


「範囲が広すぎて巻き添え喰らったんだよなあ……」


 しのの正面から見てロボット&ソウジロウ、ソウタロウ、俺の順に並んでいた。


 普通に考えてソウタロウまでを吹き飛ばしつつ俺に対して寸止めする、なんてできるはずはないから受け入れざるを得ない。


「それで何でしのも寝てたんだ? 一方的に倒したんだろ」


 横で仰向けになっているしのに聞く。


「あの魔法ね、魔力と精神力と体力を全部まとめて撃ち出すイメージで作ったんだよね。とにかく凄く強くしたくて。だから……」


「ああ、一度撃ったらしばらく何もできなくなるデメリットがついてしまった、ってことか」


 しのの《魔法》は「何でもできる」が「ズルしていい」というわけではない。然るべきデメリットを甘受しろというわけだ。


「デメリットがあるとはいえ、あのロボットを吹き飛ばせるのは十分にズルい気がするけれどね」


 少し羨ましそうにエマが言う。どんな色ならアレに近くなるかしら……などとぶつぶつ言っている。コピーでもする気だろうか。


「……まさか我の異能をリモコン扱いするとはな。こんなふざけた奴に負けたのか……いや、ふざけているからこそ生まれた勝機か……?」


 同じく目を覚ましたソウタロウがふらふらと立ち上がる。とは言ってもこれ以上何かするでもなく世間話する程度の気軽さで話してくる。


「ふざけても何でも言ったもん勝ちなんだよ、俺の異能は」


「くくっ……そうか。ふざけているようで中々見所がある。ところで貴様ら、我が《逃滅走統》に入る気はないか? 共に伝説を作らないか?」


「俺はパスかな。他にやることがあるし」


「私も右に同じだね。エマちゃんは?」


「言わなくても分かるでしょ。入らないわ。運転技術が芸術的なのだけは認めるけど」


「こ……のっ……! 黙って聞いていれば兄さんの誘いを蹴る不届き者め! 今度こそ蹂躙してやる、《トラムプル――」


 そのやりとりを聞いて、がばりと起き上がったのはソウジロウ。気力一本でロボットの再召喚を試みるが――


「落ち着けソウジロウ。与太話だ、こんなもの」


 ぴしゃりと静止を入れる兄の声。


「に、兄さん……! でも……!」


「なに、《屁理屈》なんぞいてもいなくても同じだ。我らのチームワークは変わらず完璧だった。にも関わらず負けたのは相手の力量が我らを上回ったからだ。ならばそれをさらに上回ればいいだけの話だろう? この敗北は糧とし、次は勝つ。そこで《逃滅走統》の力を見せつける。我はそこしか考えておらん」


「そうか……そうだな兄さん! ボクらが最強なのは変わらない! 見ていろ色物異能使いども、次は泣かせてやるからな……!」


「忙しい弟ね……」


「だから俺の異能は《上書き》だっつーの……」


 矛先を向けたりしまったり忙しなく動くソウジロウ。兄が言えば白いものも迷いなく黒と言いそうな勢いに引いてしまう。


「とりあえず《逃滅走統》がどんな異能で逃げ回ってるのかも奥の手も分かったし目的は達成できたってことでいいよな?」


「そうだね。でも、追い詰められたらロボット出して暴れますって言って先生が信じるかな?」


「あの適当なノリなら受け入れるんじゃないか……?」


 立ち上がってふと思う。さて、どう帰ろうか。異能自転車は崖から落ちる時の衝撃で天寿を全うさせてしまった。


 乗り物を失ったうえにここは山奥の道路。バス停は、というか深夜に走ってるバスも無ければタクシーだって来ないだろう。


「《上書き》で自転車をどうにか修理するか、エマの《奪色》で空飛ぶか……。しの《魔法》はもう限界だろうしな……」


「アタシだってもう緑の絵の具を切らしてるわよ。こうも暗いと色も取りにくいし……」


「なんだ、帰りの足がないのか? いや、あれだけ頭に血がのぼっていてはそれも当然か! ならばソウジロウ、アレで送ってやれ! 勝者への褒美だ!」


「ああ、兄さん! この迫力に震えろお前達! ――《タンク・テウメソス》!」


 ソウジロウの異能が新たな乗り物を作り出す。ロボットのような二足歩行ではない。がっしりとしたタイヤが四つ。これは純粋な乗り物だ。


 加えて前方に鎮座する主砲。そしてタンクという響き。目の前に現れるそれは果たして予想通りのものだった。


「戦車も出せるのかよ……!」


「ハハハ! 乗り込んで戦うと言えば鉄板だろうこれは! いくら異能の島と言っても戦車(こんなもの)に乗る機会などそうあるまい。ぜひ楽しんでいってくれ!」


「ユウ、《逃滅走統》に入るんじゃなくてむしろ彼らを取り込んだ方がいいんじゃない?」


「下手に人数増やしてもいいことないと思うぞ。いや、結構もったいないとは思うけどさ……」


 小声で喋りながら戦車に乗り込む。小さい入り口から入った内部は思いの外広かった。


「アニメや漫画で見る戦車の車内は、結構狭そうだったんだけどな。実際はそうでもないのか?」


「さて、どうだろうな。ソウジロウの異能はリアルさを追求してはいない。キャタピラで走り、大砲を撃つ。奴の想像したものができあがる。戦車マニアが見ればクレームの嵐は必至だ!」


「リアリティーを求めるのもいいけれど、ボクは気分が味わえればそれで十分だと考えている。それだけなのさ。……さあ行こう兄さん! ついでにお前達も!」


「今日の主役をついで扱いかよ」


 かくしてゆっくりと戦車が走り出す。がたがたと少し乱暴に揺られながら山を降りていく。さながらパレードだ。見物人は誰もいないけど。


「孤島だしもっと寂れてると思ったけど、結構キラキラしてるよね」


 サービスのつもりで付けてくれたのか、横についた窓からの景色を見て、しのが呟く。


 山道から見下ろす市街地はいくつもの灯りが粒となって黒のキャンバスにばら撒かれたようだった。本土の大都会のような大粒の光は流石に少ない。けれども小さいなりに燦々と輝いていた。


「孤島で制限があるとはいえ、皆楽しくやってるってことか」


 夜に灯りがあるのは、人が終わりなく活動していることを意味する。やらないといけないことがあるのか、やりたいことがあるのかは知らないが、気持ちの面で原動力となる何かがなければ夜はこんなに明るくならない。


 そうだ。孤島にいきなり押し込まれたといっても、全員今日をしっかりと生きているのだろう。充実した生活を送っているのだろう。


 問答無用で連れて来られはしたが、この島での生活も悪くないと考えているのだろう。


 ……これは俺も同じだと思う。《上書き》を使って暴れる毎日が充実していないと言えば嘘になるから。


「……それでもこの島からの脱出は絶対にやり遂げてやるから。本土でさらに楽しく過ごすって方針は絶対に変えないっての」


 戦車が立てるガタガタという音が俺の決意を掻き消していく。おかげで誰にも聞かれない俺の決意となる。


 誓い直したこの決意。そして《逃滅走統》を打ち倒した高揚感。これらは推進力となって俺を連れて行く、この孤島を脱出するXデーへと。



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