表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/53

異能を、自分の望む形で

「なんとなく……お前の異能が分かってきたぞ、ソウタロウ……!」


「ハハハ、そうか! それでどうする? これは推理小説じゃないんだぞ。トリックを見破っただけでは意味がないだろう!」


「意味がないかどうかはその身に教えてやるっての……この《上書き(オーバーライト)》で!」


「《制御(せいぎょ)》の謎が解けたの? ……といかあれをどうにかできるの? 私達を好き勝手動かせるんじゃなす術なくない?」


「いや、そんな万能じゃないはずだ。そんなぶっ壊れなら全員操ってロボでぺしゃんこにして終わりだろ」


 恐らく、ほぼ確実に操作できる対象の制限がある。これはまず間違いない。俺としの達は周防兄弟を挟み撃ちにするように立っている。


 ……とするならある方向の相手しか制御できないんじゃないか? そう考えると絶対に捕まらないというからくりにも説明がつく。


「もしかしてこの人がメンバー全員のバイクを制御してた……?」


「なるほどね。技術が必要な場面で先頭に出て、後ろのバイク全てを制御する。それなら運転が下手なメンバーがいても逃げ切れるわね。もちろん他の異能の組み合わせも上手く使ってるんでしょうけど」


「……悪くない洞察力だな。《逃滅走統》の伝説の一端まで暴くとは。ところで、これでお前達の目的は達成したのではないか? 後は大人しく逃げるだけといったところか?」


「まさか。せっかくだしロボットも破壊して帰りたいに決まってるだろ!」


「気持ちよく壊せるように弱体化してよね!」


「アタシが芸術的な破壊方法を教えてあげるからふたりは見てなさいよ!」


「何を勝手にぺらぺらと……! そんなに壊したいなら……これを攻略してからやってみろッ!」


 ロボットの目が光り、赤い軌跡を描き出す。それは地面に照射され、アスファルトが削れて……。


「け、削れて!? 本気で言ってんのか!?」


「ユウ、使って!」


 しのが振りかぶって深紅の剣を投げてくる。《魔法》で作った異能の剣。


「ここ……だな……!」


 受け止めると同時に体に合わせて縦に構える。ロボットから放たれたビームはちょうどその刀身に重なり火花を散らす。


「ビームまで持ち出すとかマジかよこいつ……!」


「ユウ、エマちゃん、とにかく動き続けて狙いを分散させるよ!」


 周防兄弟が、俺かしの達のどちらかに狙いを絞れば狙われていない方がカバーできる。ロボットと《制御》が別々に俺達を狙えば異能のシナジーは消える。


「ハハハッ、想定が甘いぞお前達! 狙いなど絞る必要は無いッ! ――《制御:回転(ロテート)》!!」


 ソウタロウによる制御でロボットがその場で回転を始める。超重量が回転する様はさながらドリルで地震かと錯覚するような揺れが足元に伝わってくる。


「ふむ、ダンスとして楽しむにはまだ演出不足だ。なあソウジロウ?」


「そうだね。どうせなら奴らにも踊ってもらわないとってことだろ!」


 回転したままロボットはビームを発射する。遠心力を受けたビームは鞭のようにしなり、そして粒状に分かれて前後左右あらゆる方向へと牙を向く。


「ふざけやがって……! 雑にビームが飛んでくる! なんとか避けるぞ!」


「そういうのって《上書き》でサポートするものじゃないの!?」


「ふたりの身体能力ならいらないだろ!」


「言い訳は見苦しいわよ!」


 とにかく弾幕を右へ左へ避けていく。直撃じゃない被弾は増えていくが、それはアドレナリンだかなんだかで無視することにする。止まれば蜂の巣にされるからな……! ……止まれば?


「待てよ、もうひとつ推測できることがある! 《制御》で出せる命令は多分ひとつだ! ロボットを回転させることと俺達の動きを止めることを同時にしないからな!」


 俺達を停止させれば確殺できるのにそれをしない、ということはしないんじゃなくてできないと考えるのが妥当だ。


 つまり《制御》は、ある方向の対象(複数可)に決まった動作をひとつ指定して従わせる異能……!


「ふむ。正解には近いが80点といったところか。確かにその通りだが、命令変更の速さを考慮すべきだ! ――《制御:停止》!」


 再びの停止命令。一度発動されたら抗う術はないが、ソウタロウはこの瞬間、俺以外に干渉できないと考えればやりようはある。


「ロボの回転が止まった! 先にソウタロウを倒――」


「兄さんならこのタイミングで命令を変えると思った! 屁理屈ではこの連携は決して破れないぞッ、《上書き》!!」


 止められた瞬間に、タイヤのついたロケットパンチが発射される。不意の静止に加えてドンピシャのタイミングでの遠距離攻撃、反撃の余地は微塵もない。


「なら、しの達を強化できる屁理屈が欲しい……!」


「だったら上書きされる前に攻撃すればいい。そうだろ? 兄さん!」


 見れば、用意周到なロボットは両腕を水平に伸ばしていた。片方のロケットパンチを俺に飛ばしたということは、もう片方の腕が狙うのは――


「《魔法》も! 《奪色》でさえも! ボク達兄弟の前には無力さ!」


「しの……! エマ……!」


 俺は受け身も何も取れずに身ひとつでパンチを受け止める。停止の制御命令を受けているため、後ろに飛ばされて衝撃を逃すこともできないまま、チェーンソーのように回転するタイヤにすり潰されそうになる。


「ユウ! 全部まとめてすぐ《魔法》で……っ……!」


 そう言って展開された魔法陣は数秒と保たずに消えてしまう。さながら失敗したシャボン玉のように。


「バカ! 炎に剣に使いすぎよ! 《防壁の灰(ザ・ウォール)》!」


 これまでのロボットの大暴れで砕けたアスファルト、それをエマは見逃さなかった。すかさず異能で色を奪い取る。


 色の抜かれた瓦礫の代わりに現れたのは灰の壁。しのとエマのふたりを覆うように立ちはだかるが――


「フン! そんなもの、兄弟の力で粉砕するとしよう! 《制御:高速(クイック)》!」


 俺に対する、今までかかっていた後ろからの力が消失する。と同時にしの達へ飛んでいったロケットパンチが加速する。


 純粋なパンチの威力。そして搭載されたタイヤ、加えて異能による推進力。これらの組み合わせが純粋な掛け算以上の爆発力を生むのは火を見るより明らかで、そのパンチはブレーキを忘れたように進み続ける。


「まるで勢いが衰えないわね……!」


 そのパンチは無感情に、力の駆け引きなどお構いなしで、ひたすら壁の掘削を続ける。


「我ら《逃滅走統》は勝利を得るまで進み続ける! そのことを噛みしめながら喰らうといい!」


「ダメ! 防げない……っ、ああっ!」


 壁にひびが、割れ目が入る。そこから先は一瞬だ。力負けして瓦礫となった壁を、タイヤの回転はあらゆる方向へ跳ね飛ばしていく。


 エマの異能を粉々にして吹き飛ばす中、その拳だけは直進を続けて、ふたりを捉える。


「しの……! エマ……!」


 が、あちらを気にかけている余裕は正直ない。パンチを受けているのはこちらも同じ。そしてソウタロウが制御対象を俺からあのパンチに変えたことで、これまで膠着していたエネルギーが爆発する。


「吹き飛ぶのはお前もだぞ《上書き》!」


「……っ、があああっ!」


 エネルギーの発散に巻き込まれて夜空を舞いながら思う。制御できるのはどちらか一方向、ならば上手く連携すれば隙を突けると思っていた。


 だが実際はどうだ。上手く連携したのはあちらの兄弟ではないか。異能にも、互いへの理解へもあちらの方が深い。見通しが甘かった……!


「カチャカチャと対象を変更しやがって……! …………!!」


 あっ……!


 ふと思いついた閃き。負ける前にこれは試したい……いや、この一手で勝ちにいきたい。俺の異能の使い方はこれだろう……!


「っ……つつ……! なら、もう少しだけやれるよな、俺……!」


 打ち付けられた体は起こせずとも、腕を前に出して這いながら最後のピースを探そうとする。そんな俺の目の前にはソウタロウが立っていた。


「まだ動けるか《上書き》。根性だけはあるようだな。しかし《上書き》をまだ使いこなせていないのは致命的だな。理詰めで我を追い込むにはまだ足りないと見た。……出直してきたまえ。再戦はいつでも受けてやろうではないか」


「確かに理詰めじゃ……普通にやったら敵わないな。そこで勝てないのは事実だし、俺が弱いのも多分本当。でもまだ勝負は分からないっての……!」


「諦めが悪いのは屁理屈でも何でもないぞ? ……せめて病院に三人まとめて飛ばしてやろう。準備しろ、ソウジロウ! 《行進:右へ――」


「……そこだあああっっ!」


 這いつくばった姿勢で握っていた瓦礫――《奪色》で透明になっていたがやっと見つけた――をソウタロウの目の前に投げつける。


「お前の異能はある方向の対象を制御する! それも高速で! それは言ってみれば人間を操作するリモコンだ! ――リモコンなら目の前に障害物を置いたら機能しなくなるよな!!」


 果たしてその言葉は、ソウタロウから制御の力を奪い取った。俺の体は、


「見たか、自由に動けるぞ……!」


「なっ、我の能力はリモコンではないのに! なぜ動かん!? ……そうか、これか! これが《上書き》か!」


 俺は間違っていた。理詰めじゃ勝てない。というか理詰めでは勝ちようがない、異能的に。


 理詰めで勝てないならそれを放棄するしかない。それは具体的にどうすればいい? 馬鹿になればいいのか? そんな単純な話ではない。


 ――理詰めをやめるということは、あり得ない方向から攻めるということだ。相手の事情などお構いなしで、こちらの望む形に引き摺り込む。それを可能にするのが《上書き》。


 俺の異能に必要なのはファンタジーだ。将棋のように一手一手、王手を狙う必要はない。


「兄さん! ボクだ! まだボクがいる! 純粋な力のボクが!」


「いーや! お前は自分の異能を《乗車》と言った! 乗り物を何でも出せる異能だと! ならそのロボットも本質的には乗り物、本質的には乗って移動するだけの力しかないはずだ! 兵器を作る異能じゃないんだ、自覚しろ!」


「ふざけたことを……言うなッ!」


 怒りに任せて放たれるロケットパンチだが、先程に比べると明らかに速度が落ちている。


 これならほんの少し力を入れて横に飛ぶだけで……!


「くそ! なんだ、なんだこの弱さは! ふざけるなッ!」


「ロボットじゃなく乗り物の規格になったってことだろ! 俺にはよく分からんけど!」


「自分からやっておいてぬけぬけと……!」


「落ち着けソウジロウ! それならば我が《トラムプル》を制御する!」


「エマ!」


「分かってるわよ! 今度は使い方を間違えないから!」


 エマが手を伸ばす先、ロボットとソウタロウの間に壁が聳え立つ。ソウタロウが一切視認できないように。《制御》が使えないように。兄弟の強い絆を阻むように。


「くっ、異能が働かん……! これでは……!」


「しの! 今だ! 最後にもう一発だけデカいの頼む!」


「任せてよ! 最後くらいはいいとこ見せないとね!」


 空中へと飛び上がるしの。いつもと違い両腕を突き出し、それに見合った大きさの魔法陣を展開する。


「ユウの異能、相手をめちゃくちゃにできて楽しそうだよね。……私もあんな風にめちゃくちゃやりたい!」


 その巨大な魔法陣の周囲を囲むように小さな魔法陣がいくつも現れる。


「ぬう……《制御》で支配できない……止められないか……!」


「大丈夫だよ兄さん! ボクの《トラムプル》は負けはしない! 受け切って見せるからッ!!」


 ソウジロウの乗ったロボットが、手を広げて全てを受け止めようと覚悟を決める。しのの攻撃がここで防がれたら後は逆襲あるのみだ。つまりここは大一番、最後のチャンスだ。


「全部吹き飛ばしてくれよ、しの……!」


「任せて! 炎よりも、風よりも、雷よりもめちゃくちゃな一撃を見せたげる! 名前はそうだね、シンプルにいこう! ……《私の全てを込めた魔法(フルバースト)》!!」


 しのが手を振り下ろす。瞬間、魔法陣が光った――と知覚する頃には溢れ出した光が龍のようにうねり、槍のように鋭く、ロボットへと猛進していた。


「速っ……!? が……《トラムプル》!」


 ロボットが広げた両手を前に出し、光の奔流を正面から受け止める。いや、正確には()()()()()()()()()


「馬鹿な……《トラムプル》の腕が!? ……勝負にさえ、ならないというのか!?」


 受け止めようと触れた瞬間から崩壊が始まるロボットの腕。依然勢いが衰えないその魔法がロボットを、そして周防兄弟を飲み込むのは必至。誰もがその刹那に理解した。


「……ぐ、すまない、兄さん!!」


「ソウジロウ……ッ!!」


 ロボットは消え、声は掻き消され。しのの魔法は全てを巻き込んで爆発へと変わる。


 力の拮抗など一瞬たりとも許さない、本物の蹂躙する力。絶対に捕まらないと評された暴走族も、その常識破りな力からは逃れられなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ