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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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迫る追手は蹂躙せよ

「よし、かかった! ここで決着をつけてやるよ《逃滅走統》!」


 《逃滅走統》は今空中にいる。一段下の山道に落下するように誘導してそれが上手くはまったわけだが、安心してる暇はない。


「しの! エマ! 《狙撃》と《消音》を!」


「オッケー! エマちゃんは私に合わせて! ――《雷撃(スパーク)》!」


「任せなさい!」


 しのの雷に合わせるように、エマの手から黄色い絵の具が放たれる。山田と佐藤が、不安定な体勢で迎撃するよりも速く、電撃はふたりへ喰らいついた。


「「があああっ!?」」


 強烈な一撃を受け、着地も叶わず地面へと激突するふたり。これ以上応戦できないのは明らかだ。


「《逃滅走統》の中で純粋に戦闘力が高そうなのはあのふたりだったからな。ここで仕留められたのは大きい……!」


「佐藤、山田ッ! ……まさか我らがこうもしてやられるとは……!道路の偽装工作、あれは恐れ入った」


「エマちゃんの《奪色》で本来の道の色を奪って見えなくする。そのうえで私が偽物の道の幻を作り出す。搦め手は《上書き》だけのものじゃないってことだね」


 偽物の道へ《逃滅走統》を突っ込ませて、待ち伏せしていた場所へと誘い込む。それに乗じて奇襲も仕掛ける。これが功を奏して、立っているのは周防兄弟のふたりだけだ。


「弟の方はバイクを出す異能として……問題は兄の方か」


 《逃滅走統》のリーダー、周防ソウタロウ。彼だけが未だ異能を見せていない。


「異能の強さじゃなくて、突出したカリスマ性でリーダーになったのかもしれないわね。使わないのは、実は異能自身は特に強いものでも……」


「ふざけるなッ! 兄さんの異能は最強だ! 兄さんの侮辱は許さない……《トラムプル・テウメソス》!」


 エマの言葉に激昂するや否や叫ぶソウジロウ。乗り捨てられたバイクは消え、代わりに彼の体を金属の塊が覆っていく。その塊からは腕や足が生えていき、さながら、


「ロボットじゃない、こんなの!?」


「ボクの異能は《乗車》と名づけてはいるがその実、乗れさえすればなんでもいいんだ。そう、バイクでなくともロボットだって意のままさ!」


「ユウより屁理屈こねてない、あの人!?」


「うるさい! まずはそこの銀髪女! ボクを怒らせた罪は重いぞッ!」


 ぐあっと腕を上げて振り下ろす。単純だが威力の高い拳を避けてしのとエマは後退する。


「まだまだッ!」


 ここで地面に打ち付けた拳、そこからタイヤが顔を出し、手首と分離して自走を始める。宣言通りしのへと一直線に進んでいく。


「えっ!? きゃ……あっ!?」


「この……っ!」


 エマが剣を出して拳を斬りつけようとするも、その動きを視認しているかのように猛スピードでバック、ターンを見せつけて元の手首へと帰っていく。


「このロボットはボクの乗り物だ。その乗り物からタイヤが出てきたくらいで驚かれちゃ困るな!」


「ユウ、この動き厄介だよ!」


「ちゃんと見てた! 分かってる!」


 以前寺で戦った謎石像、あれとはまた違ったロボットらしさとでも言おうか。石像の方はプログラミングされた門番のイメージだが、こちらは計算された精密な動作をするイメージだ。


 ロボットとしてのスペックが高いのか操縦者が上手く操作しているのか……何か、からくりがあっての動きなはずだ。


「とりあえず動かせてボロを探れば……!」


 相手が行動を起こさない限り付け入る隙は見つからない。まずは攻撃なり防御なりをさせて能力を把握、弱点を探らなければ――


「おっと、この我が大人しく見ているだけだと思ったか?」


「!?」


 いきなり視線に割り込んできたソウタロウ。そのまま無言で手を突き出すと、俺の体は動画の一時停止ボタンを押したように固まってしまう。


「は……動、か、ない……!?」


「今だソウジロウ!」


「任せてくれ、兄さん!」


 息のあった兄弟の連携。動けなくなった状態で何ができるかを考える間も無くロボットの拳が飛んでくる。


 その拳に思わず後ずさりをしてしまうが……後ずさり?


「……! 動ける!」


 理由を考えるよりも先にとにかく後ろへ飛んで、拳の勢いを殺そうと奮闘する。《上書き》を使えるだけの余裕はないため、身体能力だけに全てを託す。


「…………っつあ!」


 うつ伏せになって地面を滑るように。体を擦り付けながら勢いを弱めていく。


「……っ、手が大きい、つまり当たり判定がでかい分、体全体にダメージが分散する……だからそこまでやばい威力にはならないっての……!」


「そう言う割には苦しそうだぞ《上書き》? そんな屁理屈では気休めにしかならんだろう」


「屁理屈でどうにかできるほどボク達の《トラムプル》は甘くない!」


「だったらアタシの芸術的な異能で破壊してあげるわよ!」


 オーバーコートの内ポケットに手を突っ込んで絵の具を選ぶエマ。あのロボットを破壊するのに最適な色を選んでいるのだろうが、中々絵の具を出そうとしない。いや、違う。


「絵の具が……出せない……!」


「それって俺の時と同じ……!」


「だったら私が! 《炎撃(フレア)》!」


 動きが固まり無防備になったエマの前に、しのが即座に割り込んで炎を放つ。


「素晴らしい反応速度だ……。だが! 我の異能の方が上手だッ! ――《制御:停止(ストップ)》!」


「ちょっと……これは反則だって……!」


 そこには《魔法》を飛ばす動作のまま、硬直するしのの姿があった。さらにはロボットに飛んでいくはずの炎までもが空中で停止する。


 人も。物体も。異能すらも。ソウタロウの異能は止めることができるというのか。


「……反則か。そうだろう、そうだとも! 異能を使った喧嘩とはすなわち! 反則による殴り合いに他ならん! ソウジロウ!」


「分かってるよ兄さん! 理不尽で蹂躙する、それが正義ってことだろ! ――やれ!」


「…………っ!」


 ソウタロウが動きを止めている間に、ロボットがぐあっと殴るモーションへ入る。助けに行ければ最善だが、無策で突っ込めばしのと同じ目に遭う。


 となれば助けに行くのは却下だ。無謀と冷酷は違う。他にできることは……そうだ。


 周防兄弟の異能がふたりに向いてる今、俺は完全に自由の身だ。ならその瞬間に、


「ソウタロウをなんとかする……! とにかく拘束だけでもできれば弟を脅せるからな!」


「そうはいくまいよ! 《行進(マーチ):右へ(ライト)》!」


「うわっ……!? 今度は、止まらない……!」


 飛びかかろうと蹴り出した足は、ソウタロウの言葉通り右を向き。軍隊の行進のように足を交互に踏み出してしまっている。


「ユウ! どこ行ってんの!」


「行きたくて行ってるわけじゃ……ないっつの!」


「まずはこちらからだ、ソウジロウ!」


「ああ!」


 しの達へ向いていた体を反転、捻る力を勢いに加えて剛腕がぎりぎりと引き絞られ、放たれる。


「無理か……!」


 俺の足は止まる気配を見せず、そのパンチへとのこのこ近づいていく。これは道路を走る車に生身で突っ込んでいくようなものだ。ならせめて受け身か何かを――。


「《暴風の緑》!」


 いきなり吹いたのはエマの作り出す暴風だ。抵抗できずに包まれる。しかしこれまで簡単に吹き飛ばされていた俺でも、ソウタロウの異能のせいかびくともしない。


「ハハハッ! 風が吹こうが足場が無くなろうが《上書き》は我の命令通りに動く! それこそが我の異能、《制御》だ! 何人たりとも我の命令には逆らえない!」


「だったら制御されてない方を狙うまでよ!」


 俺に放射されていた風のビーム。それは矛先を変えてロボットの足へ。


「《トラムプル》が傾く……!? ここまでの力を持つなんて……!」


「その女の異能は強力なことで有名だからな。だが任せろソウジロウ!」


 その言葉と共にロボットの崩れたバランスが保ち直す。この瞬間、俺の強制移動がぴたりと止んだが、そんなことは気にしてられなかった。


「はあ!? エマの異能に対抗できるのかよ!?」


「僕の力を持ってすれば《トラムプル》の制御も容易! 風の障壁何するものぞ!」


「流石兄さん! これなら決められるッ!」


「「散れッ《上書き》!!」」


 嵐の中のロボットに《制御》の手が加わる。風を切り裂きロボットは動く。《トラムプル》の名前の通り俺を蹂躙するために。


「ぐ……っっ!!」


「ユウ!?」


 《上書き》を使う間もなく殴り上げられ二転三転。殺されるほどではないにしろ、激痛でないと言えば嘘になる。けど……!


「なんとなく……お前の異能が分かってきたぞ、ソウタロウ……!」


「ハハハ、そうか! それでどうする? これは推理小説じゃないんだぞ。トリックを見破っただけでは意味がないだろう!」


「意味がないかどうかはその身に教えてやるっての……この《上書き》で!」


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