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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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異能捕物帳

 幹線道路を抜けて《逃滅走統》の一団が山へと繋がる道路に入っていく。姿は再び見えなくなってしまったがライトの動きでどの道に進んでいるのかは察しがつく。


「もう一回、いくよ!」


 しのの言葉を合図に異能自転車のペダルの回転数を上げる。異能製のパーツが本領を発揮し、スピードを上げていく。


 異能自転車はこの島にしか存在しない。なんなら普及もしていない。故に、制限速度なんてもんはない。


「おい! カーブくるぞ! 右折!」


「オッケー! 左に……《風撃(エアロ)》!」


 しのの《魔法》で突風が吹く。荒っぽく左から吹き付ける暴風。それに身を任せればタイヤは火花を散らしてカーブする。


 言ってみれば異能力者流のドリフトだ。


 が、その小細工を《逃滅走統》はものともしない。


「ほんの一瞬近づいたくらいで同等だとは思わないことだ!」


「オイオイ、異能を使ってその程度かよ!」


 追いついたと思った次の瞬間にはそれぞれがエンジンを吹かして引き離す。縦一列に綺麗に揃った曲芸。異能を介さない純粋なアウトインアウトで無駄なくコーナーを抜けていく。


 その無駄の無さが決定的な距離となって俺達の前に立ちはだかっている。


「悔しいけどテクニック自体は芸術的じゃない……!」


「異能だけで有名になったわけじゃないってことか……! しのへの負担を考えると雑なドリフトは続けられない、どうしたもんか……」


 ドリフトして、近づいて、離されて。これは単なる徒労ではない。しのの精神にはダメージが蓄積される。これ以上はやるだけ無駄だ。《魔法》は使い時を見計らわないと。


「はぁっ……ありがと。でもいざとなったら派手に《魔法》、使うからね」


 《魔法》はあっちのバイクで言うガソリンみたいなものだ。この攻略には必須だし、かと言って無駄遣いできるものではない。……待った。


「ガソリンはどうだ……? 屁理屈で一気にガス欠まで持っていけないか?」


「絶対捕まらないって豪語するくらいだし、しっかりガソリンは入れてるんじゃないかな? 耐久レース仕掛けても振り切られる気がするよ」


「だよな……」


「けれど、アタシ達を速くするんじゃなくて相手を遅くするのはいい案だと思うわ。そうね……狙うならあそこはどうかしら?」



 *



「おや、まだ追いかけてくるとは。見えなくなったもので、諦めたのかと思いましたよ」


「舐めんな。作戦練ってただけだっつーの!」


 ここはまだ《逃滅走統》の間合いだ。無理に詰めても抜き去られるだけ。それはもう学習した。


 だから俺達は無理に追いかけることはしない。


「エマ! 前方の山! 切り崩せ!」


「任せなさい! 《暴風の緑(ザ・ゲイル)》!」


 オーバーコートから緑の絵の具を取り出して《奪色》の異能を発動させる。球状に固めた絵の具を飛ばし、《逃滅走統》の走る道路の先、擁壁の上の自然へ付着させる。


「荒々しいのも芸術の形よ!」


 《暴風の緑》が起爆する。風が砂利を撒き散らす。さらには暴風は木々をバラバラに伐採し、それらを纏めて地面へ撒き散らす。


「ナイスだエマ! いくらテクに自信があっても大量の障害物は避けきれない! 減速したところを叩くぞ、しの!」


「一網打尽だね! そういうのは好きだよ!」


 魔法陣を出しながらタイミングを図るしの。少しでも障害物に乗り上げれば、減速すれば、隙ができる……!


「惜しいな。ここ一帯は我らの庭も同然……雨の日も風の日も走っている! この程度、朝飯前にもならないな!」


 先頭を走るソウタロウがそう言って魅せるは小刻みのスラローム。背後のライトが線を描くように車体が揺れて障害物の間をすり抜けていく。当然残りの連中も一糸乱れぬ動きでついていく。


「走り慣れたこの道、暗闇だろうが砂利まみれだろうが何の問題にもなりはしないッ!」


「……だろうな。ドラテク勝負しても一生勝てないのは分かってるよ。つーか乗ったばかりの自転車で都市伝説を捕まえられっかよ……だからこうする!」


「テメェ、何を……!」


「障害物を避けようがそれだけ派手に走ればタイヤにダメージは入ってんだろ! それこそパンクしたっておかしくないくらいにな!」


 その言葉で俺の異能は発動する。スラローム途中のバイクが次々と不調を起こし、暴れ出す。


 パンクしたタイヤに踊らされる姿は絶対に捕まらない暴走族とはあまりにもかけ離れている。


「な……なんだ!? 本当にタイヤがパンクを……!? 都合が良すぎる、何をした……!」


「ソウタロウさん、これが彼の異能、《上書き》ですよ……! シチュエーションさえ合わせれば思い通りの現象を引き起こす……!」


「屁理屈が通れば道理が引っ込む、覚えておけ!」


「そんな間違った諺なんぞ覚えてはおれん……が、このままでは分が悪いか……!」


 不安定なバイクをソウタロウを筆頭に天性の感覚で乗りこなしているのか、まだ脱落者は見られない。それでも後一撃入れれば、ボウリングのピンのように纏めて倒せる気配はある。


「しの! ダメ押しで一撃入れてクラッシュさせるぞ!」


 こういう時に追撃の手は緩めない、そう思った矢先のことだった。


「大丈夫だよ、兄さん! 《逃滅走統》はこんなことじゃ負けはしない! 能力解除!」


「なっ……!?」


 声の主は狙撃コンビやソウタロウとは違う。中学生くらいの少年だ。俺達よりもさらに子供がバイクに乗っていることにも驚きだがそれよりも、


「あいつらのバイクが消えたぞ!?」


「あの子、能力解除って言ってたわよ! ……まずいわ!」


「壊れたバイクは乗り捨てて……新たなバイクで走り出そう! 《スプリント・テウメソス》!」


叫ぶと同時に、空気椅子のような姿勢になっていた彼らがバイク姿のライダーに早変わりする。バイクが消えて、再び出てくるまでの間隔は数秒も空いていない。よそ見をしていたら気づかないレベルの早業だった。


「あいつ、バイクを出せる異能か! 再使用で新品同然にしたってことか……!?」


何もかも一新され、年季を感じさせない風格のバイクはブロロロと雄叫びのような排気音を上げる。


「ボクの名前は周防ソウジロウ! ボクの異能、《乗車》がある限り《逃滅走統》は決して止まらないッ!」


「ハハハ、ナイスだ弟よ! これは面白くなってきた! さあラウンド2だ追跡者ども! もっともっと楽しませてみたまえ!」


瓦礫が崩れる音とバイクの排気音。その二重奏はこのレースの熱気を冷まさない。


「上等……! 何が何でも捕まえてやるっての!」


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