敵も味方も暴走族
「アタシがDIYで作った異能自転車……そのスペックを存分に見せてあげようじゃない!」
バイクに跨り狭い孤島を走り回る《逃滅走統》。彼らの追跡に採用されたのは、エマによる改造自転車だった。
「今更だけどホントに異能自転車ってなんだよ……!」
「だから言ってるでしょ。バイク屋で買った異能製のパーツを取り付けた、少し危険な自転車だって!」
この島の乗り物全てを扱う整備士、その人が異能で作った改造パーツ。なんでもバイクや車に付けて速度を上げるものらしい。
ただしここは広大ではあるが所詮は孤島。本土のような長距離移動は必要なく、速度重視・移動力重視のパーツはあまり受けがよくなかった。
そういった経緯で売れ残ったパーツを引き取って、あろうことか自転車に取り付けて原付のパチモンを作ろうとしたと……。
「パチモンだなんて馬鹿にしないで。免許がなくても手軽に乗れて操作もしやすいの。自転車をベースにしてるからこそできたことよ」
とにかく何か反論したくなるがこれは悔しいことに事実だ。自転車の一漕ぎ一漕ぎが人力では生み出せない強力な推進力になっているのを感じる。
それでいてスピードの出し過ぎでハンドルを取られるということもない。自分で漕いでいるから感覚で速度の調整がしやすいのだ。
「なにかの法に触れてそうだけど乗り心地は悪くないよね違法自転車! ちゃんと速いし!」
「異能自転車って言ってるでしょ!」
ふざけてるなあと思いはするがそこは異能力者兼技術者が作ったパーツだ。しのの言う通り本当に速い。
少し前に俺達を横切り彼方へと走っていった《逃滅走統》、見えなくなっていたはずの彼らの姿が再び視認できるようになる。
横一列になってバイクを走らせる彼らを見ながら複雑な思いで異能自転車の実用性を噛み締める。
「おや……珍しく私達を追ってくる者がいると思えば、貴方達でしたか」
その追跡に真っ先に気付いたのは《消音》能力の佐藤だ。《消音》を解除し、いくらかの排気音と共にそんな声が聞こえてくる。
「オイオイ、何が目的で尾けてきたんだ?」
次いでその後ろ、ふたり乗りでくっついている《狙撃》能力の山田が反応する。
「いきなり襲ってきた奴らに言う義理なんてないだろ」
「ま、聞くまでもねえ。射程範囲内に入ったんならやるだけだからなぁ!」
両腕を使ってライフルを構える山田。ふたり乗りは追手を迎撃するためのフォーメーション。
無音に透明化みたいな搦め手だけじゃなく実力行使も選択肢に入っているのか……!
「待ちたまえよ山田君。久方ぶりの追手だぞ? それも珍妙な自転車に乗った! すぐに終わらせてしまってはもったいないだろう!」
引き金に手を伸ばそうとする山田に待ったがかかる。その声は横一列に並んだバイクの真ん中から聞こえてきた。
その声の主は山田や佐藤に比べて一回り大きい大人の体を持っていた。俺達よりも長い年月を生きてきた風格と共に声を出す。
「やあ初めまして。我は《逃滅走統》のリーダー、周防ソウタロウだ。確認だが貴様らは我らを取り締まろうとしている、合っているな?」
「あー、取り締まりとかそういうつもりは丸っきりない……な」
「ならば貴様らはその自転車で何をするつもりかね? まさかレースを楽しみたいだなんて言うつもりはないだろう?」
「いや、そのまさかなんだよなあ。……それと! 絶対捕まらない《逃滅走統》のからくり! こいつを暴かせてもらう!」
「いいだろう……暴けるものなら暴いてみるがいい! さあ、我らに追いつくことができるか!? 総員、爆走せよ!」
ボスの号令に合わせて彼ら全員のバイクがフルスロットルで雄たけびを上げる。《消音》を使わないのは前回のように真空にされるのを警戒しているためか。
「追いついてみたまえ! 我らに本領を発揮させてみよ!」
ソウタロウを先頭に、一列になりながら距離を開けていく《逃滅走統》。
「うわ、さっきより速くなったね。もう見えなくなっちゃったよ」
「なら追いかければいいだけよ。この超高性能の自転車と!」
漕ぎながら、エマはハンドルから右手を離す。そして近くの街路樹の葉を一撫でする。
「おいまさか……」
「アタシ達の異能は! あんな都市伝説を凌駕する! ――《暴風の緑》!」
後方へと放った突風は俺達の自転車のブースターとなる。細いタイヤは火花を散らし、暗闇の道路を彩っていく。
「おい! タイヤ! 擦り減るだろ!」
「いいえ! 異能自転車はアタシの作品! アタシの作品である以上、そんな心配は無用よ! 芸術性のかけらもない暴走族には負けないわ!」
「芸術家の血が暴れまくってるな……」
「作ってすぐにここに来たもんね。興奮が冷めてないのかも……っと!」
速すぎて曲がり切れそうもないカーブはしのの《魔法》による微調整が入る。
「エマちゃんの暴走は私達が上手く制御しよう!」
「敵も味方も暴走族しかいないとか無茶苦茶かよ……!」
いやしかし。暴走族を以て暴走族を制す、そういうこともあるかもしれない。だったらこの際、暴走族にでも何でもなってやろうと思う。それに、
「お行儀よくするよりはこっちの方がワクワクするもんな!」
そう言って俺はペダルの回転数をさらに上げたのだった。




