《逃滅走統》を追って
「『《逃滅走統》を捕らえて、その謎を解き明かしてください!』とか言われてもな。どうやって暴走族を捕まえりゃいいんだ……」
絶対に捕まらないと噂の暴走族《逃滅走統》。進藤先生の興味本位でそのカラクリを暴くよう頼まれはしたが、どう接触したものか。
《狙撃》や《消音》の時みたいに相手から襲ってくるわけじゃないからこっちから捜索する必要があるんだよな……。
「奴らが走りそうな道路に毎晩張り込むしかないでしょ。アタシは絶対やらないけど」
案は出したんだから実行部隊は任せたと言わんばかりのエマ。しかし俺としてもそんな理由で徹夜などしたくない。
「いやいや、こういうのは公平にじゃんけんで負けた奴がやるべきだろ。……そうそう、力んでグーとか出さないように気をつけろよ。んじゃ最初はグー!」
「待ちなさい! アンタ今《上書き》使ったでしょ! 絶対にじゃんけんなんかしないわよ! アカリ! 止めなさい!」
「任せてよ!」
叫ぶと同時にバッとしのが手を伸ばす。それに呼応してどこからともなく鎖が現れる。その、《魔法》で作られた鎖は振り下ろそうとしたグーを出させることなく腕を固定させる。
「……くそ! 少し遅かったか!」
弱っていたとはいえ、鯉筌ダムのヌシを捕縛していた鎖だ。しかもその全てが腕に集中している以上、俺がどうこうしても引き千切れるものではない。
「うっかりこの状態でじゃんけんなんてしたらユウがひとり勝ちしちゃうからね。しかも勝ったら屁理屈こねて私達を動かすつもりだったでしょ」
そういうことができるから《上書き》ってずるいよね、としのが言う。
俺の異能をよく知られた相手に暗躍は難しいか……。もっと自然に、警戒する余地を与えないように屁理屈を潜り込ませる必要があるな。
「そういうこと考えてると友達なくすわよ?」
「その時は引きこもるから先輩として色々教えてくれよな」
引きこもりを正そうとする奴が来たら一緒に返り討ちにしようぜ。
「それでどうしよう、本当に張り込む? それともまた新聞部に頼もうか?」
「あっ、これだ……! 新聞部に頼るのも張り込みも無しだな。《上書き》で引っ張り出せばいいだろ、この前のヌシみたいにさ」
適当な理屈をつければ発見は容易いはず。さっきのじゃんけんみたいに俺に都合のいいような状況を考えればいけるだろう。
「それよりも問題は《逃滅走統》を見つけた後なんだよなあ。どうやって捕まえる、というか追いかける? 相手はバイクなんだろ?」
「私の《魔法》で飛んでもいいけど長距離は向いてないしね……」
《魔法》は無制限に使える異能ではない。ガソリンメーターのない車みたいなもので、いつ燃料切れになるか分からない。
おまけに俺との距離が離れるほど出力が落ちてしまう。相手がバラけて逃げ出したら、《魔法》抜きで他の異能の応戦ができるのか、不安要素はかなり多い。
「その心配はいらないわ。ふたりとも手を貸しなさい。面白いものがあるの」
「「…………?」」
*
それから数日後。エマに言われた準備を整えた俺達。今日は《逃滅走統》追跡の決行日だ。
ここは市街地に敷かれた幹線道路。オレンジの街灯が暗闇に紛れたそれを照らしている。
「んじゃ、そろそろやりますか。準備はいいよな?」
「オッケーだよ!」
「ちゃちゃっと呼び寄せなさいよ」
そんな返事を聞いて、作戦開始の屁理屈を披露する。
「ここさ、島でもトップクラスにでかい道路だろ。そんな走りやすいところ、暴走族が外すわけないよな……!」
異能を使う。そう念じながら呟いて少しした頃、道路の果てから光がこちらに向かってくるのが見えた。その数は五つ。
その光はどんどん大きくなり、やがて閃光となって俺達の脇を通り過ぎていく。閃光を纏っていたのは紛れもなくバイク。それも音のしない。……決まりだ。
「おっけ、呼び寄せた」
「本当に便利だよね、その能力」
「ほら! 見てないで追うわよ、ふたりとも!」
そう言ってエマは用意した秘密兵器に跨る。同じようにして俺達もその乗り物を用意する。
「アタシがDIYで作った異能自転車……そのスペックを存分に見せてあげようじゃない!」
エマの考えた名案、それは自作の改造自転車でバイクを追跡するというレースに持ち込むことだった。




