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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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目的達成と副産物

「いっ、つつ……。まさかアタシの異能が暴発するなんて思わなかったわ……」


 気絶から回復したエマは特に抵抗するでもなく、開口一番そう言った。ここはエマのアパートの一室。地べたに寝かせておくわけにもいかないので勝手に運び込んだのだ。


「暴発()()んじゃない。暴発()()()んだって。それが俺の異能、《上書き(オーバーライト)》なんだよ」


 実際のところ、あの時投げた三色の絵の具が本当は何色になるかは分からなかった。ただ、小学生の頃の記憶を引っ張り出すと白色にならなかったことは確かだったと思う。


「でもリアルな絵の具の混ぜ方は知らなくても、純粋な三色を混ざれば白くなる。光の三原色とかデジタルで色を作る方法とかそんな感じがするじゃん。で、それを使ったら上手くいったってことだな。……あ、これは返しとく」


 黄色や紫といった、くすねてはいたが結局使わなかった絵の具、それらを思い出したようにエマの前に置く。


「ちょっとユウ、それ全部盗んでたの?」


「何が使えるか分からなかったから手当たり次第に拝借したんだよ。……つーか盗んだとか言うなよ人聞きの悪い。他人の異能を逆用するのは俺の基本戦術なんだぞ」


「盗人猛々しいわね……。にしても《上書き》、タチは悪いけれど面白い異能ね。創作意欲が沸いてくるわ!」


 なにやらメモ書きを走らせるエマ。次回作の構想だろうか。モデル料とかそういうのを取ったりはできないだろうか……。


「そういえば空無色さんは絵を描いてるって聞いたけど、この島では展覧会とかはないの? ネットの画像しか見つからなかったんだけど」


 新聞部の協力で素性を調べ上げた時にも絵は見たが、この島に飾られているという話はなかったのだ。


「空無色じゃなくてエマでいいわ。絵は定期的に本土に送ってるのよ。そこで展覧会は開いてもらってるの。アタシ達は本土には行けないけど物を送るくらいならできるのよ」


「ふーん、じゃあ漫画家が異能に目覚めても打ち切りにはならないし、会社員ならリモートワークだので働き口は潰されないわけか」


「色々やってはくれるけど、結局外には出してもらえないんだね」


「そうなのよ! ホントはアタシだって展覧会に行きたいのに警備が厳重で出られないのよ! つまらない学校には行く気は起きないし……ここの生活は味気ないわ。そう思わない? そっちも刺激を求めてアタシに喧嘩を売ったんでしょ?」


 あーあ、といった口振りで愚痴を吐き続けるエマだが、俺たちの思惑は別にある。


「刺激というか先生に学校に引っ張り出すよう言われて……」


 別にある……。


 ……あっ。


「そうだ、学校! 真面目に学校通えよ、アンタ! 信用稼いで一緒に脱出しようぜ!」


「あっ……あー! エマちゃん味方にしちゃうんだ! いいね! 賛成! 凄く強いし頼りになる!」


「み、味方? 脱出? 勝手なこと言われても学校には行かないわよ!」


「まあ待ってよ、悪い話じゃないと思うしちょっと聞くだけでもお願い!」



 *



「……なるほど。島から脱出するために、異能の鍛錬とごますりを兼ねて雑用を始めたってわけね」


「そう。それでターゲット第一号がアンタってわけ」


 俺達が今やってることと、その最終的なゴールをかいつまんでエマに伝える。


 当初は引きこもりをどうにかして行動の実績を作ろうとしていたはずなのに、気づいたら《奪色》の異能を打ち破ることが目的に変わりはしたが。


「でさ、この計画、エマちゃんはどう思う?」


「うん、面白いんじゃない? 刺激があっていいと思うわ! ま、もう少しちゃんとした準備は必要になりそうだけど」


 俺が返した絵の具の瓶をくるくると手で回しながら快活な返答を返すエマ。《奪色》を使っていた時の荒々しさは消え、その奥の行動的な部分だけが前面に出ている印象を受ける。


「アタシも頭数に入れなさい。《奪色》の異能、役に立たないとは言わせないわよ」


「やった! ありがとう! ……じゃあこれから脱出のために三人で頑張っていこう! 私達ならやれるはず!」


 まずはあれかなー、それともこれに手をつけようかなー、と話を振り出すしの。落ち着きなさいと言いつつ、しののアイデアを一つ一つ評価していくエマ。


 刺激を求める異能力者が、面白そうという理由だけで加わり、この計画はさらに進む速度を上げていく。机上の空論めいた脱出計画はさらに色鮮やかに、現実を塗り替えようと大きくなっていく。


「……とにかくアタシは島の土地勘をちゃんと取り戻さないといけないわね」


「学校にも来るんだぞ」


「しょうがないわね……。絵を描く時間が減るのはまあ……諦めてあげるわ」


「ねえ、エマちゃん。学校がつまらなくて引きこもって絵を描いてたでしょ? 絵画ってそんなに刺激的なの?」


「当然よ! 脱出出来たらこの島の美術館よりも百倍凄いところ、案内してあげるわ! それとこの場で絵画の良さを味わってもらうならこれと、後はそこの本と……」


「あっ、こいつ喋り出したら止まらないタイプだぞ」


 そこから先はノンストップ。美術談義から異能の話まで話題は尽きることはなかった。


 ……本当に引きこもりの説得に来たのか分からなくなってきた。


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