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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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種明かし

「おい! 引きこもり生徒! 家に篭ってんのは分かってる! アパートを燃やされたくなかったら出てきて勝負しろ!」


「進藤先生の許可もあるから本気で燃やすよ!」


 鯉筌ダムでのひと騒動から数日後。罵詈雑言に犯罪予告。あることないことをエマの住むアパートでまくしたてる。


 ここのアパートは住宅街から少し離れており、他に住人もいない。だからと遠慮なく大騒ぎしていると、


「あの先生はそんなことするはずないわよ!」


 乱暴にドアを開いて出迎えてくれる人間がひとり。どうにかして学校に来させろと進藤先生に言わしめた問題児。


 そして手のつけられない原理不明の異能使いでもある。雷、炎、氷に留まらず、不可視の打撃に爆破と異能の百科事典みたいな人間だった。


 誰も逆らえないその力で不登校を決め込む、異能使いの集まる島ならではの問題児だ。


「何回来ようとも学校になんて面倒なところには行かないわよ! さっさと帰りなさい!」


「不登校とかそんなの知るか! そんな話は後回しだっての!」


「私達の目的は空無色さんの異能を倒すことだから!」


 そう。俺達は登校の説得に来たわけではない。先生にはそうするよう頼まれてはいたが、もうそんなことは二の次となっていた。


 彼女の強力で奇妙な、それでいて興味深い異能。それを単純に打ち倒したい。気づいたらそれだけが目的となっていた。


「うわ、何なのこの人達……。でも、今は刺激が欲しかったし……少し相手してあげるわ!」


「来るぞ……!」


 エマが手を大きく振ると現れるのは件の氷柱。前回と同じくミサイルのように飛ばしてくる……。


「ユウ! また炎で防げばいいよね!」


「ああ、まずはそれで……いや、違う!」


 《上書き》の支援をよこせという合図を無視して、しのの肩を掴んで地面に引き倒す。その伏せた頭上を水色の氷柱が、そして続け様に紫の閃光、恐らくは雷が通り過ぎていく。


「危なかった……ありがと、ユウ」


「勘がいいわね。もう少し捻りを入れた方がいいかしら?」


 そう言いながらエマは自分のオーバーコートの内ポケットをまさぐっている。


「それともこんな感じでストレートにいこうかしら?」


 取り出したのは銀の長剣。それはまるで手品のように、上着の内側から顔を出す。


「貴方の異能は剣を出せるのかしら!?」


 突き出すように構えた剣で風を切り、エマがしのへと突撃する。


「しのの異能ならできないことなんてないよな!」


「当然! 武器の創造だっていけるよ! ――《抜剣(ドローイング)》!!」


 《上書き》で後押ししながら、新たなしのの《魔法》を見る。


 手品のように服の内側から刀身を伸ばしたエマとは違い、しのの場合は光が集まって腰に剣が形作られていく。


 深い蒼で満たされた長剣。それがしのの作り出した武器だった。


「しの! 進藤先生を食い止めた剣術、見せてやれ!」


「任せてよ!」


 威勢良くしのが斬りかかる。それは剣道の顧問あたりが見れば踏み込みだの剣の振り方だのに文句が飛んでくるような立ち回り。


 対するエマは構えからして経験者のような風格を見せた。しのの素人の動きと合わせるとそれが洗練されていることがよく分かる。


 それでも、


「っ……ちゃんばら紛いなのに、崩せない!」


 型が無茶苦茶でもある程度は戦える。そういう上書きを加えてやれば経験の不利を多少埋めることはできる。


 そして、


「俺が見てるだけだと思うなっての!」


 深紅の剣を握り、攻めあぐねているエマへ俺も斬りかかる。剣はもちろんしのの特製だ。


「させない……!」


 エマが上着へ片手を突っ込み、そこから氷の盾を展開する。


「一点突破でぶち抜いてやる……!」


 剣の切っ尖を氷の盾に突き立てる。それはさながらアイスピックのように。


 ガツンと音を立てて少しの亀裂が盾に入る。


「残念! 壊すまではいかないようね!」


「それなら追加でもう一撃!」


 鍔迫り合いから即座に追撃体勢へ移行するしの。剣の軌道を俺の剣に重ねて、もう一度強い衝撃が盾に走る。


「砕け散れ……!」


「そう簡単にやらせはしないわ!」


 氷の盾を貫通し、剣が届くと思われたすんでのところでエマは後ろに飛び退いた。


 エマの判断は速く、腕を伸ばし切って迫った刃は羽織っているオーバーコートを掠めるだけにとどまった。


「あ! ユウ! 見て!」


 しかしその掠めた風圧でコートがなびき、露わになった服の内側。それはあるひとつの事実をも露わにした。


 憎々しげに舌打ちをしながらエマが睨む。


「やられた、見たわね……!」


「そうか……それが異能の正体か!」


 エマの純白のオーバーコート。その内側には様々な色の瓶が所狭しと収納されていた。

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