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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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ダム特有のギミック

「はっ、はあっ……! 疲れとか知らねえのか、こいつは!」


 俺が龍の気を引いている間にダムのある要素についてふたりに調べてもらうことにした。


 つまりさっきから龍とのタイマンが続いているわけだが、俺にできることはひたすら避け続けるだけだ。


 炎、炎、突進、そして長い尻尾にも注意しないといけない。まるで最初から使える基本技のように炎を吐きまくる龍。


 火を吐くことはやめさせられないが、せめて自分の身を守るために利用させてもらう。


「でもまあ……こいつの炎で水温は上がってる! なら低体温症にはならないだろ!」


 そう叫べば寒気が一気に飛んでいく。それでもこれは時間切れで負ける可能性を潰しただけだ。時間無制限で戦えることと時間無制限で負けないことは全くな別問題。


 異能力者ではあるが一高校生にすぎない俺だ。体力は簡単に底をつく。


「――――」


「っ、仕方、ないよな……!」


 俺の動きに慣れてきたのか、《上書き》でかけたデバフに慣れたのか、完璧に俺を捉えた突進がくる。


 大口を開けた龍。《上書き》でも誤魔化せない一撃。それを悟って、せめて最悪の事態は避けてやろうと腹を括る。


「だっ……! 止めなきゃ俺が殺される……!」


 水圧を跳ね飛ばしながらの頭突き、を受けた瞬間に気を強く持って、両手を使って龍の口を万力のように締め上げる。無理矢理口を閉じさせて喰われないようにと必死に力を込める。


「く、食われてたまるかっての……!」


 掌では力が足りない。見よう見まねでプロレスの技を極めるように、腕を回して締め上げる。


「――――!!」


 当然龍は振り解こうと首を振って暴れ出す。ここで負けて落とされれば本当に後がない。


「しの! そろそろ何か分かったよな!? もうこっちかなり危ない!」


 必死に叫んで助けを求める。頼みの綱であるダムの謎ギミック。こいつの内容次第で俺の生死が大きく左右されてしまう。


「もちろん! ユウが言ってたあれの正体は――!」


「……なるほど! ってことなら……!」


「――――!!」


 一発逆転のネタ、そいつの使い道を考えようとして油断した。


「やばいっ……!」


 緩んだ腕の拘束を見逃すほど龍の知能は低くはなかった。即座にダム湖に放り出されたところを、追撃のように炎熱の絨毯爆撃が降り注ぐ。


「やれるもんなら焼いてみろよ!」


 ダム湖に潜り、炎がじゅうじゅう音を立てながら消えていく音を背に泳ぎ続ける。


 先程から龍はダム湖へ炎を撃ちまくっている。そこにダメ押しで加えられる高温の炎はダム湖の水をお湯のように熱くする。


 いくらなんでも屁理屈で熱湯は耐えられない。だから炎の当たっていない、少しでも冷たいところへと逃げなくてはならないのだ。


「ユウ! 逃げ回ってもダム湖の水温が上がっていくだけだよ! 早くそこから出ないと!」


 確かにしのの言う通り、ここは遅かれ早かれ熱湯風呂になる。だがそうなってもらわなくては困る。


「いいや! 熱湯からは逃げない! むしろ熱湯を利用する!」


 ごぼぼぼと唸りをあげるダム湖。


 ――やっときた。


 煮えくりかえるダム湖の音に聞こえるそれは、その実、もうひとつの現象が合わさったものだ。


「ダム湖の水温を下げる曝気循環装置! 馬鹿みたいに水温上げてくれたらそりゃあバグるよな!」


 その屁理屈は最後の一押しとなり、巨大な水柱が次々と噴き出していく。


「――――!?」


 そしてそれは槍の如く、龍の体を貫いていく。


 ――曝気(ばっき)循環装置。ダムの水温を調整するために底の冷たい水と表面の温度の高い水をかき混ぜる装置だ。


 ダムから噴水が噴き出しているように見えたら、こいつが派手に稼働していると考えればいいらしい。


 今、それが作動している。それも通常では考えられないような高い水温を冷まそうとして。


 だとすれば。通常では考えられないレベルで激しく作動して、発生する噴水が強力になることはあり得るはずだ。


 その目論みは形となる。氷柱のように鋭い水柱が空へ向かって伸びていく。


「――――!」


 龍はするすると水柱の合間を抜けようとするがそれは叶わない。《上書き》で自身の限界を突破させられた装置は散弾銃のように水を撃ち出す。


 さらに弾丸となる水はダムに無尽蔵に存在する。どれだけ速く動けようと避けられるものではない。


「岩をも砕く水の力! 龍だか鯉だか知らないがどこまで耐えられる!?」


 怒涛の勢いで発射される水柱は、まさに下手な鉄砲もなんとやらで、龍の頭部から尻尾まであらゆる場所を突き上げ、穿つ。


 その乱打で龍の体がぐらついたところへ決定打を打ち込もうと最後の無茶に出る。


「この噴水に……飛び乗る!」


 水流が俺の体を持ち上げて飛ばす。パチンコのように打ち出された勢いそのままに拳を振り上げる。


 その狙い澄ました一撃は龍の首、逆鱗を見事に捉えた。


「――――!?」


 怒りよりも先に激痛に支配された様子の龍。だが、まだ終わらない。


「アンタに捕まって空飛んでたからな! 身のこなしは少し自信あるんだよ!」


 龍の顎を殴り上げた後も俺の勢いは止まらなかった。今や龍よりも高い地点に位置している俺。


 そこから上半身と下半身を上手く動かして方向を変える。上昇から下降へ。打ち上げられたエネルギーを今度は急降下へと利用する。


 そのエネルギーを足に集中させれば……!


「地に墜ちろ! ダムの主!!」


 龍へ向かって降下しながら前転。そうして体重を乗せた踵落としを逆鱗へ炸裂させる。


「――――!」


 急所へ渾身の一撃を受けた龍は空を駆けることもできずにダム湖へと叩き落とされる。


「! あいつ……!」


 そして水没した龍の体にどこからともなく現れた鎖が巻き付いている。いや、鎖の出どころは分かっている。


「地に墜ちろって……落としたのは地面じゃなくて水だよね」


 苦笑いしながら指先を龍へと向けているしの。弱っている中で作り出した《魔法》の鎖を、引きちぎるだけの力は龍にはもう残っていなかった。



 *



「……で。こいつ、どうする?」


 龍から鯉の姿へと戻ったダム湖のヌシを見下ろして呟く。


 依然、《魔法》の鎖で拘束されたままぷかぷか浮いている様子は、さっきまでと打って変わって借りてきた猫のようだ。こいつ魚だけど。


「私としては申し分ない取材となりましたし、これ以上はなにも。生かすも殺すもお任せしますが」


 パシャパシャと写真を撮りながら鈴代さんが言う。ネタさえ得られれば、対象にそれ以上の興味は湧かないのだろうか。


「お任せされちゃったけどどうしようね。捌いて食べてみる? その気になればいけるでしょ、鯉って」


 ばしゃっと鯉が水面を跳ねた気がする。怯えたように見えたのは多分間違いではないと思う。


「や、やめてやれよ……。いくら殺されかけたとはいえ逆に殺すのはなあ……」


 自分の手で生物を殺すのは気が引ける。そこまでの度胸は俺にはない。かと言って放置してまた暴れ出したらそれも困る。逆襲として学校や自宅に火でも吐かれたら堪らないしな。


 ふーむ。と、しばし考え込んでから口を開く。現実を書き換えるような意志を持たせて。


「まあ……放置しても問題ないだろ。こうして一度倒して拘束してるんだ。また暴れだしたら同じ目に遭わさればいいじゃん」


 言い切ってやる。一度勝ったから次も勝てる。そういう上下関係を決定事項として上書きするために。


「オッケー! あ、できれば飼い慣らして《避難訓練》で一緒に戦ったりもしたいんだけど。《上書き》で懐柔できない?」


 龍の背に乗って共に炎を噴き出すしのと龍の姿が目に浮かぶ。これは、中々……強いのでは?


「……考えとく」


 動物の調教の本でも探しておくか、とかそんなことを俺は思った。


「ね。これで空無色さんのこと、少しは分かりそうだね」


「そうだな。天下の新聞部の力、見せてもらわないとだな」


「んふふ! そう言われたらご期待に沿うしかないですね! ばっちりと調べ上げてみせましょう!」


 ダムの下に広がる島の景色を眺めながら次なる計画を立てていく。


 異能使いの鯉を仕留め、俺達はまだまだ進み続ける。この島、ここにいる人のことを知り尽くし、脱出計画を成功させるために。


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