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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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逆撫でされる逆鱗

「なんだあれ!? 龍!?」


「鈴代さん、あれがヌシだって言うの!? 別の生き物だよ!?」


「本当なんです! 私の異能の監視対象は変わってません! あれは、あの龍はさっきのヌシなんですよ!」


 異能のガッチン漁法で強引に仕留めたと思ったヌシ。それがなぜか龍になって空を駆けている。


 細長い体に漆黒の体表。それだけ見れば確かにヌシの面影はあるとは思うが、だからって唐突に姿を変える理由は……。いや、


「まさか……これも異能じゃないだろうな。鯉に備わってる異能、とか」


「異能? 鯉に異能とかあり得るの?」


「俺らが異能使えるのだって最初はあり得ないとか言ってたろ。そういう意味では対等だろ」


 人だろうが違う生物だろうが異能に目覚める可能性は等しくある、あってもおかしくはない話だ。


「龍になる異能ですか……。もしそうだとしたら鯉の滝登りの話みたいですよね」


 中国の故事にそんなのがあった。険しい滝を登った鯉がそのまま天に昇って龍にまでなる、みたいな出世に絡められる話。


 となるとこいつは島のダムを登り切って龍になったのか、それとも龍になる異能に目覚めてダムを登れるようになったのか……?


「――――」


「ユウ! 考えごとしてる場合じゃないよ! 火吹いてる!」


「っ!」


 鶏か卵どっちが先か、みたいなことを考えていて反応が遅れた。急降下しながら火を吹き、そのままこちらへと向かってくる龍。


 口から吐いた炎を剣のように伸ばしながら今にもこちらを斬り裂こうと迫って――


「間に合って……!」


「うわっ……!」


 突如として体が持ち上げられる。クレーンゲームでアームに捕まったぬいぐるみのように、俺の意思とは関係なく体が動く。


 この感覚は、しのの浮遊魔法――


「反撃するからすぐ落とすよ、着地は自分でどうにかしてね!」


 堤体の通路に立ち往生しているしのが腕をすぐに構え直す。と、同時に重力が俺の体をコンクリートの地面へと引っ張っていく。


「炎には炎! ――《炎撃》!」


 しのの火の玉、龍の熱線。それらが衝突し、せめぎ合い、その熱量、炎が直下のダム湖へと流れてくる。


「熱い! とんでもない炎ですね……!」


 高く迫り上がったダムの通路。これが壁となり炎に包まれなかったのが幸いだ。こんなものを直接受ければ待っているのは病院生活だ。


「《魔法》だけじゃ押し切れないね。他に何か攻撃手段があればいいんだけど……」


「《監視》と《上書き》でもできる攻撃手段か……」


 あいにく、しの以外は直接攻撃に向いた異能ではない。特に《上書き》はともかく《監視》については望み薄だと言わざるを得ない。《監視》には《監視》で得意なことが別にあるのだ。


「私は荒事には向いてないので、徹底的にヌシの動きを監視しておきます。これでも《避難訓練》の経験は豊富ですからね。動きの予測は任せてください!」


 実際さっきの動きの予測は正確だった。巨大な龍といえど、やってくることは突進や火炎放射だ。《監視》に頼れば安定して避けられるはず。後は、


「早いとこ無力化する方法を探すだけ……!」


 とにかく周囲を観察する。何か武器になりそうなものはないだろうか。


 立派なダムではあるが、弧を描く通路には特に何かが置いているわけでもない。いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「体温が上がりました! 炎攻撃、きますよ!」


「そうだ! ……炎にはこれでどうかな!」


 しのが指を鳴らすと、ダム湖の水がスライムのように固まり、移動し、俺達三人の前に盾のように広がっていく。


「燃やせるものなら燃やしてみてよ!」


「――――」


 その挑発に乗ったのか、龍の吐く火炎が水の盾を突き破ろうと突進する。


 対するしのは器用に水を操り、その炎を水ですっぽりと包み込む。そのまま炎はじゅうじゅう音を立てながら勢いが弱まり、消えていく。


「やっぱり! 大量の水を出すよりよっぽど効率的だし使えるよ!」


 しのの手刀が空を切り、それに呼応して水の盾が霧散する。そして新たな《魔法》を使おうとするしのだったが、


「っ……やばっ、使いすぎた……?」


 《魔法》は発動できず、その場に倒れ込んでしまう。


「しの!」


 なんでもありに見える《魔法》の弱点。それは過度の使用は、彼女の精神的な負担になること。ゲームでいうとMP切れのようなものかもしれない。


 ただ、これはゲームではない。MPなんてパラメータが可視化されるような世界ではないのだ。限界がどのくらいなのか、俺達はまだ把握しきれていない。


「東雲さん! ……まずいです、龍がこっちに!」


 助け起こそうとする鈴代さん、そうしてできた好機を逃すような龍ではなかった。撤退できないふたりを狙い、その大顎を開いて迫ろうとする。


「《魔法が》使えないから迎え撃てない……どうすれば……!」


「なら、こっちで引きつけてやればいいよな!」


 ダム湖を滑るように飛びながらふたりのいる堤体上の通路へと迫る龍。その間に割り込み、堤体を足場にして跳躍する。


「龍のヘイトをこっちに向ければいいんだろ! だったらおあつらえ向きのネタがある!」


 飛んだ先にあるのは龍の首。そこに手を回してしがみつきながら、龍の顎の下、そこにあると言われる鱗を狙って思い切り拳を喰らわせる。


「異能の龍でも逆鱗はあるだろ! 逆鱗に触れられたらどうなるかは有名な話だよな!」


「――――!」


 声にならない悲鳴を上げる龍。逆鱗は龍にとって弱点であり、怒りのスイッチだ。


「ユウ、怒らせていいの!? 本気で殺されるよ!?」


 逆鱗に触れ続ける俺を振り落とそうと、首や体を激しく揺らして暴れる龍。それを見てしのが叫ぶ。


「うるさい! 見た目が龍でも中身は鯉だろ! 殺されてたまるかっての!」


 とにかく必死に抵抗しながら叫び返す。半分は自分を鼓舞するため。もう半分は《上書き》による保険をかけるため。どこまで効果があるかは不明だが。


「――――!!!!」


「とは言ったけど、これは耐えられない……!」


 龍は、その首を鎌のように大きく振りながらついに俺を振り払う。吹き飛んだ先は堤体の地面ではない。冷たい感覚が背中から全身に広がっていき、どこに落ちたのか察する。


「涼夜君、そっちはダム湖です! ヌシの独壇場ですよ!」


「っぷあ! 水中戦とかマジでやるってんのか、あの龍! や、待てよ…………いいぜ、やってやる!」


 いつか島を脱出するなら、海を越える必要は絶対に出てくる。その時の万一を考えると、これも経験値になるはずだ。


「水中だろうが空中だろうが……負けるかよ!」

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