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有無を言わせぬ入島

「……どうしてこんなことになってるんだろうね、私達」


「俺に聞かれても困るんだけど。……テレビのドッキリか何かじゃないのか? もしかして」


「いいえ、テレビでも何でもありませんよ。我々は本気で言っているのです。あなた方は異能力者だと」


 俺達ふたりの前を歩くスーツを着こなした女性がそう口にする。スーツには皺がなく、黒い髪も後ろできちっと結ばれており、バラエティ番組よりはお役所仕事の方が向いてそうな印象を受ける。


 冗談など言わなそうな雰囲気の女性が言うのだから本当に異能力があるのかもしれない。そんな自覚は全くないのだが。


「涼夜ユウ様、そして東雲アカリ様。あなた方にはこのアパートに住んで頂きます。生活に必要なもの、施設は全てこの島に完備されていますので、これまで通りの生活をここでお送りください」


 古すぎず、かといって新築だという程でもない、形容に困るアパートの前で振り返り彼女は言った。しかし今はアパートの外装に関してあれこれ言っている場合ではない。


「人の通学中に急に拉致しておいてそれは無茶があるだろ。これって誘拐とか犯罪になるだろ、どう見ても」


「そうだよ。それに下手に私達を扱えば、その持っているっていう異能力で貴女に危害を加えるかもしれないよ?」


 俺と幼馴染の、しの――東雲アカリ――は高校への通学中にスーツを着た連中に拘束され、船に乗せられ、謎の島へと拉致された。


 ただただ異能力を持っているという一点張りで無理矢理ここまで連れてこられたが、それだけで納得する奴は中二病真っ盛りな人間くらいだろう。


「いいえ。まだあなた方の能力は成熟していません。それを成熟させ、使いこなせるようにするのがこの島の役割です。そうして成熟した能力はあなた方の人生を、そして社会をより良くすることでしょう」


 しのの脅しにも一切動じず、にこやかに説明を続けていく女性。理屈は通ってはいるが、そんなことを急に言われてもほいほいと信用ができるはずもなく、不信感はぬぐえない。


 そんなことにはお構いなくさらに女性は笑顔を崩さずに続ける。


「私達はご両親の許可もきちんと頂いておりますし、学校とも話をつけて転校手続きまで済ませてあります。これは異能力者が、その能力で周囲を不幸にしないための国策の一環ですよ? 裁判員制度のようなもので拒否権というものはありません」


「……どうせ何か反論しても、保護されなかった異能力者は重大な犯罪を犯した事例がある。危険な存在だ、とか言うんだろうな」


「頭の回転が速くて助かります。その通りです。そしてこれはあなた方にとっても悪い話ではないはずです。本土で24時間監視付きの生活を強いられることと、どちらがいいでしょうか?」


 他人の言いそうなことを先読みすることは気づいたら癖になっていた。誰かがちょっと喋った瞬間にそれを遮って次の反応をポンポンと出してしまい、会話が上手く噛み合わないこともあった。


「正当性がそっちにありそうで嫌だね……。さっき使いこなせるようにって言ってたけど、制御できると認められればこの島から出られるってことでいいのかな?」


「それはもちろん。監禁することが目的ではありませんからね。……それにしても、随分冷静でいられますね。これまで連れてこられた方はもう少し暴れ出したりしたものですが」


「暴れる理由もないしな。そんなことするだけ無駄そうだし」


「異能力があるのかもしれないけれど私達は普通の高校生って自覚しかないからね。それなのに大人に力で楯突くのはね……」


 暴れる理由がないのは暴れようと思ったが無駄だと悟ったから、という意味ではないがここでそんな話をこの女性にする義理もないので黙っておく。


 当の女性も俺達のコメントに特に気にした素振りも見せず、マニュアルにでも載っているのであろう伝達事項を述べていく。


「そうですか。では住居の規則、及び新生活について伝えておくべきことをお話します…………」



 *



「はあーー。説明にルールに書類がたくさんと。本当に何してるんだろうね、私達」


「さっきもそんなこと言ってたぞ」


 ゲームでいうところのチュートリアルから解放された俺達は、ひとまず用意された部屋へ入り人心地ついた。現実世界にはチュートリアルのスキップ機能がなぜ存在しないのだろうと思いながら人の部屋に上がり込んできた隣人を見る。


「それにしても異能力かー……。ユウならどんな能力だったら嬉しい?」


 一口に異能力といってもカテゴリーは多岐に渡る。直接攻撃をするようなものから精神的な干渉をするもの、そもそも戦闘特化であるとも限らない。


 その中でもし俺が身につけるとすれば……


「……無からお金を生み出すとかか?」


「俗っぽい能力だね。そんな能力があったらこんな島じゃなくて造幣局に監禁されそう」


「ありそうなこと言うのやめろ。……やっぱ無難な能力がいいなあ。国に目をつけられない感じで、かつそこそこ便利な能力」


「また都合のいいこと言ってる。まあ、私も同じなんだけどね」


 しのとは幼稚園から高校の今にまでそれなりに長く関係が続いている。それはやはりどこか自堕落なところが共通しているからだろう。類は友を呼ぶというし。


「ところで異能力が成熟してないとは言われたけど能力はもう決まってるのかな? それとも自分でじっくり作れたり?」


「意図的に能力が作れたらテロリストみたいなのがうじゃうじゃ湧いて出るだろ。そうなったらもうこんな軟禁みたいな処置じゃなくなる気がするぞ」


「だよねえ。やっぱり勝手に目覚めたりするのかなあ」


「ん-……まあ、多分……?」


 やはりあの女性に何度言われても実際に見ないと何とも言えない。まさに百聞は一見に如かずだ。


「何はともあれ明日からは学校も始まるし、そこで能力を見せてもらうなりしようぜ。なんなら授業であるかもしれないだろ」


「文科省お墨付きの異能力の授業を受けるなんて昨日までの私達に言ったらなんて顔するだろうね。……じゃ、私は部屋に戻るよ。ひとり暮らしみたいでちょっとわくわくするよね。また明日!」


「楽しんでるなあ……」


 ばたんと元気よく出ていった背中を眺めながら思う。しかし実際にお膳立てされた一人暮らし体験だと捉えることもできなくはない環境だ。ならばいっそそんな風に考えて楽しまないと損かもしれない。


「一応人生で一度しかない高校生活だからな……」


 俺としても個人の思い出として楽しかったと胸を張れるくらいにはちゃんとした学生生活は送っておきたいところだ。


「しかし異能力か……どんな学校生活になるんだかな」


 新生活と、眠っている自分の異能へのふたつの期待。その期待は刺激的な生活へと変化を遂げていく。そんな気がしていた。



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