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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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空無色エマ

「それでもこのアタシ……空無色エマ様には敵いっこないだろうけど!」


 カラフルな虹色のラインの入った白いオーバーコート、それを羽織った少女は高らかに叫ぶ。


 その少女を俺は見上げる。白、いや銀髪のボブカットというヘアスタイル。その毛先は虹色のグラデーションが薄くかかり、派手な印象を与え、想像していた引きこもりのイメージとは真逆だ。


「アンタが空無色エマさんだよな! 進藤先生が学校に来いってうるさいぞ!」


 とりあえず叫ぶ。まずはこちらの魂胆を伝えておかなくては。例え聞き入れられないにしても。


「あっそ。アタシがそんなこと聞くと思ってんの?」


 見れば彼女の周囲には水色の氷柱のようなものが漂っている。針のように尖ったそれがこちらを向いていることから使い方はもう明らかだ。


「いきなさい!!」


「くっそ、話すより手が先に出るタイプかよ! ……けど、こんなもん炎で一瞬で溶かせるだろ! しの!」


「任せて! 《炎撃(フレア)》!」


 しのが作り出す炎は、エマが不意打ちしてきたそれに比べると火力が足りないように見える。けれども異能は使いようだ。


「壁になって!」


 炎が薄く広がり、俺としの、そしてエマとの間に立ちはだかる障壁となる。


「そんな弱い炎、突き破りなさい!」


「いいや、それは無理だろうな! 炎が氷に負けるかよ!」


 氷柱のドリルが炎の壁を食い破ろうと高速回転しながら迫る。しかし回転数を上げようと、先端がどれほど鋭利であろうと、それはきっと叶わない。


 なぜならそう上書きしたからだ。


「な……なんでよ!?」


 炎の壁は正確にはカーテンと呼んだ方がいいほど薄っぺらい。氷柱の接触する時間は数秒にも満たないだろう。


 けれどもそこは問題にならない。一瞬でも触れさえすればいいのだ。触れた瞬間、氷は水に豹変する。


 そんな真似をするにはどれだけの熱量がいるのか俺は知らない。知らないができそうだと思ってしまえばそれはたいてい現実にできる。それが《上書き》の力だ。


「おかしい、アタシの異能がこんなに弱いはずがないじゃない! ……そこの男! 何かの異能を使ったわね!」


「さて、どうだろうな。そっちの異能を教えてくれたらヒントくらいは教えるかもしれないけど」


「あっそ。それなら……暴くまでもなく仕留めるまでよ!」


「は?」


 ――消えた。エマの姿が。聞いた話では彼女の異能は原理不明の直接的な攻撃だったはず――。


「倒れなさい!」


「っ……く!」


 いきなり真正面から現れ、放たれた蹴りは予測不能、回避も何もできたものではなかった。


 引きこもりとは言うものの、体を鍛えているのか重い一撃で島に来た初日にでも受けていたら気絶していたかもしれない。


「……昨日散々ぼこぼこにされたからな。今更これくらいで音は上げないっての」


「その割にはまあまあ苦しそうに見えるわね」


 膝が地につくが、ダウンするほどではない。まだいける。苦しいと俺が思わなければそれは苦しくないことになる。


「それはあくまで……見えるだけだっての!」


 駆け出し、掴みかかりにいく。男子だろうが女子だろうが、異能力者相手なら多少の暴力は許されるはずだ。


 とりあえず動きを鈍らせて異能を使う瞬間を観察する。そのつもりだったのだが、


「――っ!?」


 何か、硬いもので殴られたような衝撃。おかしい。何も目の前にはないはずなのに。


「何が起きたか……当ててみなさいよ!」


「くっそ……!」


 何か。それが何なのかは一切見当がつかない、何かとしか言えないもの。それが複数、周辺に設置されている。もしくは操って俺に攻撃している。


 分からない以上、《上書き》も使いようがない。


「マジでなんだよ、この能力……!」


 そうこう言っている間にも、謎の殴打攻撃は続き、流石に《上書き》でも防ぎきれない、そう思い始めた時だった。


「――《雷撃》!」


「当たらないわよ!」


 しのの《魔法》による援護をさらりと回避し距離を取るエマ。離れているからと言って少しも気の抜けない緊張感が漂う。


「ふーん。女の子の方の異能は面白そうだけど、男の方は何だかパッとしないわね。さっきのはハッタリかしら? ……飽きちゃった」


 そう言って空に手を掲げるエマ。その手には夕陽を切り取ったかのような眩しいオレンジ色の光が集まっており、それに呼応して地響きが――


「何するつもりだこいつ!?」


「異能ってここまで強力だったっけ!?」


 これまで見てきた異能。炎や武器を出す直接的なもの、周囲の音を消したり何かを上書きする間接的なもの、様々に見てきたが、こうも危険だと思わせる異能は初めてだ。


 こいつは引きこもってるんじゃなくて危なすぎるから隔離している、そう言われた方が納得できるとまで思ってしまう迫力だった。


「消し飛びなさいっ!!」


 閃光、爆風。体の踏ん張りをきかす暇も無かった。


「「うわあああっ!?」」



 *



 ごろごろと地面を転がり、どこへ放り出されたのかもよく分からない。あまりにも唐突な、刹那の爆破事件。


 しのとふたりして地面に転がっているが、どれだけの時間こうしていたか分からない。


「ば、《爆破》能力かよ……しの、怪我ないか?」


「いたた……なんとか無事だよ。そっちも大丈夫そうだね……」


 派手にぶっ飛ばされたものの、重傷を負ったわけではない。そして幸いにして追撃の手は飛んでこない。


 いや。というよりは、


「相手にするほどの強さじゃないって見なされたのかな?」


「飽きたとか好き放題言ってたなあいつ……!」


 腹立つことを言ってはいたが反論の余地はなかった。対等どころか、ろくに妨害することすらできなかった。


 しかしそればかり気にしても何も前には進まない。反芻しても悔しいだけ。考えるべきは別のことだ。


「……けど、あいつは引きこもりだろ。あのアパートから動くことは基本ないはず。居場所は常に把握してんだから、今すぐ仕掛けなきゃダメってことはないだろ」


「一日で解決しろとは先生も言ってないしね。でもどうする? 普通に再戦しても同じことになるんじゃない?」


「……まずは俺の《上書き》が入れられる余地を探さないとな。具体的には……」


 俺が《上書き》でメスを入れるべきは他人の能力、他人の行動原理、思考、周囲の環境だ。


 この中で準備が必要なもの。そんなものは決まっている。


「……空無色エマの素性をある程度でも割り出す。その人間性から介入する余地を見つけてやる……!」


 一歩間違えばストーカー扱いされかねないが、そんなことは、既に興味の範疇外に飛んでいった。


 この時にはもう、引きこもりの改善だとかそんなことは一切考えていなかった。


 ただ、異能バトルというフィールドで負けたくない。その負けず嫌いの精神だけが俺を動かしていた。

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