《魔法》の弱点
ユウ達が空へと消えて、残ったのは私と狙撃手の山田くんだけになった。
「魔女……テメェのことは聞いてるぜ。面白そうな能力を持ってるんだろ?」
「魔女って呼ぶのは悪役みたいだしやめて欲しいかな。どうせ呼ぶなら魔法使いにしてよね」
そう言う私が両腕で構えているのは中型の銃。サブマシンガンだとかアサルトライフルだとか色々種類はあるらしいけど詳しいことは私は知らない。
これは、動きやすく飛距離も悪くない銃を想像して作り出しただけだから。
「異能の銃、俺の銃のパクリかよ。そんな半端なモンで勝負とは舐められたもんだ」
「本当に舐めてるのはどっちだろうねー。……そっちこそ水鉄砲なんかで相手になるの?」
本当は水以外にも何か出せるみたいだけど、その全貌はまだ分からない。今のところは水と竜巻を発射できるということだけしか断言できない。
「言うじゃねえか。水の力は侮れねえ。その恐ろしさはそこかしこで教わるはずだぜ?」
「それだけは否定しないけどね」
互いの得物の引き金に指をかけ、銃口を除き狙いをしぼる。
私は山田くん本体を捉えようとした。同じように相手もこちらを狙うと思ったけれど、狙撃手の狙いは別のところにあった。
「し、下!?」
「オイオイ、こんな至近距離で俺が狙うと思ったのかよ! いいぜ、狙撃のなんたるかをじっくりと教えてやらぁ!」
「あっ……!」
足元に放出した空気を利用し、アーチを描きながら撤退する姿目掛けて射撃をするも、一発たりとも当てることはできなかった。
いや、当てられなかったことよりももっと大事なことがある。
「銃弾が……それだけじゃなくて銃そのものまで消えかかってる……!?」
手に持った重みも軽くなっていき、銃の存在感が消えていくような感覚。
「もしかして……!」
空中に浮かんで山田君を捜索しようとするけれど、それも満足に行えない。辛うじて浮いていると言えるけれど、自由自在に動けるなんてお世辞にも言えない私の《魔法》。
さっきまでと、とても同じ異能を使っているとは思えないこの現象は何が原因になるのだろう。
「どうしていきなり弱まったんだろう……弱まった?」
弱まったのは私の《魔法》? 違う。これはもしかして――!
「っ、ヤバ……!」
見上げれば例の水弾が降ってくる。狙撃手は姿を消し、ここはビルの屋上。つまり飛んでくる軌道は山なりに。
「曲射……!? こんなに正確に狙えるものなの……!?」
こちらの位置を完全に把握しているかのような精度で飛来する弾丸を避けながらビル内部へと続くドアへと向かう。扉を閉めれば狙撃のしようはないはず。でも、
「《魔法》が不安定な状態でこんなに離れた相手を倒すの……!? 本気で……!?」
《魔法》が不安定な理由は多分、ユウと離れたから。私の未覚醒の異能を《上書き》している以上、ユウと離れていると出力が落ちてしまうのかもしれない。
「ゲームでいうMPみたいなのが減ったからかもしれないし、ユウに会わない限りは確かめようもないけど……!」
とにかく、このビルから出ないと山田君をどうにかすることもユウの元へ行くことも叶わない。これだけははっきりしている。
「……」
もう一度《魔法》を使ってみる。銃なんて複雑そうなものは案外負担がかかるのかもしれない。だからもっとシンプルな、例えば短剣なんかを作ってみる。
「……うん。複雑なものじゃなければ使えそうだね。後は、長時間使うのもダメかな?」
電子機器の充電のような発想しか出てこないけど、これが的外れだとは思わない。作った短剣を消しながら他には何ができるだろうと考える。
きっと、ギリギリまで《魔法》は私を助けてくれると祈りながらドアに手を掛け、早速その力を振るう。
「脚力だけを強化! 高速で走ってまずはここを離脱する……!」
《魔法》は何も空を飛んだり炎を出すだけが全てじゃない。身体強化だってなんだって叶えてくれる、ユウの《上書き》の後押しがあればきっとできる。
その思いで一息にドアを開けて細い路地を駆け抜ける。直後、バシャバシャという水音とドアが撃ち抜かれて倒れる音がビルの間を反響する。
「やっぱり狙ってたね! 狙撃手は待ち伏せ基本、覚えたから!」
最初の加速だけは《魔法》の力に頼ったけれど、いつその力が弱まるか分からない。だから解除しながらなるべく自分の力で走りながら決めておいた進路を進む。
「銃ならきっと弾切れからは逃げられないよね。だったら水場から離れていけば……!」
狙撃するには私の居場所を知ることが絶対条件。つまり、少なくとも私がどのあたりの位置にいるのか分かる程度には近づいているはず。
さっきから休みなく撃ち込まれる弾丸からもそれが正しいことは示されている。
だったら水を補給できない所まで引っ張って、弾切れを狙う。そうしてできたチャンスに、一か八か、全力の《魔法》を撃ち込んで……!
「弾切れを狙うなんざ無駄なんだよ!」
私の思考を読んだかのような返事がする。
――どこから? 振り返っても人はいない。見渡しても銃口一つ見えやしない。……違う!
「上空……!」
杭打ち機のように真上から向けられた銃口。弾丸が放たれる直前に気づけたおかげで飛びのいてぎりぎり着弾を免れる。
「狙撃だけじゃなくて空まで飛べるなんて卑怯だよね」
「なんでもできると噂の《魔法》ほどじゃねえよ。もっとも《魔法》が噂通りのもんか怪しくはなってきてるがな」
言いながら山田君はふわりと近くの建物に着地する。これは空を飛んでいるというよりも、自身を撃ち上げている……?
「ああ、ついでに教えてやるよ。俺の異能は空気中の成分を圧縮、発射する能力だ。水分を集めて撃ち込むこともできれば空気砲を利用して空だって飛べてしまう。異能ってのは使いようだ、《魔法》ならもっと面白えことができんだろ? 見せてみろよ!」
そこまで喋って山田君はトリガーを引く。会話ができるくらいの距離なんだから、発砲から着弾までに動ける時間はほとんどない。
おまけに今ここは遮蔽物の少ない道路。身を隠す場所がぱっと思いつくようなところでもなくて……!
「……きゃっ!?」
命を奪われるほどではないけれど、血も出ているし動かすと痛む程度に威力のある弾丸。それがパンパンと手足にヒットしていく。
躊躇なくそういうことをしてくるってことはこの島ではこのくらいの怪我は日常茶飯事扱いだったりするのかな……?
うずくまりながらそんなことを考える私に失望したような声が投げられる。
「オイオイ、マジでどうした? もっと燃えるような戦闘を期待してたのに一方的なゲームじゃねえか。期待はずれだなあ、オイ」
「奇襲仕掛けておいて好き勝手言うよね……!」
だけど、ここまで言われっぱなしで引き下がるのもどうかと思う。
……いいよ、それなら私の《魔法》で!
「お望み通りに燃やすから!」
銃口をしっかりと見つめて《魔法》に念じる。お願い、あの人に一泡吹かせて……!
「そうこなくっちゃあ――なっ!?」
臨戦態勢に入り、射撃を開始しようとした山田君の銃。それが唐突に爆発、炎上した。言うまでもなく相手が失敗を犯したわけではない。
「今だよね……!」
武器を失った狙撃手を尻目に走り出す私。銃はあくまで能力を引き出す装置のようなもの。破壊したところで無力化できるわけではないけれど、立て直しに時間はかかるはず。
「魔女、テメェ何しやがった!」
「圧縮発火で検索してね!」
水を撃ち出す時、多分空気を圧縮して水分を取り出すんだと私は予想した。そして空気を思いっきり圧縮すると温度が上がって火がつくということもどこかで知った。
じゃあ、水が撃ち出される瞬間に銃口にガソリンを《魔法》で生成すれば……!
「文字通り燃え上がって爆発するってわけだよ」
……爆発と言ってみたものの、私が思っていたよりも爆発は大人しいものだった。《魔法》の力が弱まっているだけ、ガソリンの量や質が落ちたんだと思う。
「やっぱりこれじゃ……決め手に欠けるね……!」
どうしても力が出ない異能、これを何とかするにしても山田君を倒す算段をつけるにしても使える時間はもう今しかない。
次に何の策もなく鉢合えばズドンと撃たれてそれでおしまい。
「私はユウじゃないから、屁理屈で解決することはできない……でも、きっと何かがあるはずだよね!」
《魔法使い》を名乗るなら、これくらいのピンチを華麗に解決してみせないと。
そう決意して、私はある準備を始めた――。




