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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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狙撃と分断

 昼下がりの市街地。太陽がじんわりと照らすのどかな孤島には、その場に似合わないような嵐がふたつ。


「うわっ!? なんだ今のは!?」


 その嵐は通行人を跳ね飛ばしながらどこかへ向かって突き進む。


「くそ! ただの水鉄砲かと思ったら意外に凶悪だぞこれ!」


「手足を狙ってくる弾丸はかなり威力を上げてきてるよね!」


 実際、何発かは手足にヒットしてしまったのだが、軽い出血と痛みを感じる程度には威力がある。


 相手も探り探りで水の勢いを調整しているのか、少しずつその威力を上げてきているような印象を受ける。


「そのくせして顔面には威力を落として当ててくるし……何なんだこいつ……!」


「すぐに場所も移動されるし、本当に陰湿だね!」


 さっきから狙撃地点に急行しているのだが、依然として狙撃手の姿は見つけられない。


 それどころか、完全に別方向から新たな凶弾が襲ってくる始末で完全に手玉に取られている。


 足音も気配も感じさせず、何をどうして移動しているのか……。


 いや、今考えるべきは理屈ではない。起きている事象への対処法だ。とにかく狙撃をやめさせたいとなると……。


「しのっ! ナイロンの生地を出せるか!?」


「魔法というより手品みたいなことさせるよね……これでいい!?」


 理由も聞かずに即座にマントにでもできそうな大きさのナイロン生地を《魔法》で作り出し、こちらへと投げてよこす。


 つるつるした肌触りはまさしく本物のナイロンだが、ひとたび《魔法》を解除すれば幻となって消えてしまうのだからしのの能力は不思議だと思う。


「とにかく……! ナイロンは撥水性、つまり水を弾く! なんなら弾き返して撃ってきた奴に当てられるだろ!」


 水を弾くという性質は、常識的にはカウンターができると言っているわけではない。が、俺がそう解釈したのだから現実もその物理法則に従わなくてはならない。


 なぜなら俺の能力は屁理屈で現実を上書きするものだからだ。


 闘牛士のように布を構えて、牛のように直進してくる水流が中心に吸い込まれるように位置を調整する。


「跳ね返せ……!」


 水の弾丸がナイロンを突き破ろうとする勢いが布越しに伝わってくる。


 が、突き破られない。突き破らせない。俺の屁理屈にそんな概念は入れていない。


「ら……あああ!」


 布で撃ち返した弾丸は近くのビルの屋上へと上昇し、破裂したように水滴が飛び散る。


 ――人影が見えないのは脱出したからではなく、負傷して動きが止まったからか。


「しの!」


「任せて!」


 パチンと指を鳴らせばふたりの体は宙に浮かび、狙撃位置目掛けて一気に移動する。


「こっちが狙われる前に行くよ!」


 弾丸を弾き返されたからか、急に空を飛んだからか、もしくはその両方か。


 動揺が弾道に乗ったように、先ほどまでとは打って変わって狙いの精度が低下している。


 しかし、下手な鉄砲も数打てば当たる。その方針に切り替えたのかひっきりなしに弾は飛んでくる。


「一気に抜けてそこから二手に分かれる! 狙われにくくするぞ!」


「分かったよ!」


 弾幕を切り抜けビルの屋上に突撃する。着地した瞬間に俺は右に、しのは左に走り込む。


 直後に振り返ると、着地位置には水玉がふたつ。雨が降ったものでも、たまたま残っていたものでもない、攻撃の証だ。


「オイオイ……今のも避けるのかよ、ったくちょろちょろしやがって」


「だから言ったでしょう。そんな見え見えの攻撃で終わるほど馬鹿ではなさそうですよと」


「うるせえな相棒。潰しがいがあるかの確認だ確認。そう思えばいいだろうが」


 ビル内部から屋上へと続くドアの上、そこから狙撃を試みたふたり組がそんな会話を繰り広げる。


 ライフルを持った狙撃手の男は、茶髪をモヒカンのように中央に集めた、いかつい風貌だ。


 が、会社員のようにスーツを着ているわけでもなく、目に見えて高級そうな服を着ているわけでもない。ジャケットが大人びて見えるが年齢としては同じくらいか。


 もう片方は黒髪をセンター分けにし、さらに眼鏡をかけたインテリ系の典型とも呼べるような人物だ。さっきの会話の口ぶりから察するにモヒカン男と同世代だろう。


「……ってことは、あの学校に通う生徒と見るのが妥当だよな」


「ええ、いかにも。私は佐藤、そしてこちらは狙撃手の山田です。ああ、名乗らなくても結構です。知っていますので」


 一方的に知られ、そのうえ奇襲までかけられるとはどういうことか。警戒は緩めずにしのが率直に問いただす。


「そんな佐藤くんと山田くんが私達になんの用? いきなり異能で襲いかかるのはどうかと思うんだよね」


「オイオイ、用なんて決まってるだろ? 昨日の楽しみを奪ったテメェらに報復するためしかねえだろうが」


「楽しみ……? 別にアンタらの邪魔なんてしてないと思うけど」


「まあ……理由なんて後でいくらでも聞かせてあげますよ……山田!」


「任せな……吹き荒れろォ!」


 山田が、肩にかけていたライフルをこちらへと向ける。咄嗟にナイロンを掴んで前に出るも、その銃口から放たれたのは水ではなく不可視の弾丸――風だった。


「「!?」」


 俺としの、その間に着弾したらしき弾丸は嵐へと変貌する。と理解した頃には宙に投げ出されていた。


「くそ……風力、半端じゃないぞこれ!?」


 既に踏ん張りを効かせる地面はなく、空飛ぶ《魔法》を使っても逆らえない暴風の中を山田佐藤コンビだけが風を操り接近する。


「まずは俺達の鬱憤を晴らさせてもらわねえとなァ!」


「丁度ふたりいるのは都合がいいですね。さらに私の能力とも相性がいいとは僥倖というものでしょう!」


「っ!」


 突如、俺の首根っこを掴みながら佐藤が戦線を離脱する。


 ――獲物を取り合わない。つまり俺達を分断して襲うということか。


「ユウ!?」


 だが、俺達だってふたりいないと身を守れないなんてのは困る。


 ふたりで組めばなんでもできる能力は、当然単品で使っても弱いはずはない。


「問題ない! 狙撃手は任せた!」


「……! オッケー! そっちこそ駆けつけた頃に気絶してるなんて止めてよね!」


 そのまま俺と佐藤はビルから離れた裏路地へと吹き飛ばされ、屋上には狙撃手の山田としのが残ることとなった。


「随分と余裕がありますね……。君の能力の弱点を私は突けるというのに」


「そういう台詞は弱点を突いてから言うもんだと思うぞ」


 余裕を含ませながらそう返しつつ訝しむ。目の前の佐藤は武器らしきものは持っていない。


 山田のように狙撃で戦うような異能ではないということか……? なら、どうやって襲いかかるつもりなんだ……?


「なんにせよさ、弱点があるならあるで上書きしてしまえば問題ないんだよな。わざわざ弱点あるとか教えてくれるんだから、俺の異能も知ってるんだろ」


 まずはそう言って自分の異能を補完する土台を作る。「弱点は上書きできる」という前提があるなら勝利に結びつけることはいくらでもできるはずだ。


「その余裕がいつまで続くでしょうかね……!」


 眼鏡の位置を正しながら、ゆらりと動きながら徐々に近づいてくる佐藤。


 それに対して、愚直に殴り掛かる俺。


 ――ふたつの拳が交わってから俺の致命的な弱点を突かれるまでに、そう長い時間はかからなかった。

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