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屁理屈オーバーライト  作者: 新島 伊万里


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水を差される

「ユウの言った通り午後からの授業になってくれて良かったよ……。それはそれとして授業を取り止める屁理屈とか思い浮かばなかったわけ……?」


「感謝か糾弾、するならどっちかにしろっての。まだ脳みそは寝てるんじゃねえの……か……」


 睡眠不足で不機嫌なのかぶつぶつ言うしのをあしらう俺だが、実際は人のことは言えず気を抜くと睡魔にいいようにされてしまいそうな自分がいる。


 あの後はひたすら脱出計画をノートに書いていた。実現できるできない関係なく、とにかく何でも書きまくってノートを一冊埋めきった。


 机上の空論以上、完全犯罪未満のアイデアがごろごろと転がっているのを確認して力尽き、体が休まった実感もないうちに起きて今登校している。そんな感じだ。


 しかし体調が万全でないにせよ、学校には行かねばならない。勉学? 学生の本分であることにケチはつけないが理由はそこではない。


「サボって目をつけられても困るし、それに……フィールドワークは大事だからね」


「こうやって見渡してる何が手がかりになるかも分かんないしな。アンテナ張りつつ色々見ておかないとな」


 学校内の施設、通学路、立ち並ぶ店。何が脱出に役立ち、どこで監視されかねないのか。


 そういうことに熟知しないと脱出なんて論外だ。そういうやんちゃをしても笑って許してくれそうな人間がどの程度いるかも把握しておきたい。


「おはよう! いいや、こんにちは、ですかね? 相変わらず仲良いおふたりですねー」


 背後から声をかけてするりと横並びになって歩く眼鏡をかけた小柄な少女。いや、少女に見えるが同い年だったような……。


「こんちは……っと」


鈴代(すずしろ)さん。鈴代カンナさんだよ」


 名前が出てこない俺をフォローするようにしのが割って入る。初めて聞いた名前かは定かではないが、これで覚えた……と思いたい。


 とはいえ、名前を覚えてはいないものの印象には凄く残っている人だ。


「昨日は的確な指示ありがとな。凄く助かった」


 ――監視能力。それが彼女の異能だ。詳細は分からないが俺達と進藤先生のドタバタを監視できているあたり、かなり自由度の高そうな能力だと思う。


 もしかすると脱出計画を練っている、もしくは実行した瞬間すら監視されるかもしれない。俺たちにとってはかなり危険な異能かもしれない。


「いやいや全然! 私ができるのは位置の把握だけ。実働部隊の皆さんがいてこそですので!」


 謙虚に、それでいてはきはきと話す彼女はどことなく大勢から慕われるような雰囲気を醸し出す。


 だからこそ昨日のような統率が取れるのだろう。


「それにしても昨日あんなことした翌日に授業って中々ハードだよね。鈴代さんはもっと早くにこの島に来てそうだけど慣れてるの?」


「んー、私含めて皆さんだいたい一年以上前からここで暮らしてますが、すぐ慣れてましたよ! ただ、これまでの《避難訓練》は明け方くらいまで長引いて翌日休みだったりしたんですよね」


 裏を返せばそれは長引かなかったから今日授業が行われるという意味に他ならない。


「しのが調子に乗って市街地で暴れるから……」


「いや……異能を身につけたらテンション上がるのは仕方ないでしょ!? それに《上書き》で休みにしなかったユウの落ち度でもあるよこれ!」


 互いに悪者に仕立て上げようと口論をかます横で鈴代さんがけたけた笑いながら呑気に喋る。


「仲が良くて楽しそうですね! 島に知り合いふたりでやってくるというのは何気に異例ですし見てて面白いですよー……あっ」


 それだけ言うと、思い出したように俺たちの前に出て小走りになる。


「部活の用事があるのを忘れてました! というわけで先に行きますね! 部活選びに迷ったらぜひ我らが新聞部に! ではではー!」


 それはまるで特ダネを見つけた記者のような俊敏さであっという間に姿が見えなくなる。


「それにしても新聞部か……。あの人の異能ならばんばんスクープ取れそうだよな。……ところで、部活とかどうするよ?」


「どっちでもいい気もするけど、異能力者の部活ってどんなのがあるかは気になるよね。一度鈴代さんのところにでも行ってみようよ」


「そだな。とりあえず何やってるのかは気になるもんな」


 異能力者の部活か……。アニメや漫画でしか見たことのないような現実離れした技の飛び出すスポーツとかできたりするのだろうか。


 しかしそんな運動系の部活があったとして全国大会などは存在するのか? そもそも身内以外に試合の相手はいるのか……?


 などと入る気のない運動部について不毛な考えを巡らせていた時だった。


「っづあ!?」


「え!? どうし、きゃっ!?」


 顔面にいきなり何かが飛来する。接触した瞬間に炸裂したそれだが、徹甲弾のようなヤバい兵器ではないらしい。当然だが。


「み、水か? これ……」


 顔に付着した液体を拭うとそれはただの水。みたところ無色透明で体に不調も起きず、普通の水のようにしか見えないが……。


「ユウ! こっち!」


 分析しようとする俺を引っ張って、立ち並ぶ建物の隙間に連れ込むしの。


 直後、俺達の辿った道筋をなぞるように何発もの水の弾丸が道路に染みを作っていく。


「誰が何のためにやってんのか知らないが……」


「確実に私達を狙ってるのは確かだよね……」


 もしも、本土でつまらない嫌がらせを受けたとしたら教師とか弁護士とかに相談すればいい。悪質な犯罪に巻き込まれかけたなら警察に駆け込めば何とかなるとは思う。


 この島でもそういう基本原理は多分変わらない。然るべき組織――どうせなら新聞部とか――に駆け込めば万事解決するのだとは思う。


 だが、今の俺達は虎の威を借るだけが選択肢にあるのではない。


「目的は不明でも、多分これも異能を使ってんだろうな。だったらさ、異能力者らしく反撃するしかないよな。異能(これ)で」


「ユウもそう言うだろうなと思ってたよ。顔に水をかけられて目も覚めたし……またひと暴れしちゃおうか!」


 その言葉と同時にふたり揃って路地から飛び出す。通行人の影に隠れて、狙い辛くなるように動きながら狙撃地点を探し出す。


「いくぞ!」


「いくよ!」


「「二体一で返り討ち!!」」


 そう言って、少し後に始まる午後の授業のことを完全に忘れて俺達は走り出した――。

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