01.氷結の城にて
急速に凍てついていく、見慣れた城内で。
両親や家臣たちの慌てふためいている姿を尻目に、私は座したままガイとトレのことを思い出していた。
子どもの頃から一緒に居た、私の大切な双子の護衛。
ガイは剣術が得意で近衛師団、トレは魔法に精通していて魔法師団に所属していたけれど実際警護部隊を離れることなどあり得ないとたかを括っていたのがまずかった。
1週間前探しても見つからずどこへ行ったのか知らないかとぼんやり侍女に尋ねてやっとふたりに頼らなければならないほど戦況が悪化の一途を辿っていることに気付いたのだ。
お別れの言葉どころかふたりがどこに行ったのか、今どうしているのか。
何も知る術がない私に、皇女という肩書を名乗る資格などないというのに。
「皇女様、早く此方へ!」
誰かが大声で私を呼ぶ。
一瞬フロアのどこかに脱出口としての穴でも開けることが出来たのかと期待してしまったが、床一面氷で真っ白で、鋭利に尖った氷が無情にも扉も壁を越え目前まで迫ってきている状況では私など二の次だろう。
私を呼んでいたのは目深にローブを纏った老婆で、確か魔法師団に所属していた者だった。
椅子と階段を駆け降りると、階段脇の床に描かれた円の中心に立たされる。
これは…魔法陣…?
見知らぬ文字や、形が幾重にも連なった円。
今までのうのうと暮らしてきた私にもそれがただの落書きでないことは分かった。
「…正式な聖女でなくとも…此の程度の大きさが限界か…」
老婆は何やらぶつぶつと呟いていたが、何処からともなく現れた同じローブを纏った4人の詠唱の声によって最後まで聞き取ることが出来なかった。
その詠唱によってか、魔法陣は光りはじめすぐに視界も明るい白一色となった。
そして何度も
『1000年の刻を眠りし皇女、此の怨恨を魂に宿し必ず報復を為す』
という声だけが煩いほどに反響してくる。
嗚呼、私はここで終わるのか。
手先が光の粒になっていくのを見て、目を閉じた。
報復など、どうでもいい。
ただ来世があるとするのなら、ふたりに笑顔でおかえり、と伝えてあげたい。