固定スキルが«現実逃避»の俺は弱いといわれパーティーから追放されたが、スキルの真の力に気づいた (短編)
「悪いが、パーティを抜けてくれ」
戦士のジェオにそう言われたのは、冒険者の集う街“マカナ”のすぐ傍森の中にあるダンジョンから出て来た時だった。
ゴブリンの群れを多少無茶して全部倒してボロボロになって、せっかく安全なところまで来てほっと一息ついた時に言われたからはっきりいって、脳を削られたようなショックだった。
街で生まれ、共に育ち、二人で冒険者になろうとずっと一緒に特訓してきて、そして大人になってから何度か一緒に二人きりで冒険してきた奴に言われたから。
冒険者――危険なダンジョンに潜り怪物と戦い、未発見の生物を発見したり貴重な素材を調達したりして金を稼ぐ。
死ぬ事もあるが、名誉や金銭を得る事も出来る憧れに満ちた職業だ――
「特に、固定スキルが意味の無い奴はいらない」
――そして、そんな事をしていると声を聴く。
”固定スキル”とやらを教える声だ。
ジェオは«剣神の子»と聞いたらしい。それから、剣の扱いが異様に上手くなったそうである。
そして俺が聞いたのは«現実逃避»冒険者として最低のスキルだった。
このスキルは“感じたくないものを感じなく出来る”効果を持つ。
ちなみにコレはゴブリンが突然変異したのであろう、俺の体の4倍サイズである巨人ゴブリンと戦っている時に身に着けた。(ジェオのスキルもその時だ)
見たくないモノを見ない、聞きたく無いものを聞かないことが出来る。
例をあげよう、見るだけでもイライラしてくるようなデザインの服を友達が着ていたとする。
しかしこのスキルを使えば、それを無地の服のように見る事が出来る。
日常生活には便利、かもしれない。
しかし、冒険とは嫌なものをしっかり見据えねばいけないものだ。
本当にこのスキルは何の意味も無い。
しかし、ジェオの言うパーティ解散は納得がいかない。
「俺の剣技はソコソコのモノだろ!?」
剣は大概の人間に負けない自信がある。
「剣しか使えないくせに、剣ですらソコソコ程度でしかない、いつも攻撃を食らいまくってお前はボロボロだ、俺がお守りをしなきゃ死んでるぞ」
「なんだよ、俺もお前の事助けたりしただろ」
「ハッキリ言ってやる」
「なにを」
「お前は冒険者に向いてない」
―――――――――――――――
ジェオと別れるのを俺は受け入れ、ぼろい酒場で安酒に入り浸っていた。
まずい。
まずいけど、飲む。
ジェオのあの一言、本心からのものに違いなかった。
どれほど飲んだかわからない。けどとにかく飲む。
「お客さん、お金持ってるんですか?」
店員みてーな奴が、たずねてきやがった。
「うっせぇな――」
ついつい、暴言。
それから、酒もあって俺は罵詈雑言を浴びせた。
「あの、お客様」
うぜぇんだよ、向こういってろ、黙ってろ。
そんな風に。
「あれ?お客様?ソレはいったい?」
そんな言葉と共に店員は俺の腰を指さした。
なんだっていうんだ?
見て確認する。何もない。
「いったいなんの話――」
ゴツンと硬い鈍い音がした。
いつの間にか、空を見上げていた。
何故だ?さっきまで、酒場にいたのに。
体中が痛い、街中の裏路地に寝かされていたらしい。
「あぁ、つまみ出されたのか」
多分、さっきぶん殴られ気絶させられたのだ。
つまり、指さしもフェイントか。
あの程度の相手にkoされるなんて、どれだけ精神状態が参ってるんだろうと嫌になる。
青い空が、俺を嘲っているような気がしてくる。
だからって、空を殴ったり反撃が出来るわけでもない。
無視して俺は歩き出した。
行く場所も無いが、立ち止まっているのも無為な自己嫌悪のループに陥ってしまいそうで嫌だった。
歩いていれば、多少気分もマシだ。
しばらくすると。
ぎゃあぎゃあ騒ぎ声。
気晴らしに見てみると。
埃塗れで髪が長い、そんな汚いガキが、つよそうでわるそうな大男に絡まれていた。
ガキ(多分少年だろう)は胸ぐらをつかまれている。
それに痣も体中にある、相当ボコられてる。
男が、ガキをぶん殴ろうと右腕を振り上げた。
「……あ――あ――あ――」
俺には関係ない事だとはいえ、やる事も無い。
なかばヤケクソに俺は大男の腕を掴んで止めていた。
「なんだテメエ」
人を殺したことがある、そういう目で俺を男は見つめてきた。
だが、慣れている。
この目は何度も戦ってきたモンスターと一緒だ。
そして、そのほとんどのモンスターと、俺は一対一で確実に勝てた。
「子供を大人がいたぶってるのは気持ちいい光景じゃね――んだ」
男は標的を俺に変え殴りかかって来た、だけど体を捻ってよけ、足をひっかける。
男はすってん転がるが大したダメージはおっちゃいないだろう。
やはり立ち上がって来た。
とりあえず頭部に蹴りを入れて脳にダメージを入れてから、再びこかす。
そのまま俺は敵に背を向けて。
「逃げるぞ」
「えッ」
ガキの手を引っ張っていこうとしたが、こいつずるりとこけた。
良く見れば右足首が赤い。
軽い捻挫だろうが、子供の足で走るには厳しいか。
大男にされたのだろう。
「痛かっただろ、おぶってやる」
「痛くない!走れる!」
このガキは無理して、走ろうとする。
嘘だ、間違いなく。
「泣いてるじゃねーか」
「泣いてないし」
ボロボロ涙を流しながら、このガキは意地を張って嘘をつく。
そのまま走り出そうとしている。
だが、無茶だ。そんなの意地、虚勢でしかない、無駄。
「ちょっと黙ってろ」
いつの間にか男が立ち上がっている。
俺はガキの意見なんて無視して、背負い、全力で道を駆けた。
しばらくして。
「だいぶ、走ったな、もう撒いたろ」
大通りまで出て来た、人通りもそこそこ多い。さっきの男もここまで追って来たとして騒ぎは起こさないだろう。
「お前、凄いな!あんな大きな相手に」
ガキが背中で騒ぐ。
「まぁ、冒険者だしな、ところでなんであぁなった?」
「昨日街中で宝物を見つけてな、換金しようと思って拾ったら俺のだから寄越せと言ってきた」
ガキは後ろから俺の首に手を回すようにソレを見せてきた。
ゴブリンが仲間に“一気に攻め込むぞ”とかと連絡するようの笛だ、刺々していて木をそのまま使っているような茶色。
モンスター学者等に売ればそこそこの金になるだろう。
奪われそうになるのも、当然だ。
「……ホントにさっきの奴が落としたモノなんじゃないのか?」
「落として失くしたモノはもう、自分のモノじゃなくなっても文句は言えない、常識だろ」
「常識じゃねぇよ」
「第一、ゴミ捨て場に落ちてたんだ、拾って文句を言われる筋合いは無い」
……東の方にはソレを犯罪とする国もあるらしいが、この街にはそういう法律は確かに無かった。
俺にとやかく言う意味も権利も無いだろう。
「さて、礼はしてやる」
俺の背中からガキが降りた。二本の脚で平気で立っている。
「え?いつ治ったんだお前、足、軽い怪我とはいえこんなすぐ治るワケ」
「お前じゃない、マナオだ」
変な名前だ、しかしそれはどうでもいい。
「でも、足……」
「……なおしたんだ、それより礼の話だ」
追究をするのも面倒。ということで怪我は見間違いにしていいやと思ってマナオの言葉に従い話題を変える。
「うちに来い、泊める、飯も無料でやる」
「……わかった」
一瞬反射的に断ろうかと思った、他人と関わるのが面倒だった。
だがしかし家に帰っても家族も恋人もいない、カビにまみれた虫が闊歩している寝床があるだけ。
だから、こいつがそういうなら俺はそれに乗ろう。
そうした方が気がまぎれるだろうと思った気まぐれだ。
そこにはボロ家がたくさんあった。
ゴミ捨て場から拾ってきたようなでっかい板を適当にはり合わせて四角形を作り、正面に穴をブチ開け布を垂らしているようなお宅が一杯だ。
要するにスラム街だ。
窓の隙間などから部外者の俺を警戒してコソコソ見つめている奴がいっぱいいる。
「入れ」
マナオはその家の中の一つ、布が赤い奴の中から顔を出し俺を手招きする。
言われた通り入ると、そこそこ広かった。
寝っ転がっても窮屈じゃない程度には。
なんといっても家具がほとんどない、せいぜい座布団らしき汚い綿と脚が折れかけの低いテーブルがある程度。
それと申し訳程度にボロ布が数枚隅っこの方に畳まって重なっている。その上に水が入っていそうな容器が数個。鉄板が一枚。
照明は天井から明度の低いカンテラがつりさがっている。
以上だ。
他には埃と黴くらいしかない。
暗くて気が滅入る。
虫すらいなくて、ひどく寂しかった。
「こんなとこに一人で住んでるのか」
鉄板を入り口を塞ぐよう置くマナオに聞く。たぶん、外界とこの中を遮断するためのドアを作っているのだ。
大したセキュリティでは無いと思うが、無いよりはマシか。
「まぁ親が死んだからな、でも寂しくはないぞ」
マナオは俺の先程の質問にようやく答えた。
「……」
俺はそれ以上会話を続けられなかった。
パーティを追放された俺、誰も家族がいない彼。
どう感じていようとどちらも孤独である事に変わりないと思った、いや、思いたかった。
似たような人間がいた方が気が楽だ。
「さて、私は服を脱いで体を洗う、向こうをむいてろ」
「……男同士だろ?それに、べつに子供をどうこうしたいって趣味は無いから安心しろ」
といいつつも、俺は言われた通り壁の方を向いた。
マナオが嫌がるのなら、それは尊重すべきだ。
しかし、マナオの反応は意外なものだった。
「女だが?あと25歳だ」
「―――――ッは!?」
マナオの方を反射的に見た。
服を脱いでいる真っ最中。
もう少しで胸の全貌が明らかになりそうなほど脱いでいた。
……肌荒れや傷が多いが、隆線美などを見るに確かに少女だ。いや、20歳を超えてるから女性と言うべきか。
「ゴラァッ!」
マナオは何か投げつけてきた。
キャッチすると共に、壁の方を再び見る。
「ごめん」
そういえば栄養があまり取れないで育つと成長が滞ってしまうと聞いたことがある。それで子供の姿なのだろうか。
俺より3歳年上なのに。
確かジェオが“だからよく食って凄い冒険者の体を作ろう”と俺に言っていた。
投げつけられたもの――小汚いアワを詰められた缶詰を見ながら―――思い出す。
「礼の一つだ、食っていろ」
……ホントに食っていいのか。
コレはマナオにとってご馳走なのに。
「なぁ、マナオは生活苦しいんだろ、なのに今はある程度余裕がある俺がこんなもの受け取れねぇよ」
「見るな!」
俺は蹴り跳ばされた。
避けようと思えば避けれるが、そんなつもりになれなかった。
単に罰は受けねばと思っただけでマゾではない事は留意してもらいたい。
……誰に留意してもらいたいんだろうか俺は。
それから、しばらく。
俺はじっと壁の方を向いていた。
そうしているのも暇だし、あそこまで言われてアワを食わないと逆に失礼だと思って
箸を探す、無い。スプーンを探す、無い。仕方ないので手と手をはたき合わせて埃を払ってから
犬食いと手掴みを併用しながら食べているとゴソゴソと布が擦れる音がした。
後ろで服を脱いでいるらしい。
緊張はするような、しないような、不思議な感覚が襲う。
しばらくずっとそうして食べていた。
尋常じゃなく時間が経った気がするが、せいぜい四分。
再び布の音。
「お前も洗うか?」
そう俺の後ろからマナオが聞く。
「……いや、俺はべつにいい」
反射的に振り向くともう服を着ていた。
安心した。
彼女のどう見ても子供でしかない体躯にどう反応するのがベストか俺にはわからなかったから。
「じゃ、次は寝床だ」
マナオは布団を敷いた。小汚いのが二人分。
さて右と左にあるそれの、右にマナオが寝っ転がった。
隣で寝るのか?
いやまぁ、たしかに睡眠を提供するとは言われたのだからいいのか。
その約束は怪しい、例えば何らかの詐欺が仕掛けられてたりするかもしれない。
とはいえ、今の俺の精神はそんなのどうでもいいと叫ぶ。
だから俺は、あっけなく左に寝っ転がった。
「……お休み」
そう言って目を閉じる。
なるほど、確かにこの布団は柔らかいし上質だ。
見た目以外の全てが良い。
天使が睡眠へ誘うよう。
だが。
俺は悶々とした。
寝れない。
べつに寝具が駄目なのじゃない。
冒険者として、危険巣くうダンジョンの中とか寝泊まりした事もあるから布団が硬いとか汚いとかあったりしても平気なのだ、つまりこんな良い布団で寝れないワケ無い。
だがしかし、目を開ければマナオがいる。
初対面の人(しかも女)と向かい合ってグースカ寝るのは初めて。
異様に緊張する。
現実が俺は未熟な人間だと突き付けていた。
心臓が圧迫される感覚から逃げるよう俺は、目を閉じたまま口を動かした。
「……礼なんてする必要無い、俺がお前を助けたのは勝手な理由からで思いやりじゃない」
「じゃあ私も、礼をするのは勝手な理由だ」
「こんな苦しい生活なのに?」
「何も苦しくはないぞ」
「強がりだろ、それ現実逃避……」
「現実逃避もせずに、生きて行けと?」
「……無意味だろ」
「そう思うなら、そう思ってろ」
気まずい空気だった。
眠る前に嫌な気分だ。
「そういえば、あのゴブリン笛……どうやって手に入れた?冒険者でも無いのに」
この雰囲気を断ち切るため、一切合切話題を変える。
「ゴミ捨て場に落ちてた、珍しい品だったから一応回収した」
「ゴミ捨て場?珍しいにしてもよく手に取ったな、あんな汚いの」
「白魔法使いが夢だったことがあってな」
「あぁ」
だから簡単な返答に留める。
魔法の事はよく知らない。確か白魔法は怪我を治すんだっけか?
……極めれば蘇生も出来るそうだが、大概の人間には才能が無くて捻挫を治す程度にしか魔法が成長出来ないらしい。
ともかくとして俺は続きを促す。
「魔法っていうのは使用自身の持ってる魔力や周囲に満ちた魔力……いわゆるマナを使って発動するモノだ」
「ソレは知ってる、火山とかでは炎のマナが多いから炎の魔法が強くなるとか聞いた」
「で、レアだがそのマナを多く持ってる物質もある……私は魔法使いを目指して努力した時期があるからかマナを感じられるんだ」
「つまりマナを強く感じて、価値のある品だと思ったのか」
俺の目は瞑っていてわからないが、マナオは頷いたと思う。
「……マナを感じられるなんて、結構お前魔法の才能あるのか」
「大した努力しなかったせいか、大きな怪我は治せないけどな」
俺は天井に顔を向け、今度こそ寝た。
明日はここを出て行こう。
そう決めた。
それから十日経った日の朝の事である。
「おはよ」
マナオが俺を起こす。
日の出前だというに、俺らの活動は始まる。
そう、俺はなぜだかマナオとともにスラムの家で住み続けていた。
「……今日はお前どうする?」
マナオにたずねる。
「いつも通りだ」
「そうか」
その会話で切り上げて、マナオは部屋の隅にある携帯食を取って外に出て行った。
働きに行ったのである。
俺もしばらくしたら出て行こう。
……繰り返しになっていた。
俺は朝起きて、マナオとあいさつして、仕事(拾い物の転売や、白魔法使いについて勉強した知識を売っているらしい)に行くマナオと別れる
それから日雇いの仕事、剣士の冒険者だったから力仕事に求められる。
はした金を稼いで、ちんけな飯を買って。
マナオの家に帰る。
マナオも帰って来て、彼女が買ってきたやはりちんけな飯を一緒に食って、寝る。
そんな繰り返し。
「……なにやってんだ俺」
夜家から持ってきた布団の温かさを享受しながらも、俺は苦悩した。
隣ではマナオがすやすや寝ているから、小声でだ。
俺はもはや随分ここになじんだようで、いつの間にか自宅から二人分の良い布団だとかまで持ってきてしまっている。
そのうえ、ドアが今のままではセキュリティ上問題があるからどうにか改築しようとか思ってる。
何か月もかけて、俺はこの家をもっと良くする計画を立てていたのだ。
マナオも俺がいる事を取り立てて糾弾しない。
名前すら聞かずに、ずるずると怠惰に俺を受け入れている。
しかしそんな安寧のせいで俺の中にある情熱がどんどん腐って削ぎ落されていく。
だがしかしそれでいいんじゃないかとも感じてくる。
さらにしかし、理性が叫ぶ。
まだだ。まだもっと何かあるんじゃないか。
このままここでこのサイクルを続け死ぬ気も無いのだ。
11日目の朝。
「今日は、久々に冒険者ギルドに行ってくる」
「なに?そうか、冒険者だものな」
そんな会話だけして、今日は俺がマナオより早く外へ出た。
行先は……先程言った通り。
冒険者ギルドは色々な仕事が集まって来る。
例えば、ダンジョンから帰ってこない奴の救援、モンスターに関する講演会を開く、ダンジョン内で見つけた素材を譲ってほしいなど。
ともかく、今の俺にもできる仕事はあるだろう。
冒険者ギルドについて、入り口を開け、まるで酒場のような空間に懐かしさを覚えながら歩む。
依頼に関する張り紙がたくさん壁に貼ってあった、なになに?モンスターを街中で見たから退治しろ?100件中99件は依頼主の見間違いだ。モンスターがダンジョンの外に出るのはレアケースである。
「お前……?」
聞き覚えのある声がした。
再開。俺の事をジェオが不思議そうに見つめていた。
その隣には人がいる。
「ジェオ、久しぶりだな」
「あぁ、そうだな」
「……ところでお前、そいつが、そいつがお前の新しい仲間か?」
ジェオは頷く。
しかしソイツはこのまえマナオに絡んでいた男だった。
「俺より、弱いんだぞ、ソイツは」
ふつふつと怒りが湧いてきた。なぜ俺を捨ててそいつなんだ。
「……弱い、か、だけどお前には無い力が彼にはある」
「なんだよ、ソレは」
許せなかった。
俺とのパートナーを止めて、俺より弱い奴をパートナーにするのだから。
俺より強い奴をそうするなら納得がいくが、コレはおかしいだろ。
なんだよクソが。
「それにそいつは――――」
マナオから笛を奪おうとしていた事を追求しようとしたが、止めておいた。
ジェオにマナオの事を知られるのは、なんだか嫌だった。
俺を貶めたコイツに彼女の存在を悟られるのは本能が拒否していた。
「――とにかく勝負させろ、少なくともソイツより俺は強い」
俺はジェオに詰め寄る。
今にも殴りかかってしまいそうだった。
だが。
大男が俺に向かって何かを投げた。
「ぐッ」
避けようとしたが、掠る。
ズルりと俺の体中から力が抜けた。
「ワイバーンの麻痺毒を入れた投げナイフだ、数分は動けないぞ」
大男が俺に向け言い放つ。
「彼は深い知識があって手先も器用だ、だからダンジョンで狩ったモンスターから簡素な武具を作れる」
「……動きが緩慢な彼に前線に立って戦う才能こそ薄いが、怪力を活かした投擲で援護も出来る」
そしてジェオはたっぷりと、間を開けてから言った。
強く、鋭く。
「お前の中途半端な強さじゃ、むしろ迷惑なだけなんだよ」
――――――――――――――――――――――――――
その日は、しばらくぶりに現実逃避のスキルを使って帰って来た。
俺より幸せそうで、惨めにしてくる人間を一切認識せずに。
「ただいま」
「おかえり」
マナオはすでに帰って来ていた。俺は今日はもう仕事をするつもりになれず、すぐ帰って来たというのに。
「なんで、もう帰って来てるんだ?普段もうちょっと遅いだろ」
「あぁ、そろそろマナ塗れでレアな笛を売りに行こうと思って直しててな」
笛に息をマナオは吹き込む、だがしかし音が鳴らないらしい。
「これじゃ壊れてるとして値が減る」
「ちょっと貸してくれ、冒険者の方がゴブリンの笛には詳しい」
マナオは俺に笛を差し出した。
あちこちの角度から観察し、すぐにならない原因がわかった。
全身全力思い切り吹いて見ると、小石が噴出す。コレが詰まってたせいで上手く行かなかったのである。
……ゴブリンの知能は人間よりは低く(といっても幼児よりは高いが)物の扱いが雑、こういう風に奴らの道具は妙な壊れ方をしがちなのだ。
もう一度吹くと高らかに吐き気のする音が出た。ゴブリンにとってはこれはいい音楽らしいが人間のセンスにはちょっと合わない。
「おぉ!冒険者の肺活量が必要だったか!」
確かに小石のサイズは笛を壊すのにベストであった。ある程度以上強く息を吐ける肺が無ければ治しにくいだろう。
「凄いなお前!」
マナオが褒めるが、冒険者としての俺は相方に見捨てられ、先程醜態を晒した奴なんだ。
黙ってほしい。
「……固有スキルも良かったら良かったんだけど」
つい声に出た。
「あまり気にするな、私も固有スキルとか無いしな」
心が、少し楽になった。
が、気づく、彼女と暮らす事によって何だかんだで落ち着いてしまう事が、俺をここに縛っている。
「なぁ、俺がここにいるのって迷惑じゃないか?俺は一人でも生きてけるんだからもしそうなら追い出したってかまわないんだぞ」
「……久々に家族がいるみたいで、意外とこの生活を私は気に入ってる、だからここにいろ」
あぁ、また心が落ち着く。
だから出よう。
ここを出て行かないと、完璧に腐りきってしまう。
そうなるのが怖かった。
夜。
俺は街の外へと道を歩む。
マナオには手紙を書き残しておいた。
突然出て行く事への謝罪、10日間泊めてくれた事への礼、これから俺は冒険者に戻ってどこか遠くの街に行くという事。
ひどい事だと思う。
だけど、俺は出なければならなかった。
足取りは重いし、視界は滲みそうになる。
孤独感は襲う。
だからこそ、このまま道を進んでいかなければならない。
しかし
ぎゃあぎゃあと、やけに騒がしい。
なんだっていうんだろう。
イラつきながらも歩みを進めていくと、正面から大量のゴブリンが俺に向かって走って来た。
10体くらい。
「うわッ!」
思い切り横に飛びのくと、俺のことなどどうでもいいようにゴブリンは走っていく。
組織的な動きだ。
……なぜだろう。
そういえば。
――――――ゴブリン動かす 笛吹いた 依頼書にあった街中にモンスター 関連ありそう―――
いや、関係ない。俺はこの街を出て行くんだ、どうせ治安維持のためにいる兵士とかがゴブリン程度鎮圧する。
道をゲシゲシ歩く。
マナオと反対方向に。
ふと、ゴブリンが俺と反対方向に行ったのだからマナオのスラムへ行くんじゃないかと気が付いた。
「ッ」
……兵士が来るまで時間がかかるのは当然、その間被害者が出る。
ソレでアイツは。
どうなのだろう。
取り返しのつかない被害者に入るだろうか?
そう思った瞬間、振り向いて走っていた。
死ぬ、マナオが死ぬ。
ソレは俺の情熱や信念、決意を吹っ飛ばしてしまったらしい。
まとめた荷物を投げ捨て、戦いに必要なモノだけ持って走った。
――――――――――――――――――――――
案の定マナオの家のそばではゴブリン達が惨劇を繰り広げていた。
確か先程の笛の音は“笛の場所に全員集合、各自周囲を攻撃せよ”だからだろう。
……ともかく、街の人達は逃げ惑う、ゴブリンはそれを後ろから攻撃して殺す。
そんな劇的な状況をくぐり抜け、すぐ傍でゴブリンに殺されそうなオッサンがいたからゴブリンを蹴飛ばして進み、マナオの家に押し入ろうとしてる奴を切り殺して。
そのままマナオの家に飛び込んだ。
「マナオ!?大丈夫か!?」
やはりいた、ゴブリンの襲撃があって下手に外に出ず家の中でじっとしていたようである。
良かった、間違いなくそうしたらもう彼女は死んでいた。
「あの手紙は、なんだ」
「今そんな事言ってる場合じゃないだろ」
鉄板で入り口を塞ぎながら会話する。
「……とにかく、このままじっとして、家にゴブリンが入ってきたら俺が倒す」
「だが、あの笛のせいで――こうなったんじゃないのか?」
マナオはどこかから拾って来たのであろう、魔法使いが使いそうな杖(といっても簡素なモノだが)を手にしていた。戦いに行くつもりか?
だが彼女がそうしたら間違いなく死ぬだろう。
「とにかく、今から俺がゴブリンを倒してくる、お前は出来るだけ入り口を強固に塞いでじっとしてろ、ヘタに二人で行くと邪魔しあうことになる」
よし、こう言っておけば戦いはしないだろう。鉄板を入り口から離してまた外に飛び出す。
「お前――」
マナオが後ろで何か言ってるが聞く余裕なんて無い。
ゴブリン達が暴れてる。しかも、今は10体。
集中しなきゃ死ぬ。
単体ならある程度の冒険者なら問題にはならない。
しかしこの場合脅威だ、俺は一人なのである。
なんせ奴らは連携が巧い、一匹と戦う間に二匹が後ろから襲い掛かかってきやがる。
背中を守ってくれる仲間がいれば、どうにかなるのだが。
ゴブリン一匹を切り殺して、残り九。
だが、それらが一斉に俺の方を向いていた。
ヤツラにとって一番危険なのは俺だと認識したようである。
「誰か戦える奴は!?」
逃げ惑う人達に叫んでみても、そんな奴いるわけない。
戦えないから必死で逃げ惑ってるのに。
……クソ、せめて背中を守ってくれる誰かがいれば、俺は奴らを狩れる。
だがしかし、いない。
現実は非情である。
ゴブリンは俺を取り囲む。目を背けたくなる。
二匹が左右から同時に俺に襲い掛かってきた。
「あぐッ!」
左からの攻撃は避けたが右からの攻撃が俺の右腕に掠る。
思い切り後退して距離を取るも、大した状況の変化にはならない。
血がぽたりと俺の靴に墜ちた。
……ヤバイ。
普段は雑魚のこいつらが、恐ろしい。
数の暴力に蹂躙されてしまうだろう。
逃げるべきか?
だがしかし、このままいけばだいぶゴブリンの数は減らせる。
それに治安維持兵士の到着まで誰も殺されずすむ……俺以外は、という補足をつけての話だが。
中途半端に力があるから、むしろ俺は決めきれずにいた。
ゴブリンどもがこちらを見る。
隙だらけだったのだろう、標的に決めたらしく一斉にこちらへ走って来た。
ゴブリンの剣技は、雑だ、落ち着けばなんてことはない。
それも相手が“一匹”の場合。
しかも。ゴブリンと一人で戦うのなんて、始めてだった。
困惑が迷いを生み、生存本能を呼び起こす。
視界が滲む。
やばい。
膝が震えていた。
激しい感情が俺の中に吹き荒れていた。
足がすくむ。
腕の血が視界に入る。
死にたくは、ない。
だからといって逃げたくも、ない。
矛盾する二つの感情は俺をこの場所で止めた。
あぁ‼ ゴブリンどもが近づいて来る!
俺の体は剣を構えただけで、攻撃されてもきっと反応できない!
このままだとやられる。
「先に逃げろ!お前が死ぬぞ!」
「……ッ!」
真後ろからマナオの声がした。
マナオが虚勢を張っている。どう見ても虚勢だ。
俺がホントに逃げたら死ぬのはお前、恐怖心に満ち溢れた中で発した言葉に違いない。
「泣きそうな声で言うんじゃねぇよ!」
なんて文句を言う俺の声も、震えていた。
「泣きそうですらないっての!誤解すんな!」
初めて出会った時のように彼女が虚勢を張る。
「だいたいこんなの怖く無いし、バーカ!」
マナオは普段以上に口が悪い、どう見ても現実逃避してた。
だけども。
いつも以上によく声が張り上げられている。怯えている俺では出せない程のボリュームだ。
……え?
あぁ。
そうだったのか。
ゴブリンがあと数瞬間で俺に辿り着き殺すホドの土壇場で気づいた。
無意味で無価値で、憎んでいたアレの重大な使い道に。
それからもう、俺はもう迷わなかった。
迷っている暇なんて無かった。
頭の中に声が響く。
«現実逃避を使用します»
「うぉらあッ‼‼」
右、正面、左からゴブリンが襲い掛かって来る。
とりあえず右の奴に攻撃を浴びせ、首をはねた。
ソレ以外から攻撃を受けたらしく、一瞬だけ灼けるような痛みが脇腹に走る。
腹の見た目は全然変わってない。
だがしかし、ソレは俺の認識上の問題なのだ。
……本当の腹は多分内臓が出ているのだろう。
きっと見れば泣き出してしまいそうな激痛と恐怖に襲われる。
しかし«現実逃避»していた。
「へッ!効いてねぇんだよ!」
現実を見据えなければ、認識しなければ、馬鹿であれば、俺は動けた。
全ての恐怖を無かった事にしてしまえば、俺は戦えた。
またしてもゴブリンが四方八方から攻撃してくる。
「俺は、泣いてねぇんだよ!」
それらを雑に避けて、反撃、また一匹死んだ。
でも、一撃頭に食らった。ソレだけで死んでしまいそうな痛みが走る。
«現実逃避を使用します»
「雑魚ども!」
また一撃脚に食らう。
自分の体の現状がどうなっているか、考えないためあえて虚勢を張り続けた。
«現実逃避を使用します»
«現実逃避を使用します»
そして残り一匹。二匹程逃げだしてしまったが、こいつは好戦的な個体らしく向かってくる。
自分でも驚くほどの奮闘だ。
だが。
両腕からだらんと力が抜けて、動かない。
まさか……千切れたのか?スキルのおかげでついてるように見えるだけで。
足も左足首から先がよく動かない。
やばい。やばいぞ。
ふと、音がした。
«現実逃避の使用限界が近づいています»
……え?
なにそれ。
え?
知らないんだが。
そういえばこのスキル、俺は殆ど使っていないからそんなのがあるとかわからなかった。
ふつふつと、視界が揺れる。
瞬きと瞬きの間で、世界が切り替わっていく。
あたりが血みどろで、俺の体のあちこちが無くなっている残酷な世界と、あたり一面が綺麗なままな日常らしい世界。
少しづつ、残酷な世界が見える時間が増えていく。
疲労感も、微かに感じる。
スキルが切れかかってるのは事実らしい。
ゴブリンが俺をじっと見据えている。警戒だろう。
もしくは俺のダメージが多いから、自然と倒れてしまうのを待ってるか。
……コイツを殺すまでスキルが持つかはギリギリだ。
失敗したら、戦う力の無いが、逃げ場も無いマナオが死んでラストだ。
自分から進んで、切りかかろうとしたが脚が動かない。
残酷な世界が見えた時、ちらりと白いものが見えた。
思いっきり骨が出るような怪我をしているのだろう。
スキルのせいでわからないが、きっと、相当にひどい状況。
動けないのは当然な程。
剣もしっかり持てていない。
なら。
「来いよ、雑魚、怖いんだろ?」
俺は、剣を捨てて、嘲笑した。
来て欲しくは無かった、だが、あえてそうした。
やはり、短絡的なゴブリンは激昂してその拳に握っていた剣を懐に構えて。
俺に、突進した。
「ッ!」
ソレが腹に、するりと入る。
痛くは無いが、間違いなく致命傷―――
だが、狙い通りだった。
「ふッぐああああああああああ!死ねぇえええええええ!」
叫びで恐怖をかき消しながら。
ゴブリンの首筋に、俺は噛みついた。
«現実逃避の使用限界が来ました»
体中の血液が噴出していく、嗅覚視覚聴覚、全てが朧気と化す。
激痛のあまり叫びすらも、出なかった。
しかし、必死で噛みつき続ける。
ここで離したら全部無駄。
俺は何時間とも、何日ともわからない程噛み続けた。
(ソレは俺がそう感じてるだけで実際は数秒なのだろうが)
それから、放り出される。
ゴブリンから急速に力が抜けたのだ。
ただ痛いとだけ感じた。
仰向けに倒れて、空を俺は見上げた。
無駄に温かい血の水溜まりは、きっと俺の中にあったものの半分くらいで出来ているモノだろう。
あちこちの感覚が無い、左腕や脇腹や右脚、あと背中。
大事な神経があちこちぶっ壊れてしまったのであろう。
夜明けだ。
あまりに青い空と、あまりに眩い太陽が、俺を誘う。目が痛い。
瞼を閉じる事が出来ない、やはり神経が死んだか、瞼自体が抉られた可能性もある。
«スキル、現実逃避の使用は後二十秒で再び使用できます»
……固有スキルをダメ元で使おうとして見たら、そんな声が頭に響く。
なんだよ、クールタイムなんてあるのか。
初めて知った。
痛みと二十秒は突き合うのか、と文句を喉の奥で言う。
だがしかし、体の神経がいかれまくったせいか、痛みの中むしろ俺には穏やかさがあった。
不思議と気持ちが落ち着く。
青い空、白い雲、スラムの地面、そして自分の痛みや思考、何もかもが少しづつ俺から離れていくようだった。
これが。死。
とてつもなく静かな場所へ行く作業。
しかし、コレはおそらくとてつもなく幸運な死。
ずっと、死には苦痛しかないと思っていたが、ソレは所詮道でしかなく死はゴールだったのか?
そう考えた時、俺の意識はぷっつりと途切れた。
それからどれ程暗闇を彷徨っただろう。
目覚めたきっかけは、呼びかけだった。
「おい!!」
遠くで男が俺に声をかけている。
……ジェオの声。
耳を澄ませた。
すると驚くことに、俺の耳がおかしいだけですぐ傍からの声らしかった。
「すまない、俺……お前が無茶するから、冒険者を止めないと間違いなく酷い目にあって死ぬって思ってさ、だから追放したんだ、パーティを」
ジェオか、なんでここにいる?そう答えようとしたけど。声が出ない。
ジェオ、ソレがお前の本音か、とも言おうとした、だけどやっぱり声が出ない。
「おい!お前!おい!」
マナオの声もした。
戦いが終わったのを察したのであろう。
「……彼が戦ってくれたから、被害は最小限にとどまった」
コレは驚き、全く知らない奴の声。
大勢が取り囲んで俺をみおろしているらしい。
その中には兵士だったり商人だったり、色んな奴がいた。
ざわざわと騒いでる。
思った以上に戦いから時間が経っていて、見物人が集まったらしい。
「……すまない、こんな風になるなんて、すまない」
ジェオの声。
小さな温もりが俺に幾つも落ちる。
ソレは涙だった。
口に入り、海みたいにしょっぱかった。
お前、泣いてんのかよ。
あぁ。そうか。
案外、現実もいいモノらしい。
俺が満ち溢れた希望から目をそらして、現実は非情でしかないと、そこにある幸福から逃避していただけ。
……まぁ、今更気が付いた程度で。
「ふざけんな、お前、あんな手紙で私から逃げる馬鹿のくせに、死からも逃げてみせろよ!」
マナオが俺の服をゆっくりと脱がす。
手元に何やら医療道具を持っていた。
そういえば人の怪我を治したりする白魔法使いを目指していたらしいし、多少そういう知識に精通してても変じゃない。
炎を出す魔法を覚える前に”魔法以外で使える炎”について学び、より理解を深める話を聞いた事がある。
まぁ、無茶だろ、もう俺が食らったのは致命傷。
「治してやる!直してやる!なおしてやる!絶対にだ!」
意識があるだけなのだ。視線もロクに動かせないし、もう死ぬ。
というかもう死んでて、俺は幽霊なのかもしれない。
体中の感覚が無いのだ。
「お、おい――ゴブリンがまだ生きてるぞ!」
誰かが叫び、マナオがそちらの方を向いて、何かに気が付いて目を見開いた。
だがすぐに、俺の方を向いてゆっくり口を開け
「……固有スキル«超絶治癒魔法»発動‼‼」
え。は?!
マナオが手を動かすたび俺の感覚が、みるみると戻っていく。
痛みもまた戻って来るが、すぐに通り過ぎていく。
ありえないだろ、こんな事は。
こんな奇跡は。«現実逃避»も使っていないのに。
そう思おうとも、現実はいかんせん甘ったるいものであった。
「……な、治ってるだろオ」
マナオが手を動かしながら言った。
「なんで、こんな、こんな――」
俺の口からは声が漏れていた。
「ここにいろって、言っただろ」
マナオがニヤリとほほ笑んだ。目じりが赤かった。
「……手紙の事、すまない」
「気にするな」
やはりマナオは、その明るい表情を崩さぬままであった。
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俺はジェオと一緒に戦った巨大モンスターに対して“みたくない、ききたくない、逃げたい”と思った。
だから現実逃避という力を得た。
そしてジェオは“倒したい”と思ったのだろう。
だから、剣技の力を得た。
きっと、ダンジョンの中でスキルを得られるのではない。
モンスターと傍にいる時、スキルが得られるのだ。
それも、心の底から「強く、何かしたい事がある時」
だからマナオはスキルを得た。
コレは俺の、俺達の、全てが終わって新たな旅立ちに向かう前まとめた考察にすぎない。
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背嚢に入れた荷物が重い。目の前に広がる森はうんこみたいに臭い。
最悪だった。
「我慢して、行くか」
俺はすぐ右隣のマナオに声をかける。
「あぁ」
返答は短かった。
正面には深く広がる森があった、コレを抜ければまた違う街にいける。
ゴブリンの笛を吹いたのは、俺、そして取って来たのはマナオ。
意図的でないにせよ、街の中にいるゴブリンを暴れさせたのは俺達二人。
だから俺達はゴブリン問題を解決してから街の中で問題視され、裁判にかけられた。
“死刑”にするか“無期懲役”にするかというモノだ。
かといって、被害を食い止めたのも俺らだ。
マナオもその固有スキルで大勢の人間を救助した。
その温情だろう、死刑にならず追放に留められたのは。
そうして俺達は二人で旅に出る事に決めた。
「おい、お前ら」
俺達の後ろから声がかかる。
ジェオも、だった。
ジェオのパーティが追い立てて取り逃がしたゴブリンが今回の事件を起こしたらしいのだ。
そのせいで責任をとられた。
「……あれ、あのでっかい男は?」
大男はいない。何処だ?
「やばい事になる前にパーティを解散して、リーダーの俺に責任を全部押し付けて逃れた」
ジェオはまぁ、そんな事もあるかと笑った。
「とっとと行くぞ、そうすりゃ夜になる前にこの森を通り抜けられる」
マナオはズンズンと進んでいく。
「どうする、俺達のパーティに入れてやってもいいが、追放されるような事すんなよ」
「あぁ、任せろ」
ジェオはすたすたとマナオの後ろを歩き出した。
……さて、では俺はどこを歩こう。
「ま、気楽に行くか」
とりあえず、マナオとジェオの中間に入り、俺は歩き出した。